公開番号2024153597 公報種別公開特許公報(A) 公開日2024-10-29 出願番号2024066081 出願日2024-04-16 発明の名称ポリエチレンテレフタレート由来物質の分解酵素 出願人国立研究開発法人産業技術総合研究所,独立行政法人国立高等専門学校機構 代理人個人,個人,個人 主分類C12N 9/14 20060101AFI20241022BHJP(生化学;ビール;酒精;ぶどう酒;酢;微生物学;酵素学;突然変異または遺伝子工学) 要約【課題】ペットボトルや繊維などに用いられるポリエチレンテレフタレート(PET)のモノマーであるテレフタル酸ビス(2-ヒドロキシエチル)(BHET)やPET原料である難分解性物質テレフタル酸ジメチル(DMT)の分解が嫌気性環境で生じることを培養によって明らかにする。 【解決手段】嫌気性環境を模擬して、BHETと分解機構が不明なDMTを分解する微生物を集積培養するとともに代謝産物の測定を行い、BHETとDMTの生分解が生じることを実証し、ショットガン・メタゲノム解析とタンパク質立体構造予測により、BHET分解活性またはDMT分解活性を有する特定のポリペプチドおよびそれをコードするポリヌクレオチドを見出した。 【選択図】なし 特許請求の範囲【請求項1】 (a1)配列番号1、3または5に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド; (a2)配列番号1、3または5に示されるアミノ酸配列から1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつBHET分解活性を有するポリペプチド; (a3)配列番号1、3または5に示されるアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつBHET分解活性を有するポリペプチド; (a4)配列番号2、4または6に示される塩基配列にコードされるポリペプチド; (a5)配列番号2、4または6に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、かつBHET分解活性を有するポリペプチド; (a6)配列番号2、4または6に示される塩基配列と80%の同一性を有するポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、かつBHET分解活性を有するポリペプチド;および (a7)配列番号2、4または6に示される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列にコードされるポリペプチドであって、かつBHET分解活性を有するポリペプチド、 の中から選ばれるポリペプチド。 続きを表示(約 1,400 文字)【請求項2】 請求項1記載のポリペプチドを含有するBHET分解用組成物。 【請求項3】 好気性および嫌気性環境下でBHETを分解する活性を有する、請求項2記載の組成物。 【請求項4】 BHETをモノ(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート、テレフタル酸およびエチレングリコールに分解する活性を有する、請求項2記載の組成物。 【請求項5】 (c1)請求項1の(a1)に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド; (c2)配列番号2、4または6に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド; (c3)配列番号2、4または6に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、かつBHET分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド; (c4)配列番号2、4または6に示される塩基配列と80%の同一性を有するポリヌクレオチドであって、かつBHET分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド; (c5)配列番号2、4または6に示される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなり、かつBHET分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド; の中から選ばれるポリヌクレオチド。 【請求項6】 請求項5記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。 【請求項7】 請求項6記載の発現ベクターを用いて、請求項1記載のポリペプチドを製造する方法。 【請求項8】 請求項1記載のポリペプチドまたは請求項2記載の組成物を用いて、BHETをモノ(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート、テレフタル酸およびエチレングリコールに分解する方法。 【請求項9】 (b1)配列番号7または9に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド; (b2)配列番号7または9に示されるアミノ酸配列から1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつDMT分解活性を有するポリペプチド; (b3)配列番号7または9に示されるアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつDMT分解活性を有するポリペプチド; (b4)配列番号8または10に示される塩基配列にコードされるポリペプチド; (b5)配列番号8または10に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、かつDMT分解活性を有するポリペプチド; (b6)配列番号8または10に示される塩基配列と80%の同一性を有するポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、かつDMT分解活性を有するポリペプチド;および (b7)配列番号8または10に示される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列にコードされるポリペプチドであって、かつDMT分解活性を有するポリペプチド、 の中から選ばれるポリペプチド。 【請求項10】 請求項9記載のポリペプチドを含有するDMT分解用組成物。 (【請求項11】以降は省略されています) 発明の詳細な説明【技術分野】 【0001】 本特許出願は、日本国特許出願2023-067343号(2023年4月17日出願)に基づく、日本国特許法第41条に規定する優先権および利益を主張するものであり、ここに引用することによって、上記出願に記載された内容の全体が本明細書中に組み込まれるものとする。 続きを表示(約 8,400 文字)【0002】 本発明は、ポリエチレンテレフタレート由来物質であるビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)およびテレフタル酸ジメチル(DMT)をそれぞれ分解するポリペプチド、それらをコードするポリヌクレオチド、それぞれの分解用組成物、および分解方法に関する。 【背景技術】 【0003】 ポリエチレンテレフタレート(PET)は、約80年前に開発され、現在ではペットボトルの生産を中心に世界中で広く使用されている(非特許文献1、2)。PETは、プラスチック生産量全体の約10%を占め、2015年には3,300万トンが製造された(非特許文献3、4、5)。PETはポリエステルの一種であり、石油資源から得られる高純度テレフタル酸(PTA)やテレフタル酸ジメチル(DMT)にエチレングリコール(EG)を縮重合して製造される(非特許文献2)。近年、プラスチック廃棄物の地球上への放出・蓄積が世界的に関心を集めている(非特許文献2、5)。環境中に放出されたプラスチックは、紫外線や微生物分解などの生物/生物変換によってマイクロ・ナノプラスチックに分解され(非特許文献6)、水生・陸生動物の摂取や害につながる可能性がある。そのため、自然環境を保全するためには、放出されたプラスチックの動態をより深く理解することが必要である。近年、都市下水処理場から排出される活性汚泥を処理する嫌気性消化プロセスにおけるマイクロプラスチックの動態が研究されているが(非特許文献7、8)、その嫌気性分解を担う微生物と代謝についてはほとんど情報がない。 【0004】 PET、その三量体、二量体、モノマー、およびテレフタル酸(TA)やDMTなどの原料の生分解は、PET生産プロセス、PET廃棄物、およびそれらの分解副産物の環境影響と生物毒性を評価するために広く研究されている(非特許文献1、9)。PET加水分解酵素は、Thermobifida属、Saccharomonospora属、Streptomyces属の好熱菌やIdeonella属の中温性細菌由来のものが報告されている(非特許文献10、11)。好熱性PET加水分解酵素は、PETの優れた分解速度を示すことが報告されている(非特許文献11)。PETは安定で安全な材料と考えられているが、フタル酸エステルやDMTなどの合成前駆体およびPET三量体などの分解副産物には生物毒性がある(非特許文献1、9、12、13)。したがって、これらの前駆体や副産物の環境中における動態を明らかにすることが不可欠である。 【0005】 PETは、PETアーゼ/クチナーゼを介してビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)とモノ(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(MHET)に分解され、BHETとMHETは、MHETアーゼを介してTAとEGに分解され、DMTはエステラーゼDmtHを介してTAに分解されると報告されている(非特許文献9、14、15、16)。しかし、それらは好気性の生物に限られた研究であり、嫌気性微生物の知見は培養法で報告されていない。マイクロプラスチックのホットスポットには、埋立地(非特許文献4)や沿岸・深海堆積物(非特許文献5、17)などの無酸素環境を含みうる生息地が含まれる。嫌気性条件下でPETとDMTの加水分解に関与する生物と酵素、したがって、自然環境と人工環境におけるこれらの物質の運命は、まだほとんど分かっていない。これまで、PET関連物質の嫌気性条件下での生分解に関する情報は、DMTの分解確認(非特許文献18)、フタル酸分解嫌気性共生細菌(Pelotomaculum 属(非特許文献19)および Syntrophorhabdus属(非特許文献20))、およびPET分解クチナーゼを組換えさせた嫌気性細菌(Acetivibrio thermocellus [旧名Clostridium thermocellum](非特許文献21))に限られていた。 【0006】 なお、PET、PET原料、およびその分解副産物の分解に関連し、以下の文献がある。 PETの原料となるテレフタル酸ジメチル(DMT)を化学的に処理して分解する技術が知られている(特許文献1)。また、テレフタル酸ジメチルに関連し、その酵素処理によって脂肪族-芳香族コポリエステルの生分解を促進する方法が知られている(特許文献2)。PETの分解副産物であるビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)を化学処理により分解することを含む、ポリエステル廃棄物より高純度テレフタル酸を回収する方法が知られている(特許文献3)。また、BHETに関連し、使用済みPETの分解のための酵素学的プロセスであって、プロセスの最後に得られる生成物流において、新しいPETの再重合プロセスで再利用できるBHETが富化されている、酵素学的プロセスが知られている(特許文献4)。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0007】 特開昭53-077036公報 特表2008-500424公報 特開2004-277638公報 特表2021-503035公報 【0008】 M. Djapovic, D. Milivojevic, T. Ilic-Tomic, M. Ljesevic, E. Nikolaivits, E. Topakas, V. Maslak, J. Nikodinovic-Runic, Synthesis and characterization of polyethylene terephthalate (PET) precursors and potential degradation products: Toxicity study and application in discovery of novel PETases, Chemosphere. 275 (2021), 130005, https://doi.org/10.1016/j.chemosphere.2021.130005. M. Volanti, D. Cespi, F. Passarini, E. Neri, F. Cavani, P. Mizsey, D. Fozer, Terephthalic acid from renewable sources: Early-stage sustainability analysis of a bio-PET precursor, Green Chem. 21 (2019) 885-896, https://doi.org/10.1039/ c8gc03666g. E. Barnard, J.J. Rubio Arias, W. Thielemans, Chemolytic depolymerisation of PET: A review, Green Chem. 23 (2021) 3765-3789, https://doi.org/10.1039/ d1gc00887k. R. Geyer, J.R. Jambeck, K.L. Law, Production, use, and fate of all plastics ever made, Sci. Adv. 3 (2017) 25-29, https://doi.org/10.1126/sciadv.1700782. A. Stubbins, K. L. Law, S. E. Munoz, T. S. Bianchi, L. 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Sekiguchi, Syntrophorhabdus aromaticivorans gen. nov., sp. nov., the first cultured anaerobe capable of degrading phenol to acetate in obligate syntrophic associations with a hydrogenotrophic methanogen, Appl. Environ. Microbiol. 74 (2008) 2051-2058, https://doi.org/10.1128/AEM.02378-07. F. Yan, R. Wei, Q. Cui, U.T. Bornscheuer, Y.J. Liu, Thermophilic whole-cell degradation of polyethylene terephthalate using engineered Clostridium thermocellum, Microb. Biotechnol. 14 (2021) 374-385, https://doi.org/10.1111/ 1751-7915.13580. 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 上記背景の下、本発明者らは、嫌気性条件下でのPET関連物質の生分解を理解することは、環境中での物質の運命を解明し、酸素供給を必要としないメタンガスとしてのエネルギー回収など、費用対効果の高い嫌気性処理バイオテクノロジーを開発するために有用であると考えた。 【課題を解決するための手段】 【0010】 本発明において、PET加水分解副産物および前駆体の嫌気性生分解に関する知見を得るため、テレフタル酸(TA)およびテレフタル酸ジメチル(DMT)模擬製造廃水を処理する嫌気性バイオリアクターから得られた汚泥に、それぞれビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)およびDMTを与えてBHETおよびDMT分解微生物コンソーシアムを活性化した(K. Kuroda, T. Narihiro, F. Shinshima, M. Yoshida, H. Yamaguchi, H. Kurashita, N. Nakahara, M.K. Nobu, T.Q.P. Noguchi, M. Yamauchi, M. Yamada, High-rate cotreatment of purified terephthalate and dimethyl terephthalate manufacturing wastewater by a mesophilic upflow anaerobic sludge blanket reactor and the microbial ecology relevant to aromatic compound degradation, Water Res. 219 (2022), 118581, https://doi.org/10.1016/j.watres.2022.118581.)。次いで、BHETおよびDMTの分解を促進する嫌気性微生物を同定するために、16S rRNA遺伝子アンプリコン解析およびショットガン配列を用いたメタゲノム解析と 1 H NMRを用いたメタボローム解析を実施した。 (【0011】以降は省略されています)
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