公開番号2025017371 公報種別公開特許公報(A) 公開日2025-02-05 出願番号2024191126,2020065670 出願日2024-10-30,2020-04-01 発明の名称ヒト条件的不死化細胞を用いた血液脳関門モデルおよびその製造方法 出願人学校法人東京薬科大学 代理人弁理士法人フィールズ国際特許事務所 主分類C12N 5/079 20100101AFI20250128BHJP(生化学;ビール;酒精;ぶどう酒;酢;微生物学;酵素学;突然変異または遺伝子工学) 要約【課題】ヒト不死化細胞を用いた血液脳関門モデルおよびその製造方法を提供する。 【解決手段】(i)ヒト条件的不死化ペリサイトを第1の培地に播種して培養するペリサイト培養工程と、(ii)前記培養したヒト条件的不死化ペリサイトを第2の培地において分化させるペリサイト分化工程と、(iii)ヒト条件的不死化アストロサイトを第3の培地に播種して培養するアストロサイト培養工程と、(iv)前記培養したヒト条件的不死化アストロサイトを第4の培地において分化させるアストロサイト分化工程と、(v)ヒト条件的不死化脳微小血管内皮細胞を第5の培地に播種して、前記播種したヒト条件的不死化脳微小血管内皮細胞を培養する脳微小血管内皮細胞培養工程とを含む、多細胞血液脳関門モデルの製造方法。 【選択図】図2A 特許請求の範囲【請求項1】 (i)ヒト条件的不死化ペリサイトを第1の培地に播種して培養するペリサイト培養工程と、 (ii)前記培養したヒト条件的不死化ペリサイトを第2の培地において分化させるペリサイト分化工程と、 (iii)ヒト条件的不死化アストロサイトを第3の培地に播種して培養するアストロサイト培養工程と、 (iv)前記培養したヒト条件的不死化アストロサイトを第4の培地において分化させるアストロサイト分化工程と、 (v)ヒト条件的不死化脳微小血管内皮細胞を第5の培地に播種して、前記播種したヒト条件的不死化脳微小血管内皮細胞を培養する脳微小血管内皮細胞培養工程と を含み、 前記ペリサイト培養工程(i)および/または前記ペリサイト分化工程(ii)において、ヒト条件的不死化ペリサイトを含む培養物が形成され、 前記アストロサイト培養工程(iii)および/または前記アストロサイト分化工程(iv)において、ヒト条件的不死化アストロサイトを含む培養物が形成され、 前記ペリサイト分化工程(ii)における分化が、前記ペリサイト培養工程(i)における培養温度とは異なる温度で行われ、 前記アストロサイト分化工程(iv)における分化が、前記アストロサイト培養工程における培養温度とは異なる温度で行われ、 前記工程(ii)および前記工程(iv)の後で、前記脳微小血管内皮細胞培養工程(v)が行われ、 前記脳微小血管内皮細胞培養工程(v)において、ヒト条件的不死化脳微小血管内皮細胞を含む培養物が形成され、 前記脳微小血管内皮細胞培養工程(v)において、前記播種されたヒト条件的不死化脳微小血管内皮細胞の培養が、第6の培地中における前記ヒト条件的不死化ペリサイトの更なる培養および前記ヒト条件的不死化アストロサイトの更なる培養と共に行われ、 前記ヒト条件的不死化ペリサイトを含む培養物と前記ヒト条件的不死化脳微小血管内皮細胞を含む培養物とが相互作用することが可能なように配置されている、多細胞血液脳関門モデルの製造方法。 続きを表示(約 1,200 文字)【請求項2】 前記脳微小血管内皮細胞培養工程(v)における、前記播種されたヒト条件的不死化脳微小血管内皮細胞の培養、ならびに、前記ヒト条件的不死化ペリサイトの更なる培養および前記ヒト条件的不死化アストロサイトの更なる培養が、前記ペリサイト分化工程(ii)における分化および/または前記アストロサイト分化工程(iv)における分化とは異なる温度で行われる、請求項1に記載の製造方法。 【請求項3】 前記ペリサイト培養工程(i)における培養が32~34℃の温度範囲で行われ、前記ペリサイト分化工程(ii)における分化が35~39℃の温度範囲で行われ、および/または 前記アストロサイト培養工程(iii)における培養が32~34℃の温度範囲で行われ、前記アストロサイト分化工程(iv)における分化が35~39℃の温度範囲で行われる、請求項1または2に記載の製造方法。 【請求項4】 前記脳微小血管内皮細胞培養工程(v)における、前記播種されたヒト条件的不死化脳微小血管内皮細胞の培養、ならびに、前記ヒト条件的不死化ペリサイトの更なる培養および前記ヒト条件的不死化アストロサイトの更なる培養が、32~34℃の温度範囲で行われる、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。 【請求項5】 前記ペリサイト培養工程(i)における培養および前記アストロサイト培養工程(iii)における培養が、それぞれ独立して、播種後12~72時間行われる、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。 【請求項6】 前記ペリサイト分化工程(ii)における分化および前記アストロサイト分化工程(iv)における分化が、それぞれ独立して、12~72時間行われる、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。 【請求項7】 前記脳微小血管内皮細胞培養工程(v)が、播種後12~240時間行われる、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。 【請求項8】 前記ペリサイト培養工程(i)における培養と前記アストロサイト培養工程(iii)における培養とが、同時に行われる、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。 【請求項9】 前記ペリサイト分化工程(ii)における分化と前記アストロサイト分化工程(iv)における分化とが、同時に行われる、請求項1~8のいずれか1項に記載の製造方法。 【請求項10】 前記ペリサイト培養工程(i)および/または前記ペリサイト分化工程(ii)において形成されるヒト条件的不死化ペリサイトを含む培養物が層であり、および/または、 前記脳微小血管内皮細胞培養工程(v)において形成されるヒト条件的不死化脳微小血管内皮細胞を含む培養物が層である、請求項1~9のいずれか1項に記載の製造方法。 (【請求項11】以降は省略されています) 発明の詳細な説明【技術分野】 【0001】 本発明は、ヒト条件的不死化細胞を用いた血液脳関門モデルおよびその製造方法に関する。 続きを表示(約 5,100 文字)【背景技術】 【0002】 血液脳関門(Blood Brain Barrier;BBB)は、脳微小血管内皮細胞(Brain Microvascular Endothelial Cells;BMEC)と、その周囲に存在するアストロサイトやペリサイトなどの支持細胞によって形成される(非特許文献1、非特許文献2)。BMECは、BBBの主要な構成要素であるが、BBB特異的な性質を獲得するには、アストロサイトとペリサイトの双方が必要であり、またこれらは共にBBBの制御および維持に重要な役割を果たす(非特許文献3)。 【0003】 BBBは、末梢と中枢神経系(Central Nervous System;CNS)との間の重要な境界面を提供し、独立した生理学的恒常性を維持し、かつ、薬剤などの潜在的に有害な化学物質が脳に入るのを防ぐ(非特許文献4、非特許文献5)。BBBを構成する2つの主な分子実体は、(1)薬剤の脳内への傍細胞流入を厳密に制限する細胞間ジャンクション(タイトジャンクションおよび接着ジャンクション);および(2)BMECの頂端膜側で種々の薬剤を積極的に運び出す複数の排出トランスポーター(P糖タンパク質(P-gp)および乳癌耐性タンパク質(BCRP)を含む)である(非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9)。 【0004】 このような特殊な機能のため、優れたBBB透過性を持つ薬物候補の特定は、CNS薬の開発における大きな課題であった。このような状況の下、in vitroのBBBモデルは、BBB透過性を有するCNS薬の特定プロセスを促進するための貴重なツールを提供することが期待される。 【0005】 BMECの単一培養システムはin vivoのBBBを正確に模倣しないため、アストロサイトおよび/またはペリサイトとの共培養が、高度かつ特殊な機能を有するBBBモデルの開発に有用な方法であると考えられている(非特許文献10、非特許文献11、非特許文献12)。これを達成するために、さまざまな動物種から得られたBBB細胞が広く使用されているが、動物とヒトのBBB機能には、BBBトランスポーターの発現レベルが異なることによって示されるように、いくつかの相違点があることが明らかになっている(非特許文献13、非特許文献14、非特許文献15)。したがって、CNS薬の開発には、ヒト由来のBBBモデルが必要である。 【先行技術文献】 【非特許文献】 【0006】 Petzold, G. 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