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公開番号2024179800
公報種別公開特許公報(A)
公開日2024-12-26
出願番号2023098940
出願日2023-06-16
発明の名称アミンを原因とするにおいの抑制剤の評価及び/又は選択方法
出願人花王株式会社
代理人弁理士法人アルガ特許事務所
主分類C12Q 1/02 20060101AFI20241219BHJP(生化学;ビール;酒精;ぶどう酒;酢;微生物学;酵素学;突然変異または遺伝子工学)
要約【課題】アミンを原因とするにおいを選択的に抑制することができる物質の探索。
【解決手段】試験物質添加後のOR5AR1、OR4X2、TAAR8及びこれらと同等の機能を有するポリペプチドからなる群より選択される少なくとも1種の受容体ポリペプチドの応答を測定することを含む、アミンを原因とするにおいの抑制剤の評価及び/又は選択方法。
【選択図】なし
特許請求の範囲【請求項1】
試験物質添加後のOR5AR1、OR4X2、TAAR8及びこれらと同等の機能を有するポリペプチドからなる群より選択される少なくとも1種の受容体ポリペプチドの応答を測定することを含む、アミンを原因とするにおいの抑制剤の評価及び/又は選択方法。
続きを表示(約 2,000 文字)【請求項2】
前記アミンがピペリジン、ピリジン、カダベリン及びトリメチルアミンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記アミンが、前記受容体ポリペプチドがOR5AR1又はこれと同等の機能を有するポリペプチドである場合にピペリジン及びカダベリンからなる群より選択される少なくとも1種であり、OR4X2又はこれと同等の機能を有するポリペプチドである場合にピリジンであり、TAAR8又はこれと同等の機能を有するポリペプチドである場合にトリメチルアミンである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記OR5AR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、前記OR4X2が配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、前記TAAR8が配列番号7で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記OR5AR1と同等の機能を有するポリペプチドが、配列番号1で示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつピペリジン及びカダベリンからなる群より選択される少なくとも1種に応答性を有するポリペプチドであり、
前記OR4X2と同等の機能を有するポリペプチドが、配列番号4で示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつピリジンに応答性を有するポリペプチドであり、
前記TAAR8と同等の機能を有するポリペプチドが、配列番号7で示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつトリメチルアミンに応答性を有するポリペプチドである、
請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記OR5AR1と同等の機能を有するポリペプチドが、配列番号1で示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号1で示されるアミノ酸配列の下記表1の(1)の各アミノ酸位置に相当する位置の少なくとも1箇所に(2)のアミノ酸残基を有し、かつピペリジン及びカダベリンからなる群より選択される少なくとも1種に応答性を有するポリペプチドであり、
前記OR4X2と同等の機能を有するポリペプチドが、配列番号4で示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号4で示されるアミノ酸配列の下記表1の(3)の各アミノ酸位置に相当する位置の少なくとも1箇所に(4)のアミノ酸残基を有し、かつピリジンに応答性を有するポリペプチドであり、
前記TAAR8と同等の機能を有するポリペプチドが、配列番号7で示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号7で示されるアミノ酸配列の下記表1の(5)の各アミノ酸位置に相当する位置の少なくとも1箇所に(6)のアミノ酸残基を有し、かつトリメチルアミンに応答性を有するポリペプチドである、
請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
TIFF
2024179800000008.tif
188
170
【請求項7】
前記OR5AR1と同等の機能を有するポリペプチドが、配列番号3で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつピペリジン及びカダベリンからなる群より選択される少なくとも1種に応答性を有するポリペプチドであり、
前記OR4X2と同等の機能を有するポリペプチドが、配列番号6で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつピリジンに応答性を有するポリペプチドであり、
前記TAAR8と同等の機能を有するポリペプチドが、配列番号9で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつトリメチルアミンに応答性を有するポリペプチドである、
請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記受容体ポリペプチドに試験物質を添加すること、及び
該試験物質に対する該受容体ポリペプチドの応答を測定すること、
を含む、請求項1~7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記試験物質に対する前記受容体ポリペプチドの応答を増強する試験物質を、アミンを原因とするにおいの抑制剤として選択することをさらに含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
対照群における前記受容体ポリペプチドの応答を測定することをさらに含む、請求項8記載の方法。
(【請求項11】以降は省略されています)

発明の詳細な説明【技術分野】
【0001】
本発明はアミンを原因とするにおいを抑制する香料素材を探索する方法に関する。
続きを表示(約 3,600 文字)【背景技術】
【0002】
我々の生活環境には、極性や分子量が異なる多数の悪臭分子が存在し、アミンもその1種である。アミンには、尿臭、タバコ臭、料理臭、体臭、排便臭、皮膚タンニング剤の不快臭等の様々な悪臭の原因物質として知られる化合物や、悪臭防止法に基づいて指定される特定悪臭物質が含まれる(例えば、特許文献1-3)。アミンを原因とするにおいを抑制できる技術はこれら悪臭課題の解決につながる。
【0003】
アミンを原因とするにおいに対する対策として、化学的中和反応による消臭技術が提案されているが、におい物質減少までに時間を要するために即効性に欠ける。また、アミンよりも強いにおいの香料によりマスキングする技術が提案されているが、このような技術は、アミンを原因とするにおいを消臭するものではなく、アミンを原因とするにおいを根本的になくすことはできない。また、芳香剤のにおいによる不快感が生じることもある。
【0004】
ヒト等の哺乳動物においては、匂いは、鼻腔上部の嗅上皮に存在する嗅神経細胞上の嗅覚受容体に匂い分子が結合し、それに対する受容体の応答が中枢神経系へと伝達されることにより認識されている。ヒトの場合、嗅覚受容体は約400種存在することが報告されており、これらをコードする遺伝子はヒトの全遺伝子の約2%にあたる。一般的に、嗅覚受容体と匂い分子は複数対複数の組み合わせで対応付けられている。すなわち、個々の嗅覚受容体は構造の類似した複数の匂い分子を異なる親和性で受容し、一方で、個々の匂い分子は複数種の嗅覚受容体によって受容される。さらに、ある嗅覚受容体を活性化する匂い分子が、別の嗅覚受容体の活性化を阻害するアンタゴニストとして働くことも報告されている。これら複数種の嗅覚受容体の応答の組み合わせが、個々の匂いの認識をもたらしている。
【0005】
従来、香料物質の開発においては、候補物質の匂いの評価は専門家による官能試験によって行われてきた。しかし、官能試験には、匂いを評価できる専門家の育成が必要なことや、スループット性が低いなどの問題があった。そこで近年では、候補物質に対する嗅覚受容体の応答を指標にした香料物質の探索方法が開発されている(特許文献4)。嗅覚受容体の応答は匂い物質に選択的であるため、最初に標的とする匂いに選択性を有する嗅覚受容体を見つけ出すことが肝要である。そうした嗅覚受容体を特定すれば、例えば悪臭の消臭を目的とする場合、アンタゴニストによる嗅覚受容体抑制又はアゴニストによる交差順応に基づくアプローチが可能となる。すなわち、悪臭であるアミンを原因とするにおいをより効果的に抑制することが可能となる。実際これまでに、アミンに応答する嗅覚受容体が複数特定されている。例えば、ピラジン誘導体に応答する嗅覚受容体としてOR5K1(特許文献1)が、3-エチルピリジン及び2-エチルピラジンに応答する嗅覚受容体としてOR2W1、OR4S2、OR5K1及びOR5P3(特許文献2)が、トリメチルアミンに応答する受容体としてTAAR5(特許文献3)が特定されている。しかし、既存の受容体解析方法では、全ヒト受容体の12%程度しか機能解析に成功していない(非特許文献1)。このように、嗅覚システムは未だに解明されておらず、よって、分子生物学的アプローチにより特定の匂いに感受性がある嗅覚受容体を全て見出すことも容易でないという問題があった。
【0006】
殆どの嗅覚受容体が解析に成功していない原因は、目的の嗅覚受容体ポリペプチドを培養細胞に作らせても、細胞の表面に移行(膜発現)せず、小胞体内に留まってしまうことにある。そのため、細胞外から投与するにおい物質に対する結合性を評価することができない。嗅覚受容体が膜発現しない原因については永らく未知であったが、近年、培養細胞で膜発現するマウス嗅覚受容体と膜発現しないマウス嗅覚受容体が比較解析された(非特許文献2)。その結果、膜発現しない嗅覚受容体は立体構造の安定性が低い可能性が見出された。そして重要なことに、膜発現可能な嗅覚受容体と不可能な嗅覚受容体との間にはタンパク質の一次アミノ酸配列において統計学上有意にGrantham distanceが異なるアミノ酸箇所が存在し、そのアミノ酸箇所とは、約一千種の全マウス嗅覚受容体において共通性の高いアミノ酸であることが示された。すなわち、膜発現しない嗅覚受容体とは、本来共通するアミノ酸が使われるべきポリペプチドの位置に、異なるアミノ酸への変異が起きたために、立体構造の安定性を欠き、培養細胞内で、細胞膜に移行させない判断が下されている可能性が示唆された。このことを踏まえると、嗅覚受容体間で共通性の高いアミノ酸を導入する「コンセンサス化法」によって、目的の嗅覚受容体を安定的なタンパク質として獲得することや、効率よく細胞膜上に発現させることが可能になると考えられる。
【0007】
こうした考えのもと、非特許文献1では特定の嗅覚受容体を解析可能とするためにコンセンサス化法が用いられた。具体的には、ヒト嗅覚受容体OR6Y1、OR6B2、OR56A4の3種類について、それぞれ10種類の哺乳類(ゴリラ、ボノボ、チンパンジー、スマトラオランウータン、アカゲザル、ドリル、コモンマーモセット、ハイイロネズミキツネザル、ラット、マウス)の相同遺伝子間での共通性の高いアミノ酸を、それぞれのヒト嗅覚受容体に導入したコンセンサス嗅覚受容体OR6Y1、OR6B2、OR56A4を作製した。その結果、3種の嗅覚受容体のうちOR6Y1は培養細胞を用いて匂い物質に対する応答測定を行うことが可能になったことが開示されている。したがって、コンセンサス化により応答解析が可能になる受容体は存在するものの、その割合は1/3程度であることが示唆されている。
【0008】
コンセンサス化法は産業上有用な酵素を安定的なものにデザインするために古くから実施されてきた。しかし、本法に関する総説である非特許文献3によれば、ある一箇所のアミノ酸配列にコンセンサス化を導入して改善効果が得られる確率は50%程度であり、残る40%は逆にタンパク質を改悪してしまうリスクがあることが、コンセンサス化法の利用を難しくしていると指摘する。また、嗅覚受容体の本来の機能を推定することを目的とした研究においては、コンセンサス化方法の適用は適切ではないとする考え方がある。すなわち、アミノ酸置換を導入するアプローチには、オリジナル嗅覚受容体のリガンド結合部位を変化させ、その結果、本来のにおい応答性を観察させなくなる懸念がある。以上より、コンセンサス化には成功率の低さと、目的の嗅覚受容体本来の機能を変容させてしまうリスクの二つが予測されることから、幅広い嗅覚受容体に対する有効性が検証された例はなかった。
【0009】
斯かる状況下、本発明者は、嗅覚受容体を培養細胞膜上に発現かつ機能させることができる手法について鋭意検討した結果、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列を、該目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列と該目的の嗅覚受容体の特定のオルソログ又は特定のオルソログ及びパラログにコードされる嗅覚受容体のアミノ酸配列のアラインメントから従来とは異なる基準に従い導き出されるコンセンサスアミノ酸配列に基づいて改変することにより、改変された嗅覚受容体の培養細胞での膜発現をオリジナルの嗅覚受容体に比べて向上できること、改変された嗅覚受容体の匂い応答性をオリジナルの嗅覚受容体に比べて向上できること、また、改変された嗅覚受容体の培養細胞での膜発現がオリジナルの嗅覚受容体に比べて向上しない場合であっても改変された嗅覚受容体の匂い応答性を向上できること、さらに、改変された嗅覚受容体が改変前のオリジナルの嗅覚受容体のリガンド選択性をよく維持できること、改変された嗅覚受容体によりもたらされる解析結果はヒトの嗅覚をよく反映するものであることを見出した(特許文献5)。
【0010】
一方、微量アミン関連受容体(trace amine associated receptor:TAAR)は、嗅覚受容体と同じくGタンパク質共役受容体(GPCR)であり、ヒトでは6種類が知られている。このうちTAAR1を除く他のTAARは、嗅上皮において高発現し、揮発性アミンを選択的かつ高感度に認識し、においの感覚を生み出す役割が示されている(非特許文献4)。微量アミン関連受容体をコンセンサス化した例はこれまで知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
(【0011】以降は省略されています)

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