発明の詳細な説明【技術分野】 【0001】 本発明は、落雷損傷防止層を有する構造体に関する。 続きを表示(約 2,900 文字)【背景技術】 【0002】 再生可能エネルギーの一つとして風力発電が注目されている。しかし、風車の設置数や高さの増加により、風車翼への落雷被害が増加しているという問題がある。 【0003】 落雷対策として、雷電流を地面に逃がすために、一般にブレード先端に受雷部である金属製のレセプタを設置することが行われている。このような対策にもかかわらず、雷放電がレセプタ以外の場所に当たり、ブレードを貫通する落雷事故が報告されている。 【0004】 落雷対策として、構造体において雷放電による損傷の懸念がある絶縁基材の表面に導電性を付与して電気を逃がすことは一般に検討されているが、具体的な検証は少ないのが現状である。従来、片面のみがコーティングされて表面抵抗率を低下させたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに気中放電を着雷させる研究が報告されている(非特許文献1~3)。雷に直接さらされることによる、大電流によるコート面の損傷や発熱などの懸念が少ない内面の接地側にコート面を設けた場合にも、フィルム表面で沿面放電が生じて放電がフィルムを貫通しにくくなり、耐雷性能の改善が期待できることを明らかにした。これらの研究では、絶縁性のPETフィルム基材の表面に導電性高分子又はカーボンを添加したシリコーン樹脂をコーティングしている。しかし、貫通確率に基づく耐雷性能には未だ改良の余地がある。また前者は有機フィルムであることによる強度、耐候性など各種の耐久性に課題があり、脆弱化した部分の放電による損傷などの懸念がある。後者は、薄い膜厚とするのに適さないこと、黒く着色することや、樹脂を含むことによる前者と同様の懸念がある。 【0005】 カーボンナノチューブは導電性の材料であるが、カーボンナノチューブの一般的な分散方法で製造したインキでは、膜厚が薄いと表面抵抗率は必ずしも十分に低下せず、必要な導電性を確保することは困難である。ポリアクリル酸を分散剤とするカーボンナノチューブインクは、ポリアクリル酸がカーボンナノチューブに対してドーピング効果を示すことから、膜厚を薄くしても表面抵抗率を小さくすることができる(特許文献1、2)。従来、このカーボンナノチューブインクは、膜厚を薄いことによる透明性等に着目して、透明導電膜材料、電磁波遮蔽フィルム、フレキシブル電極材料への応用可能性が示唆され、電子部品の搬送に際しての静電気抑制への応用も検討されているものの、落雷損傷防止について具体的な検討はされていない。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0006】 国際公開第2018/225863号 特許第6656450号公報 【非特許文献】 【0007】 The Papers of Joint Technical Meeting on Electrical Discharge, Plasma and Pulsed Power,Switching and Protecting Engineering and High Voltage Engineering,IEE Japan (11th International Workshop on High Voltage Engineering (IWHV 2018))、ED-18-106/SP-18-058/HV-18-140、pp.179-184(2018.11) Proceedings of the 21st International Symposium of High Voltage Engineering (ISH2019)Volume 2、Lecture Notes in Electrical Engineering (Volume 599)、pp.387-399(2019.08) Electrical Engineering in Japan、Vol.214、Issue 2、pp.1-7(2021.06) 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、屋外で使用される構造体の落雷による損傷を防止する新規な技術を提供することを課題としている。 【課題を解決するための手段】 【0009】 上記の課題を解決するため、本発明者は鋭意検討を行った。構造体における落雷損傷が懸念される絶縁基材に導電層を設け、その表面抵抗と、接地部との間の静電容量が直列に接続されたRC直列回路とみなすと、これらの積により絶縁基材を含む回路の時定数を求めることができる。表面抵抗率によって時定数が変化するため、貫通のような落雷損傷の確率が変化する可能性があると考えた。時定数が落雷による印加電圧の立ち上がり時間より小さいと、放電が絶縁基材を貫通しにくいと考えられる。これらの考察を検証するため、カーボンナノチューブとその分散剤である高分子酸を含むカーボンナノチューブ分散液を用いて絶縁基材にコーティング層を設けたところ、例えば100nm以下のような薄いコーティング層としても、表面抵抗率を特定範囲とすると臨界的に、放電伝播過程の変化と貫通確率の低下が起こることを見出した。さらに、薄いカーボンナノチューブ層の放電による飛散を防止する保護層として、バインダー樹脂のコーティング等によるオーバーコート樹脂層を設けても、そのような効果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。負極性雷インパルス放電は高電圧側から発生した負極性リーダが接地側から発生した正極性リーダと出会うことで火花放電に至り、負極性リーダによる沿面放電は基材端部で正極性リーダと出会い、火花放電に至ると考えられている。薄いカーボンナノチューブ層の放電による飛散を防止する保護層を設けてもなお、この表面抵抗率を低下させた基材では、放電による貫通確率が著しく低減される。高圧側から発生する負極性リーダは表面抵抗率を低下させた基材により遮蔽され、一方、保護層は、基材表面での沿面放電や、接地側から発生した正極性リーダにより発生した放電の着雷等によっても、コーティングの飛散、剥がれ等を抑制し、脆弱化した部分の放電による損傷を抑制する。 【0010】 すなわち本発明の構造体は、絶縁基材の内面に、次の(A)層及び(B)層を含む落雷損傷防止層を有し、前記落雷損傷防止層の表面抵抗率が1.00×10 2 ~1.00×10 4 Ω/□であることを特徴としている。 (A)前記内面に形成された、カーボンナノチューブとその分散剤である高分子酸を含むカーボンナノチューブ分散液のコーティング層 (B)前記(A)層の前記内面とは反対側の面に形成された、オーバーコート樹脂層 【発明の効果】 (【0011】以降は省略されています) この特許をJ-PlatPat(特許庁公式サイト)で参照する