発明の詳細な説明【技術分野】 【0001】 本開示は、Methylthioadenosine(MTA)依存的に抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを含む抗原結合分子、当該抗原結合ドメインまたは当該抗原結合分子の製造方法およびスクリーニング方法、当該抗原結合ドメインまたは当該抗原結合分子を取得するためのライブラリとそのデザイン方法、ならびに当該抗原結合分子を含む医薬組成物に関する。また、本開示は低分子化合物依存的に抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを効率的に取得するためのライブラリの設計方法にも関する。更に、本開示はMTAに特異的に結合する抗原結合分子及び当該抗原結合分子を用いるMTA濃度測定方法や疾患の診断方法にも関する。 続きを表示(約 5,200 文字)【背景技術】 【0002】 抗体は血漿中での安定性が高く、副作用も少ないことから医薬品として注目されている。中でもIgG型の抗体医薬は多数上市されており、現在も数多くの抗体医薬が開発されている(非特許文献1、および非特許文献2)。 【0003】 抗体医薬を用いたがん治療薬として、これまでのCD20抗原に対するリツキサン、EGFR抗原に対するセツキシマブ、HER2抗原に対するハーセプチン等が承認されている(非特許文献3)。これらの抗体分子は、がん細胞に発現している抗原に対して結合し、ADCC等によってがん細胞に対する傷害活性を発揮する。こうしたADCC等による細胞傷害活性は、治療用抗体の標的細胞に発現する抗原の数に依存することが知られている(非特許文献4)ため、標的となる抗原の発現量が高いことが治療用抗体の効果の観点からは好ましい。しかし、抗原の発現量が高くても、正常組織に抗原が発現していると、正常細胞に対してADCC等の傷害活性を発揮してしまうため、副作用が大きな問題となる。そのため、がん治療薬として治療用抗体が標的とする抗原は、がん細胞に特異的に発現していることが好ましい。 【0004】 ADCC活性による細胞傷害活性を発揮する抗体医薬の成功を受けて、天然型ヒトIgG1のFc領域のN型糖鎖のフコースを除去することによるADCC活性の増強(非特許文献5)、天然型ヒトIgG1のFc領域のアミノ酸置換によりFcγRIIIaへの結合を増強することによるADCC活性の増強(非特許文献6)等によって強力な細胞傷害活性を発揮する第二世代の改良抗体分子が報告されている。上述のNK細胞が介在するADCC活性以外のメカニズムでがん細胞に傷害活性を発揮する抗体医薬として、強力な細胞傷害活性のある薬物を抗体とコンジュゲートしたAntibody Drug Conjugate(ADC)(非特許文献7)、および、T細胞をがん細胞にリクルートすることによってがん細胞に対する傷害活性を発揮する低分子抗体(非特許文献8)等のより強力な細胞傷害活性を発揮する改良抗体分子も報告されている。 【0005】 こうしたより強力な細胞傷害活性を発揮する抗体分子は、抗原の発現が多くはないがん細胞に対しても細胞傷害活性を発揮することが出来る一方で、抗原の発現が少ない正常組織に対しても同様に細胞傷害活性を発揮してしまう。実際、EGFR抗原に対する天然型ヒトIgG1であるセツキシマブと比較して、CD3とEGFRに対する二重特異性抗体であるEGFR-BiTEはT細胞をがん細胞にリクルートすることによってがん細胞に対して強力な細胞傷害活性を発揮し抗腫瘍効果を発揮することができる。その一方で、EGFRは正常組織においても発現しているため、EGFR-BiTEをカニクイザルに投与した際に深刻な副作用が現れることも認められている(非特許文献9)。また、がん細胞で高発現しているCD44v6に対する抗体にmertansineを結合させたADCであるbivatuzumab mertansineは、CD44v6が正常組織においても発現していることから、臨床において重篤な皮膚毒性&肝毒性が認められている(非特許文献10)。 【0006】 このように抗原の発現が少ないようながん細胞に対しても強力な細胞傷害活性を発揮することが出来る抗体を用いた場合、標的抗原が極めてがん特異的に発現している必要があるが、ハーセプチンの標的抗原であるHER2やセツキシマブの標的抗原であるEGFRは正常組織にも発現しているように、極度にがん特異的に発現しているがん抗原の数は限られていると考えられる。そのため、がんに対する細胞傷害活性を強化することはできるものの、正常組織に対する細胞傷害作用による副作用が問題となり得る。 【0007】 また、最近、がんにおける免疫抑制に寄与しているCTLA4を阻害することによって腫瘍免疫を増強するイプリムマブが転移性メラノーマに対してOverall survivalを延長させることが示された(非特許文献11)。しかしながら、イプリムマブはCTLA4を全身的に阻害するため、腫瘍免疫が増強される一方で、全身的に免疫が活性化されることによる自己免疫疾患様の重篤な副作用を示すことが問題となっている(非特許文献12)。 【0008】 第二世代の抗体医薬に適用可能な技術として様々な技術が開発されており、エフェクター機能、抗原結合能、薬物動態、安定性を向上させる、あるいは、免疫原性リスクを低減させる技術等が報告されているが(非特許文献13)、上記のような副作用を解決するための、抗体医薬を疾患組織に特異的に作用可能とする技術はほとんど報告されていない。例えば、がん組織や炎症性組織のような病変部位については、これらの疾患組織におけるpHが酸性条件であることを利用したpH依存性抗体が報告されている(特許文献1、2)。しかしながら、がん組織や炎症性組織における正常組織と比較したpHの低下(すなわち水素イオン濃度の上昇)は僅かであり、分子量が極めて小さい水素イオン濃度の僅かな上昇を検知して作用する抗体を作製することは困難であると同時に、破骨細胞骨吸収窩領域等正常組織や対象とする病変以外の組織でもpHが酸性条件である場合もあり、pHの条件が病変部位に特異的な環境因子として利用するにはなお多くの課題があると考えられた。一方、がん組織や炎症性組織のような病変部位で発現するプロテアーゼで切断されることによって、初めて抗原結合活性を発揮する抗体を作製する方法が報告されている(特許文献3)。しかし、プロテアーゼによる抗体の切断は不可逆的であるため、当該病変部位で切断された抗体が、正常組織に血流に乗って戻ることで正常組織でも抗原に結合できてしまうことが課題であると考えられた。また、そのようなプロテアーゼのがん特異性にも課題があると考えられた。そのような課題を克服することを目的として、疾患組織特異体な化合物の濃度に応じて抗原に対する結合活性が変化する抗原結合分子が報告されている(特許文献4、5)。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0009】 国際公開第WO2003/105757号 国際公開第WO2012/033953号 国際公開第WO2010/081173号 国際公開第WO2013/180200号 国際公開第WO2015/083764号 【非特許文献】 【0010】 Monoclonal antibody successes in the clinic. 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