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公開番号2024053153
公報種別公開特許公報(A)
公開日2024-04-15
出願番号2022159220
出願日2022-10-03
発明の名称重ね合わせたグラフェン同士を摩擦圧接で接合したグラフェン接合体を絶縁性で熱伝導性の粉体の集まりで覆った表面が絶縁性の熱伝導性シートの作成方法
出願人個人
代理人
主分類C01B 32/194 20170101AFI20240408BHJP(無機化学)
要約【課題】熱伝導性を担う物質を非熱伝導性物質に複合化ないしは混合する従来技術を用いず、新たな材料を用い、新たな製法で表面が絶縁性の熱伝導性物質を作成する。
【解決手段】2枚の平行平板電極対の間隙に黒鉛粒子の集まりを敷き詰め、電極対をメタノールに浸漬させ、電極間隙に電位差を与え、黒鉛粒子の黒鉛結晶からなる基底面の層間結合を同時に破壊し、グラフェンの集まりをメタノールに析出させる。メタノール中に分散したグラフェンの集まりに3方向の振動加速度を加え、面を上にしてグラフェンを重ね合わせる。重ね合わせたグラフェンの集まりの表面全体を均等に圧縮し、グラフェン接合体2を作成する。絶縁性で熱伝導性の粉体の集まりがアルコールに分散した懸濁液でグラフェン接合体を覆う。アルコールを気化させた後に、グラフェン接合体の表面全体を均等に圧縮し、摩擦圧接した粉体の集まりでグラフェン接合体が覆われた熱導電性シートを作成する。
【選択図】図1
特許請求の範囲【請求項1】
重ね合わせたグラフェン同士を摩擦圧接で接合したグラフェン接合体を絶縁性で熱伝導性の粉体の集まりで覆った表面が絶縁性の熱伝導性シートの作成方法は、
2枚の平行平板電極からなる一方の平行平板電極の表面に、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを平坦に敷き詰め、該一方の平行平板電極を、第一の容器に充填したメタノール中に浸漬させ、他方の平行平板電極板を、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりを介して、前記一方の平行平板電極の上に重ね合わせ、前記2枚の平行平板電極からなる電極板対を前記メタノール中に浸漬させる、この後、該電極板対の間隙に予め決めた大きさからなる直流の電位差を印加する、これによって、該電位差の大きさを前記電極板対の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりに印加され、該電界の印加によって、前記鱗片状黒鉛粒子ないしは前記塊状黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てが同時に破壊され、前記電極板対の間隙に前記基底面からなるグラフェンの集まりが析出する、この後、前記電極板対の間隙を拡大し、該電極板対を前記メタノール中で傾斜させ、さらに、前記第一の容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を順番に繰り返し加え、前記グラフェンの集まりを、前記電極板対の間隙から前記メタノール中に移動させる、この後、前記第一の容器から前記2枚の平行平板電極を取り出し、前記第一の容器内にメタノールに分散したグラフェンの集まりを作成する第一の工程と、
前記第一の容器内で超音波方式のホモジナイザー装置を稼働させ、前記メタノールを介して前記グラフェンの集まりに衝撃波を繰り返し加え、該グラフェンの集まりを、前記メタノール中で1枚1枚のグラフェンに分離させる、この後、前記第一の容器から前記ホモジナイザー装置を取り出し、メタノール中で1枚1枚に分離したグラフェンの集まりからなる懸濁液を前記第一の容器内に作成する第二の工程と、
前記懸濁液の予め決めた重量からなる懸濁液を第二の容器に注入し、該第二の容器に、前後、左右、上下の3方向の振動加速度を順番に繰り返し加え、最後に上下方向の振動加速度を加え、前記懸濁液におけるグラフェンの集まりを、面を上にして該懸濁液中でランダムに並ばせ、さらに、前記第二の容器の内側の大きさと同じ大きさの第一の平板を、前記第二の容器内の懸濁液と接触するように被せ、さらに、前記第二の容器を前記メタノールの沸点に昇温し、前記懸濁液からメタノールを気化させ、面を上にしてグラフェン同士を重ね合わせる、この後、前記第一の平板の表面全体を均等に圧縮する、これによって、前記面を上にして重なり合ったグラフェンの集まりが圧縮され、該重なり合ったグラフェン同士が摩擦圧接し、該摩擦圧接したグラフェンの集まりからなるグラフェン接合体が、前記第二の容器の底面に該底面の形状として形成される、この後、前記第二の容器の底面の複数個所に、衝撃加速度を同時に加え、前記グラフェン接合体を前記第二の容器の底面から剥がし、さらに、前記第一の平板の側面の複数個所に、前記衝撃加速度より小さな衝撃加速度を同時に加え、前記グラフェン接合体を前記第一の平板から剥がし、該グラフェン接合体を取り出す第三の工程と、
20℃における粘度が4-6mPa・秒であるアルコールの重量比が2で、絶縁性でかつ熱伝導性である粉体の集まりの重量比が1より少ない予め決めた重量比によって、前記アルコールと前記粉体の集まりを秤量し、該秤量したアルコールと粉体とを第三の容器に注入し、該第三の容器内の前記アルコールを撹拌し、前記粉体の集まりが前記アルコール中に分散した新たな懸濁液を作成する第四の工程と、
前記取り出したグラフェン接合体を前記新たな懸濁液中に浸漬し、該グラフェン接合体に前記新たな懸濁液を付着させ、この後、該グラフェン接合体を前記新たな懸濁液中から取り出す第五の工程と、
前記グラフェン接合体の表面全体が第二の平板に重なり合うように、該グラフェン接合体を前記第二の平板の上に重ね合わせ、さらに、該第二の平板と同じ大きさの第三の平板を前記グラフェン接合体の表面全体に被せる、さらに、前記アルコールの沸点に昇温し、前記グラフェン接合体に付着した前記新たな懸濁液からアルコールを気化させ、該グラフェン接合体の表面全体を前記粉体の集まりで覆う、この後、前記第三の平板の表面全体を均等に圧縮する、これによって、前記グラフェン接合体の表面と接触する前記粉体の集まりが、該グラフェン接合体の表面に摩擦圧接するとともに、該粉体同士が互いに接触する部位で摩擦圧接し、該摩擦圧接した粉体の集まりで前記グラフェン接合体が覆われる、この後、前記第二の平板の側面の複数個所に、衝撃加速度を同時に加え、前記グラフェン接合体を、前記第二の平板から剥がし、さらに、前記第三の平板の側面の複数個所に、前記衝撃加速度と同等の衝撃加速度を同時に加え、前記グラフェン接合体を、前記第三の平板から剥がし、該グラフェン接合体を取り出す第六の工程からなり、
これら6つの工程を連続して実施することによって、重ね合わせたグラフェン同士を摩擦圧接で接合したグラフェン接合体を絶縁性で熱伝導性の粉体の集まりで覆った表面が絶縁性の熱伝導性シートが作成される、表面が絶縁性の熱伝導性シートの作成方法。
続きを表示(約 870 文字)【請求項2】
請求項1に記載した表面が絶縁性の熱伝導性シートの作成方法は、請求項1に記載した絶縁性で熱伝導性の粉体が、アルミナ、窒化ホウ素、窒化ケイ素ないしは窒化アルミニウムからなるいずれか1種類の粉体であり、該粉体を請求項1に記載した絶縁性で熱伝導性の粉体として用い、請求項1に記載した表面が絶縁性の熱伝導性シートの作成方法に従って、表面が絶縁性の熱伝導性シートを作成する、請求項1に記載した表面が絶縁性の熱伝導性シートの作成方法。
【請求項3】
請求項1に記載した表面が絶縁性の熱伝導性シートの作成方法は、請求項1に記載した20℃における粘度が4-6mPa・秒であるアルコールが、2-ペンタノール、3-メチル―1-ブタノール、ターシャルアミルアルコール、2-ブタノール、2-メチル-1-ブタノール、2-ヘプタノール、イソブチルアルコール、4-メチル-2-ペンタノール、3-ペンタノールないしは2-オクタノールからなるいずれか1種類のアルコールであり、該アルコールを、請求項1に記載した20℃における粘度が4-6mPa・秒であるアルコールとして用い、請求項1に記載した表面が絶縁性の熱伝導性シートの作成方法に従って、表面が絶縁性の熱伝導性シートを作成する、請求項1に記載した表面が絶縁性の熱伝導性シートの作成方法。
【請求項4】
請求項1に記載した方法で作成した表面が絶縁性の熱伝導性シートを、部品ないしは基材に一体化させる方法は、
請求項1に記載した方法に従って、表面が絶縁性の熱伝導性シートを作成し、該熱伝導性シートの表面に部品ないしは基材を重ね合わせ、該部品ないしは該基材の表面全体を均一に圧縮する、これによって、前記熱伝導性シートの表面を覆う絶縁性で熱伝導性の粉体の集まりが、前記部品ないしは前記基材の表面に摩擦圧接し、前記熱伝導性シートと前記部品ないしは前記基材とが一体化される、請求項1に記載した方法で作成した表面が絶縁性の熱伝導性シートを、部品ないしは基材に一体化させる方法。

発明の詳細な説明【技術分野】
【0001】
本発明は、面を上にしてグラフェンを重ね合わせ、重ね合わせたグラフェンの集まりの表面全体を均等に圧縮し、グラフェン接合体を作成する。次に、作成したグラフェン接合体を、絶縁性で熱伝導性の粉体の集まりがアルコールに分散した懸濁液で覆う。さらに、アルコールを気化させた後に、グラフェン接合体の表面全体を均等に圧縮し、グラフェン接合体の表面と接触する粉体の集まりを、グラフェン接合体の表面に摩擦圧接させるとともに、粉体同士が互いに接触する部位で摩擦圧接し、摩擦圧接した粉体の集まりでグラフェン接合体が覆われた表面が絶縁性の熱導電性シートを作成する方法に関わる。
本発明に依れば、グラフェン接合体の厚みがサブミクロンで、摩擦圧接した粉体の集まりの厚みが数個であるため、熱導電性シートの重量は、従来の熱導電性シートの重量より2桁少ない。また、粉体がミクロンサイズと小さく、粉体の多くが並列接続するため、熱導電性シートの絶縁抵抗は、従来の熱導電性シートの絶縁抵抗より2桁以上大きい。さらに、金属より熱伝導性に優れたグラフェン接合体を、熱伝導性の微細な粉体で覆うため、熱導電性シートの熱伝導性は、従来の熱導電性シート熱伝導性より優れる。
なお、本発明者は、特願2019-090295(令和元年5月12日出願)として、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属微粒子の集まりで、グラフェンの扁平面同士を結合したグラフェン接合体を製造する製造方法を既に出願している。本発明は、グラフェン接合体を絶縁性で熱伝導性の粉体の集まりで覆った表面が絶縁性の熱伝導性シートの作成方法に関する。
続きを表示(約 6,100 文字)【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス技術の発展に伴い、電子機器の小型化、軽量化、高密度化、高出力化が進み、これによって、電子回路の高密度化に伴う絶縁性に係わる信頼性の向上や、電子デバイスの発熱と高密度実装とによる電子機器の熱劣化防止に役立つ放熱性の向上などが強く求められている。
いっぽう、エレクトロニクス分野では、絶縁材の多くは熱伝導性に劣る高分子材料が用いられている。このため、高分子材料の熱伝導性を高めるために、固体の熱伝導性粒子を熱伝導の担い手として高分子材料に充填する方法が用いられている。この方法では、熱伝導性粒子の集まりが、高分子材料の内部に熱伝導経路を形成することで、優れた熱伝導性が実現する。いっぽう、熱伝導性粒子が高分子材料の内部に熱伝導経路を形成するには、熱伝導性粒子の充填率を高めることが必要になるが、融解した高分子材料に熱伝導性粒子を充填させる割合は粘度の上昇によって限度がある。この結果、固体の熱伝導性粒子を高分子材料に充填させる従来の方法では、高分子材料の熱伝導性の向上には限界がある。
【0003】
熱伝導性を付与する技術には様々な方法がある。
例えば、特許文献1には、酸化アルミニウムや窒化アルミニウムなどの絶縁性で熱伝導性の球状粒子を有機結着剤で凝集させた凝集体の製造技術が記載されている。つまり、熱伝導性粒子同士を有機結着剤を介して凝集させた凝集体を熱伝導の担い手とする。
また、特許文献2には、熱伝導性、制振性、緩衝性を兼備したエラストマー材料の製造技術が記載されている。つまり、熱可塑性エラストマーの重量に対し、3-10倍の軟化剤を加えることで、制振性と緩衝性とを確保し、また、熱伝導性の担い手としてピッチ系炭素繊維を用い、成形体の体積の10-40%の体積割合でピッチ系炭素繊維を充填することで、制振性と緩衝性とを犠牲にすることなく熱伝導性を確保する、としている。
さらに、特許文献3には、ポリフェニレンサルファイド系樹脂とポリアミド系樹脂とからなる2種類の樹脂のうちの一方の樹脂を島状構造とし、他方の樹脂を海状構造とする三次元網目構造を形成し、熱伝導性付与剤を海状構造の樹脂中に偏在させることで、機械的強度及び成形性を低下させることなく、熱伝導率が向上する樹脂組成物の製造技術が記載されている。つまり、熱伝導性付与剤を海状構造樹脂中に充填させることで、海状構造樹脂の熱伝導性を高め、海状構造の部分に沿って熱を伝導させ、これによって、樹脂組成物の熱伝導性を高める、としている。
また、特許文献4には、電気絶縁性を低下させることなく、機械的強度、耐熱性、寸法精度、薄肉成形性に優れ、且つ熱伝導性の熱硬化性樹脂の成形材料の製造技術が記載されている。つまり、第一のフィラーとして針状形状で、モース硬度が4.5-5.0の値を持つウォラストナイトを充填することで、引張強度と曲げ強度とを確保し、また、ウォラストナイトの熱膨張係数が6.5×10
-6
/℃と小さいため、寸法安定性と薄肉成形性が確保される。さらに、ウォラストナイトの融点が1540℃と高いため耐熱性が得られる。また、第二のフィラーとして絶縁性で熱伝導性であるアルミナの球状粒子を用いることで、熱硬化性樹脂の電気絶縁性を低下させることなく、熱導電性を向上させる構成としている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された技術は、熱伝導性を向上させるうえで次の2つの問題点を持つ。第一に、溶剤によって有機結着剤を溶解させ、溶解した有機結着剤に熱伝導性粒子の集まりを分散させたスラリー液を作成した後に、溶剤を気化させて易変形性凝集体と呼ぶ物質を作成する。この易変形性凝集体における熱伝導性の大きさは、熱伝導性粒子が互いに接近した構造を取ることに大きく依存する。なぜならば、熱伝導性粒子のみが熱伝導の担い手になるからである。熱伝導性粒子同士を互いに接近させるには、有機結着剤に対する熱伝導粒子の混合割合を著しく高めることが必要になるが、熱伝導粒子の混合割合を高めるほど、易変形性凝集体における有機結着剤の割合が減少し、有機結着剤を介して球状の熱伝導粒子を結合させることが困難になるという問題点を持つ。第二に、易変形性凝集体を熱伝導性に劣るバインダー樹脂と混合し、この混合物を圧縮することで、熱硬化性のシートを製作する。なぜならば、易変形性凝集体のみでは熱伝導性シートの製造できないため、バインダー樹脂と混合することで、易変形性凝集体の集まりを結合させ、バインダー樹脂で結合した易変形性凝集体の集まりを圧縮することで、熱伝導性シートが製作できる。しかしながら、バインダー樹脂は非熱伝導性であるため、バインダー樹脂の混合割合を低下させなければ、易変形性凝集体の熱伝導性が熱伝導シートに反映されない。いっぽう、バインダー樹脂の混合割合を低下させるほど、易変形性凝集体同士の結合が困難になり、熱伝導シートの製作ができないという問題点を持つ。
さらに、特許文献1に記載された技術は、分断された複数の製作工程によって、熱伝導シートを製造するため製造費用が高価になる。また、原料として用いる熱伝導性粒子が、高価な球状微粒子でかつ使用量が少量でないため、高い付加価値、例えば、金属並みの熱伝導性を持ち、かつ、絶縁性であればよいが、本技術で得られた熱伝導性は、金属の熱伝導性より1桁以上低いため、本技術が適応できる製品分野は制限される。
【0005】
また、特許文献2に記載された技術は、ピッチ系炭素繊維の体積割合に応じて、エラストマー材料における熱伝導性が増大するが、非常に高価なピッチ系炭素繊維を50%体積割合まで増大させても、熱伝導率は8.21W/(m・K)であり、製造費用が極めて高い割には熱伝導率が低い。これは、ピッチ系炭素繊維の熱伝導率が異方性を持っており、繊維軸方向の熱伝導率が500W/(m・K)という大きな熱伝導率を持つが、ピッチ系炭素繊維を繊維軸方向に配向させてエラストマー材料に充填することが困難であることに依る。さらに、ピッチ系炭素繊維は、体積抵抗率が2×10
-5
cmからなる導電性を持ち、ピッチ系炭素繊維の充填率を高めるほどエラストマー材料は導電性を示す。このため、エラストマー材料が電気絶縁性を保って他の部品と組み合わせる場合は、電気絶縁性で非熱伝導性の接着剤を用いることになり、エラストマー材料の熱伝導性が非熱伝導性の接着層によって損なわれる。また、ピッチ系炭素繊維の体積割合が増えるほど、エラストマー材料の硬度が増大し、制振性と緩衝性が低下する。従って、本技術についても、適応できる製品分野は限定される。
【0006】
さらに、特許文献3に記載された技術は、ポリフェニレンサルファイド系樹脂に特殊な相溶化剤を混合した第1のマスターバッチを調製する工程と、ポリアミド系樹脂に表面が改質された熱伝導性付与剤を混合した第2のマスターバッチを調製する工程と、第1のマスターバッチと第2のマスターバッチを溶融混練する工程との3つの製造工程から樹脂成形体が製造される。従って、本技術は3つの分断された工程から樹脂成形体が製造され、また、特殊な相溶化剤を事前に調整する複雑な処理工程と、さらに、熱伝導性付与剤の表面を事前に改質する処理工程とが必要となるため、樹脂成形体の製造費用は高価なものになる。いっぽう、熱伝導性を担う粒子を60%重量割合で充填させても、樹脂成形体の熱伝導率は1-2W/(m・K)と低い。これは、熱伝導性付与剤である熱伝導性粒子をフィラーとして海状構造の樹脂中に充填する割合が、樹脂溶解時の粘度の増大によって制限され、フィラーを互いに接近させることが困難であることに依る。また、熱伝導性粒子が導電性を持つ場合は、海状構造の樹脂中に熱伝導性粒子の充填率を高めるほど、海状構造の樹脂の導電性が増大し、樹脂が海状構造であるため、樹脂成形体の導電率が増大する。このため、樹脂成形体が電気絶縁性を保って他の部品と組み合わせる場合は、電気絶縁性で非熱伝導性の接着剤を用いることになり、樹脂成形体の熱伝導性が非熱伝導性の接着層によって損なわれる。従って、本技術についても、適応できる製品分野は限定される。
【0007】
また、前記した特許文献4に記載された技術は、第一のフィラーとしてウォラストナイトの針状粒子を用いることに大きな特徴があるが、第二のフィラーとしてアルミナの粒子を用いることは、従来の導電性フィラーとしてアルミナ粒子を樹脂に充填させる技術と変わりない。このため、アルミナ粒子を充填させる割合は、熱硬化性樹脂の溶解時の粘度の上昇から80%重量割合に制限され、80%重量割合でアルミナ粒子を充填しても、アルミナ粒子同士を互いに熱硬化性樹脂に接近させることは困難であるため、得られた熱硬化性樹脂の成形体の熱伝導度は1W/(m・K)程度に過ぎない。従って、本技術についても、適応できる製品分野は限定される。
【0008】
ここで、熱伝導性を付与する従来技術に係わる課題を整理する。
熱伝導性を担う物質が、連続した構造ないしは近接した構造が取れれば、熱伝導経路が熱伝導性物質に形成され、熱伝導性が著しく増大する。いっぽう、従来技術においては、熱伝導性を担う物質の間に必ず非熱伝導性の物質が介在し、これによって、熱伝導を妨げる抵抗が形成され、熱伝導性の向上が抑制された。このため、第一の課題は、熱伝導性物質において、熱伝導性を担う絶縁性の物質が、連続した構造ないしは近接した構造を取ることである。従って、熱伝導性を担う絶縁性の物質を、非熱伝導性の物質に複合化するないしは混合する従来技術では、この課題を解決することはできない。
第二の課題は、熱伝導性を担う物質の分散性である。つまり、熱伝導性を担う物質の体積占有率が増大するほど、熱伝導性物質の内部で、熱伝導性を担う物質同士が互いに接触ないしは近接する確率が高くなり、これによって、熱伝導性を担う物質が連続した構造ないしは近接した構造が取りやすくなり、この結果、熱伝導性物質の熱伝導性が増大する。しかしながら、熱伝導性を担う物質が固体である場合は、熱伝導性物質の内部に分散できる割合には限度がある。すなわち、従来技術で説明したように、熱伝導性粒子の充填率を高めるほど、融解した高分子材料の粘度が高まり、融解した高分子材料が押出や射出といった成形加工ができなくなる。また、特許文献2の問題点で説明したように、融解した高分子材料にピッチ系炭素繊維を繊維軸方向に配向させて分散することは困難である。また、特許文献4における針状粒子を針状方向に配向させて分散することも困難である。このため、固体からなる熱伝導性を担う物質を、非熱伝導性の物質に複合化するないしは混合する従来技術では、熱伝導性を担う物質の分散性の課題を解決することはできない。
第三の課題は、熱伝導性を担う物質の凝集である。つまり、特許文献1、特許文献3および特許文献4には、熱伝導性粒子を融解した高分子材料に充填する技術が記載されているが、粒子が微細になるほど、また、粒子が対称形状であるほど、粒子が凝集しやすくなる。粒子の凝集が起こると、熱伝導性物質の内部で粒子が偏在し、結果として前記した分散性と同様の問題が起こる。従って、微細な粒子や球状粒子を、融解した高分子材料に充填する従来技術では、熱伝導性を担う物質の凝集の課題を解決することはできない。
第四の課題は、熱伝導性物質の性質が、熱伝導性が金属に近く、かつ、優れた絶縁性であることである。特に、エレクトロニクス分野に用いる製品は、こうした性質が必要となる。つまり、熱伝導性物質に金属に近い熱伝導性が付与されたとしても、導電性である場合は、電気絶縁性を確保することが必要になり、多くの場合は電気絶縁性で非熱伝導性である安価な接着剤を用いるが、非熱伝導性の接着層によって、熱伝導性物質同士の熱伝導性を伴った接合ができない。なお、絶縁性で熱伝導性が高いほど、熱伝導性物質が持つ付加価値は高い。前記した従来技術の熱伝導性は、金属の熱伝導性に比べ1桁以上熱伝導性が低いため、付加価値は低い。
第五の課題は、安価な製造方法で絶縁性の熱伝導性物質が作成できることである。特に、エレクトロニクス分野に用いる製品は、安価な部品ないしは安価な基材が採用される。従って、前記した従来技術のように、分断された複数の工程からなる製法や、非常に高価な原料を用いる製法や、原料に事前処理が必要になる製法を伴う場合は、製造費用が高騰し、安価な工業用製品を製造する製法として適切でない。
第六の課題は、絶縁性の熱伝導性物質が、容易に他の部品や基材に組み付けられることである。つまり、安価な製造方法で絶縁性の熱伝導性物質が作成できても、容易に他の部品や基材に組み付けられなければ、熱伝導性物質の付加価値は低い。
第七の課題は、絶縁性の熱伝導性物質が、軽量で厚みが薄いことである。特に、エレクトロニクス分野における製品は、小型化、軽量化および薄肉化が進んでいるため、重量がかさみ、厚みを占有する部品ないしは基材の付加価値は低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
特開2014-03261号公報
特開2011-63716号公報
特開2009-263476号公報
特開2009-221308号公報
特許第6166860号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記した熱伝導性物質の課題の多くは、固体の熱伝導性を担う物質を非熱伝導性物質、例えば融解した高分子材料に複合化ないしは混合することで起こる。従って、固体の熱伝導性を担う物質を非熱伝導性物質に複合化ないしは混合する製法を用いる限り、これらの課題は解決できない。このため、従来の熱伝導性物質の製法に係わる概念を払拭する全く新たな考えに基づき、新たな材料を用い、新たな製法で絶縁性の熱伝導性物質を作成しない限り、これらの課題は解決できない。このように、全く新たな考え方に基づく絶縁性の熱伝導性物質を作成する技術が強く求められている。
本発明が解決しようとする課題は、絶縁性の熱伝導性物質を作成するに際し、8段落で説明した7つの課題が同時に解決される全く新たな考えに基づき新たな材料を用い、新たな製法で絶縁性の熱伝導性物質を作成する技術を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
(【0011】以降は省略されています)

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artience株式会社
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住友化学株式会社
リチウム金属複合酸化物、リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池
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三菱ケミカル株式会社
黒鉛電極用生コークス及びその製造方法、黒鉛電極用ニードルコークス及びその製造方法、黒鉛電極の製造方法
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