発明の詳細な説明【技術分野】 【0001】 本発明は、硬化型免震構造と動吸振器とを組み合わせた免震構造に関するものである。 続きを表示(約 3,400 文字)【背景技術】 【0002】 従来、建物に設けられる免震構造が知られている。免震構造は、建物の基礎部分に剛性の低い層を導入することにより、建物の固有周期を伸ばすことで、地震入力時の加速度を低減させ、これにより、建物を地震から守る。しかし、一方で、長周期地震が発生した際は免震層の変位が過大となることが危惧されている。このような問題を解決するための構造として、硬化型免震構造が知られている(例えば、非特許文献1~3を参照)。硬化型免震構造は、免震層の剛性が、変位の増大に従い大きくなるものである。変位が大きくなった際に免震層の剛性を上昇させることで、過大変位による擁壁衝突を防ぐことが可能となる。 【0003】 硬化型免震構造の最大の特徴は、変位が大きくなる際に、復元力を発揮させる特性である。通常、変位と加速度はトレードオフの関係にある。免震構造は、基礎部分に柔らかい層を導入することにより、免震層の上に載っている建物の加速度を落とし、これにより地震から守る。一方で、免震層の変位そのものは大きくなることから、長周期地震が発生した際は、建物が擁壁へと衝突することが危惧される。硬化型免震構造は大変形時のみに、免震層の剛性を高くすることにより、小変位時には通常の免震構造と同様に加速度を抑え、一方で、変形が増大すると剛性が上がり、変位を抑える機構となっている。 【0004】 硬化型免震構造は、多くの地震波においては有効だが、卓越周波数が低い波から高い波へと移行する場合においては、共振現象を引き起こし、大振動の原因になることが指摘されている(例えば、非特許文献4、5を参照)。この問題を解決するために、実質量を用いた、従来型の動吸振器を搭載した新しい硬化型免震装置が提案されている(例えば、非特許文献6を参照)。動吸振器は、装置そのものが揺れることで制御力を発生させ、振動を抑える(例えば、特許文献1を参照)。動吸振器の振幅は、建物の2倍程度になる可能性があり、大きなスペースを必要とする(例えば、非特許文献7を参照)。 【0005】 上述のとおり、免震構造は変位を犠牲にして、加速度を低減する機構であり、近年では免震層のクリアランスとして60cm以上を必要とするケースが増えてきている(例えば、非特許文献8を参照)。したがって、免震層に動吸振器を採用すると、その振幅のストロークは片側で120cm以上となる。図5(a)に示すように、さらに、片側で120cmの変形にも対応できるバネを装置の両端部に取り付けると、許容たわみ率が150%のものであったとしても、バネ長さだけで240cm必要となる。したがって、スペースの確保が必要となり、装置の大きさを加えるとさらに大きなスペースの確保が必要となる。 【0006】 非特許文献6では、動吸振器を備えた硬化型免震装置を小型試験体により実現しており、その実験結果を示している。図5(b)に、長周期地震の模擬波であるCH1波(非特許文献9を参照)をスケーリングしたものへの小型試験体の応答結果を示す。 【0007】 図5(b)の170秒~190秒付近において、硬化型免震装置を設けたケースでは、硬化型免震装置を設けないケースよりも大きく揺れていることがわかる。一方、硬化型免震装置に動吸振器を備えたケースでは、応答は増えておらず、すべての時間にわたり、応答を低減できていることがわかる。 【0008】 動吸振器による共振抑制の仕組みを図5(c)、(d)に示す。図5(c)は、動吸振器がない硬化型免震装置での入力周波数と変位の関係図である。この図より、入力周波数が低周波数から高周波数へ移行するような波が入力した際は、変位が増大することがわかる。これが共振現象である。一方、動吸振器を備えた硬化型免震装置の挙動は、図5(d)に示すとおりである。この図より、動吸振器を導入した場合は、入力周波数が低周波数から高周波数に増えるような波に対しても、動吸振器が作用することにより周波数応答曲線を打ち切ることで変位増大を防止していることがわかる。 【0009】 通常の動吸振器の場合は、建物と動吸振器の固有周期が一致しているときは制御効果が得られるが、一方で、経年変化などでこれらの周期にずれが生じると、制御効果が著しく低減することが指摘されている(例えば、非特許文献10を参照)。また、動吸振器を硬化型免震装置の共振防止に用いる際には、上述したように、固有周期を正確に合わせる必要はないことから、モデルの経年変化に対してロバストであることも特徴である。例えば、図5(d)において、動吸振器の固有周波数がおよそ1.7Hzと設定されている場合、2.0Hzに変化しても、周波数応答曲線の上昇を打ち切ることが可能であることが特徴の一つである。その概念図を図5(e)に示す。 【先行技術文献】 【非特許文献】 【0010】 「硬化型復元力と回転慣性質量を組み合わせた過大変位抑制型免震構造に関する基礎的研究(その4)大型免震試験体と解析モデル概要」、鈴木瑛大、渡辺宏一、宮本皓、射場淳、石井建、菊地優、日本建築学会年次大会(東海)、日本建築学会、2021、No:21270 「硬化型復元力特性を有する部材により耐震補強した多層骨組の振動特性」、渡辺宏一、中井正一、日本建築学会構造系論文集、日本建築学会 78(687)、931-938、2013-05 「硬化型復元力特性を用いた振動制御に関する解析的研究」、渡辺宏一、千葉大学学位論文、千葉大学、2016年 「硬化型復元力と回転慣性質量を組み合わせた過大変位抑制型免震構造に関する基礎研究(その2)振動台実験による検証」、滝沢勇武、渡辺宏一、射場淳、石井建、菊地優、日本建築学会大会学術講演梗概集、日本建築学会、2020年 Development of nonlineargeometric seismic isolation with Duffing spring, Kou Miyamoto, Jun Iba, Koichi Watanabe, Ken Ishii, Masaru Kikuchi, Structural control and Health monitoring, Wiley and Hindawi, Article ID 3917013, 2023 「慣性質量ダンパーを備えた変位抑制型免震構造に関する研究(その1)システムと試験体概要」、宮本皓、渡辺宏一、射場淳、佐取冴、石井建、菊地優、日本建築学会大会学術講演梗概集、日本建築学会、2022年 「履歴型同調質量ダンパーを用いた超高層建物の最適地震応答制御」、金子健作、日本建築学会構造系論文集、81(721)、pp.459-469、2016年 「国内免震建物のデータベース構築と現状分析」、田中佑治、福和伸夫、飛田潤,、護雅史、日本建築学会技術報告集、日本建築学会、2011年 国土交通省ホームページ、「長周期地震動を考慮すべき主な地点と地震動の考え方」、[online]、[令和5年2月21日検索]、インターネット<URL:https://www.mlit.go.jp/common/001113880.pdf> Design Method of Tuned Mass Damper by Linear-Matrix-Inequality-Based Robust Control Theory for Seismic Excitation, Kou Miyamoto, Satoshi Nakano, Jinhua She, Daiki Sato, Yinli Chen, Qing-Long Han, Journal of Vibration and Acoustics, American Society of Mechanical Engineers, 2022 【特許文献】 (【0011】以降は省略されています) この特許をJ-PlatPatで参照する