発明の詳細な説明【技術分野】 【0001】 本発明は、遊離脂肪酸生産藻類を用いた遊離脂肪酸の製造方法に関する。 続きを表示(約 4,600 文字)【背景技術】 【0002】 化石燃料依存からの脱却を目指して、エネルギー物質の持続可能な生産技術の開発が世界中で進められている。その中で、遺伝子組み換え微生物を用いた遊離脂肪酸(Free Fatty Acid:以下、FFAともいう)の細胞外生産系が注目されている。細胞外生産系では、生産されたFFAが菌体外に放出され、細胞を破壊することなくFFAを取り出すことができるため、生産量を飛躍的に増加できると期待されている。そのため、これまでに大腸菌、酵母、シアノバクテリアといった様々な微生物を材料にして、FFAを細胞外へと放出する遺伝子組み換え株が作製されている(非特許文献1~3)。 【0003】 藻類による遊離脂肪酸の製造が、光合成により水と二酸化炭素から脂肪酸を製造することができるため食料生産と競合せず、また、単位面積あたりの脂肪酸の生産量が多いため注目されている。 例えば、非特許文献4には、シアノバクテリアの一種である、シネココッカス・エロンガタスPCC7942株(Synechococcus elongatus PCC 7942、以下、7942株ともいう)のSPc株由来で、遺伝子操作によって内在性のアシルACP合成酵素(Aas)の欠損と大腸菌由来のアシルACPチオエステラーゼをコードする遺伝子(`tesA)を導入したFFA生産能に優れたdAS1T株が提案されている。 非特許文献5には、7942株の硝酸イオン輸送体欠損株であるNA3を親株として、アシルACP合成酵素(Aas)の欠損と大腸菌由来のチオエステラーゼ(`tesA)を導入したdAS2T株に、FFAを細胞外に排出するためのrndA1B1を過剰発現するためのプラスミド(pRND1)を導入した細胞外へのFFA放出能に優れたdAS2T/pRND1株が提案されている。 特許文献1には、ペルオキシダーゼの発現を促進した脂肪酸又は脂肪酸を構成成分とする脂質の生産性に優れた遊離脂肪酸生産藻類が提案されている。 ここで、遊離脂肪酸生産藻類が、光合成を盛んに行い、脂肪酸を効率的に生産することのできる温度、pH、光強度等の条件は、当然に他の藻類等の生育にも好ましい条件である。そのため、遊離脂肪酸生産藻類による脂肪酸製造時には、コンタミネーション(他の微生物による汚染)が起こりやすい。そして、コンタミネーションが起こると、他の微生物が栄養源を消費して、遊離脂肪酸生産藻類が利用できる栄養源の割合が少なくなるため、遊離脂肪酸の生産性が低下してしまう。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 特開2020-080698号公報 【非特許文献】 【0005】 Rebecca M. Lennen., Drew J. Braden., Ryan M. West., James A.Dumesic., Brian F. Pfleger. (2010) A Process for Microbial Hydrocarbon Synthesis: Overproduction of Fatty Acids in Escherichia coli and Catalytic Conversion toAlkanes. Biotechnol Bioeng. June 1; 106(2) Yongjin J. Zhou1., Nicolaas A. Buijs1., Zhiwei Zhu., Jiufu Qin., Verena Siewers., Jens Nielsen. (2016) Production of fatty acid-derived oleochemicals and biofuels by synthetic yeast cell factories. Nat. Commun. 7:11709 Liu, X., Sheng, J. and Curtiss, R. (2011) Fatty acid production in genetically modified cyanobacteria.Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 108: 6899-6904. Kato, A., Use, K., Takatani, N., Ikeda, K., Matsuura, M., Kojima, K., Aichi, M., Maeda, S., Omata, T. (2016) Modulation of the balance of fatty acid production and secretion is crucial for enhancement of growth and productivity of the engineered mutant of the cyanobacterium Synechococcus elongatus. Biotechonol for Biofu. Vol. 9, 91 Kato A, Takatani N, Use K, Uesaka K, Ikeda K, Chang Y, et al. (2015)Identification of a cyanobacterial RND-type efflux system involved in export of free fatty acids. Plant Cell Physiol. 56:2467-77. 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明は、遊離脂肪酸の製造を効率的に行うことのできる脂肪酸の製造方法と遺伝子組換え藻類を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明の課題を解決するための手段は以下の通りである。 1.遊離脂肪酸生産藻類に、下記(A)、(B)の両方を導入した遺伝子組換藻類を、 pH9.0以上12.0以下の条件下で培養して脂肪酸を生産させることを特徴とする脂肪酸の製造方法。 (A)配列番号1で表される塩基配列を含みSodBをコードするDNA、または、該SodBをコードするDNAとの塩基配列の同一性が80%以上であり、かつ、スーパーオキシドディムターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。 (B)配列番号2で表される塩基配列を含みVktAをコードするDNA、または、該VktAをコードするDNAとの塩基配列の同一性が80%以上であり、かつ、カタラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。 2.前記遺伝子組換藻類が、シネココッカス・エロンガタスPCC7942株(Synechococcus elongatus PCC 7942)を親株とすることを特徴とする1.に記載の脂肪酸の製造方法。 3.前記遺伝子組換藻類が、dAS1T_SV株(受託番号NITE FERM BP-22464)またはdAS2T_pRND1_SV株(受託番号NITE FERM BP-22465)であることを特徴とする1.または2.に記載の脂肪酸の製造方法。 4.遊離脂肪酸生産藻類に、下記(A)、(B)の両方を導入した遺伝子組換藻類。 (A)配列番号1で表される塩基配列を含みSodBをコードするDNA、または、該SodBをコードするDNAとの塩基配列の同一性が80%以上であり、かつ、スーパーオキシドディムターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。 (B)配列番号2で表される塩基配列を含みVktAをコードするDNA、または、該VktAをコードするDNAとの塩基配列の同一性が80%以上であり、かつ、カタラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。 5.前記遊離脂肪酸生産藻類が、シネココッカス・エロンガタスPCC7942株(Synechococcus elongatus PCC 7942)に遺伝子組換えを行った藻類であることを特徴とする4.に記載の遺伝子組換藻類。 6.dAS1T_SV株(受託番号NITE FERM BP-22464)またはdAS2T_pRND1_SV株(受託番号NITE FERM BP-22465)である遺伝子組換藻類。 【発明の効果】 【0008】 本発明において使用する遺伝子組換藻類は、遺伝子組換え前と比較して、アルカリ条件下での脂肪酸生産性に優れている。一般的な藻類の至適pHはpH8.0程度であるため、pH9~12の範囲内を保つことにより、他の微生物、特に他の藻類によるコンタミネーションの発生を防止することができる。 【図面の簡単な説明】 【0009】 実験1における、dAS1T_SV株とdAS1T株を、180uE/m 2 ・sの連続光照射下で培養したときの、菌体量(OD 730 )と遊離脂肪酸濃度の経時変化を示すグラフ。 実験2における、dAS1T_SV株とdAS1T株を、pH10で培養したときの、菌体量(OD 730 )と遊離脂肪酸濃度の経時変化を示すグラフ。 実験2における、dAS1T_SV株とdAS1T株を、pH11で培養したときの、菌体量(OD 730 )と遊離脂肪酸濃度の経時変化を示すグラフ。 実験3における、dAS2T_pRND1_SV株とdAS2T_pRND1株を、pH10で培養したときの、菌体量(OD 730 )と遊離脂肪酸濃度の経時変化を示すグラフ。 実験3における、dAS2T_pRND1_SV株とdAS2T_pRND1株を、pH11で培養したときの、菌体量(OD 730 )と遊離脂肪酸濃度の経時変化を示すグラフ。 【発明を実施するための形態】 【0010】 SodBは、Synechocystis sp. PCC 6803株由来のスーパーオキシドディスムターゼ(superoxide dismutase)であり、遺伝子sodB(配列番号1)にコードされている。sodBの配列情報は、データベースCyanobaseのslr1516(https://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?syn:slr1516)に登録されている。 VktAは、過酸化水素耐性菌であるビブリオ・ルモイエンシス(Vibrio rumoiensis)由来のカタラーゼ(catalase)であり、遺伝子vktA(配列番号2)にコードされている。vktAの配列情報は、DDBJ/GenBank/EMBL番号AB030821(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/9967435)に登録されている。 (【0011】以降は省略されています) この特許をJ-PlatPatで参照する