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公開番号2024126456
公報種別公開特許公報(A)
公開日2024-09-20
出願番号2023034840
出願日2023-03-07
発明の名称マウス組換え抗体の生産性向上
出願人東洋紡株式会社
代理人
主分類C12N 15/13 20060101AFI20240912BHJP(生化学;ビール;酒精;ぶどう酒;酢;微生物学;酵素学;突然変異または遺伝子工学)
要約【課題】 マウス抗体又はその断片の組換え発現における生産性を向上させること。
【解決手段】 本発明は、以下の(1)及び(2):
(1)マウス抗体軽鎖のフレームワーク領域においてKabat法で定義される7位、24位、及び106位からなる群より選択される少なくとも一つの位置でアミノ酸を改変すること、或いは、
(2)マウス抗体重鎖フレームワーク領域においてKabat法で定義される23位でアミノ酸を改変すること、
のいずれか又はその両方により、マウス抗体又はその断片の組換え発現における生産性を向上させる方法を提供する。
【選択図】 なし
特許請求の範囲【請求項1】
(1)マウス抗体軽鎖のフレームワーク領域においてKabat法で定義される7位、24位、及び106位からなる群より選択される少なくとも一つの位置でアミノ酸を改変すること、或いは、
(2)マウス抗体重鎖フレームワーク領域においてKabat法で定義される23位でアミノ酸を改変すること、
のいずれか又はその両方により、マウス抗体又はその断片の組換え発現における生産性を向上させる方法。
続きを表示(約 1,600 文字)【請求項2】
前記(1)のアミノ酸改変として、マウス抗体軽鎖フレームワーク領域においてKabat法で定義される7位のアミノ酸をチロシン残基に置換すること、24位のアミノ酸をアルギニン残基に置換すること、及び/又は106位のアミノ酸をロイシン残基に置換することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(1)のアミノ酸改変として、マウス抗体軽鎖のフレームワーク領域においてKabat法で定義される7位、24位、及び106位でアミノ酸を改変することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記(2)のアミノ酸改変として、マウス抗体重鎖フレームワーク領域においてKabat法で定義される23位のアミノ酸をアラニン残基に置換することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記(1)のアミノ酸改変として、マウス抗体軽鎖フレームワーク領域においてKabat法で定義される7位のアミノ酸をチロシン残基に置換すること、24位のアミノ酸をアルギニン残基に置換すること、及び106位のアミノ酸をロイシン残基に置換することを含み、且つ、
前記(2)のアミノ酸改変として、マウス抗体重鎖フレームワーク領域においてKabat法で定義される23位のアミノ酸をアラニン残基に置換することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
(1’)配列番号3と85%以上のアミノ酸配列同一性を有し、且つ配列番号3で示されるアミノ酸配列の7番目及び24番目のアミノ酸残基が改変されている軽鎖フレームワーク領域1、及び/又は配列番号4と85%以上のアミノ酸配列同一性を有し、且つ配列番号4で示されるアミノ酸配列の11番目のアミノ酸残基が改変されている軽鎖フレームワーク領域4を含むように抗体又はその断片のアミノ酸配列を設計し、それを組換え発現すること、又は、
(2’)配列番号5と85%以上のアミノ酸配列同一性を有し、且つ配列番号5で示されるアミノ酸配列の23番目のアミノ酸残基が改変されている重鎖フレームワーク領域1を含むように抗体又はその断片のアミノ酸配列を設計し、それを組換え発現すること、
のいずれか或いはその両方により、抗体又はその断片の組換え発現における生産性を向上させる方法。
【請求項7】
前記(1’)の軽鎖フレームワーク領域1のアミノ酸配列を配列番号6で示されるアミノ酸配列とすること、且つ軽鎖フレームワーク領域4のアミノ酸配列を配列番号7で示されるアミノ酸配列とすること、及び
前記(2’)の重鎖フレームワーク領域1のアミノ酸配列を配列番号8で示されるアミノ酸配列とすることを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
CHO細胞、HEK細胞、Vero細胞、MDCK細胞及びハイブリドーマ細胞からなる群より選択される少なくとも一つの哺乳動物細胞を宿主細胞として使用して、抗体又はその断片を組換え発現する場合の生産性を向上させる、請求項1又は6に記載の方法。
【請求項9】
前記宿主細胞を流加培養法、回分培養法、又は連続培養法で培養して、抗体又はその断片を組換え発現する場合の生産性を向上させる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
以下(1)又は(2)のいずれか或いはその両方の特徴を含む、マウス抗体又はその断片:
(1)マウス抗体軽鎖のフレームワーク領域においてKabat法で定義される7位、24位、及び106位からなる群より選択される少なくとも一つの位置でアミノ酸が改変されている、又は、
(2)マウス抗体重鎖フレームワーク領域においてKabat法で定義される23位でアミノ酸が改変されている。
(【請求項11】以降は省略されています)

発明の詳細な説明【技術分野】
【0001】
本発明は、マウス組換え抗体を生産する場合の生産効率を改善する方法等に関する。より具体的には、遺伝子組み換え技術を用いて、マウス抗体の軽鎖及び重鎖の配列のアミノ酸残基を改変することによって組換え発現での抗体生産性を向上する方法等に関する。
続きを表示(約 4,700 文字)【背景技術】
【0002】
免疫グロブリンは、血液中や組織液中に存在し、免疫の中で大きな役割を担っている、抗体としての機能と構造を持つタンパク質の総称である。抗体は、例えば、生体にとって異物である特定の抗原(目印)に特異的に結合し、その異物を生体内から除去する役割を担う。また、抗原との特異的な結合性を応用して、免疫学の対象としてだけでなく、基礎研究から製品研究にわたり、物質の分析、同定、精製、分離など極めて幅広い分野で応用されている。
【0003】
抗体を効率よく量産する方法として、遺伝子組換え技術を用いた方法、すなわち目的とする抗体のアミノ酸残基をコードする遺伝子配列を組換えタンパク質発現に適したベクターに挿入して遺伝子発現構成体を構築し、これを宿主細胞に導入して発現させる方法等が広く行われている。
【0004】
しかしながら、例えば、ハイブリドーマから得られた抗体を組換え発現により取得しようとする場合、抗体の種類によっては組換え発現が難しく、十分量の組換え抗体を生産できないケースがある。このような場合、例えば、宿主細胞の培養条件等を種々検討して生産量を高める試みがなされているが、最適条件の検討には多くの試行錯誤を要する。
【0005】
またこれまでに、抗体のアミノ酸残基を改変して抗体の性質を改変する検討がなされている。例えば、特許文献1は、Kabat法で定義されるフレームワーク領域3(FR3)の特定の位置で少なくとも3つのアミノ酸残基をアルギニン残基又はリジン残基とすることにより、抗原に対する親和性を向上させることが提案されている。特許文献2においても、抗体のH鎖可変部のフレームワーク領域1のアミノ酸置換またはアミノ酸挿入により、抗原に対する親和性が向上した抗体をスクリーニングする方法が開示されている。
【0006】
さらに、ヒト抗体またはヒト化抗体の可変領域軽鎖のKabat numberingに従う15位に位置するアミノ酸を所定のアミノ酸に置換することにより、ヒト抗体又はヒト化抗体の抗原特異性、免疫原性、生産性を改良する方法も知られている(特許文献3)。しかしこの文献では、マウス抗体を用いると高い免疫原性によって抗体医薬として用いた場合に重篤な副作用を招く可能性があるとしてヒト抗体又はヒト化抗体に着目しており、マウス抗体の抗体生産性を向上させることは一切記載していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
特開2022-102539号公報
特開2021-141861号公報
特許第5142707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の一つの目的は、抗体を組換え発現する場合の生産性を向上させる方法を提供することである。なかでも、物質の分析、同定、精製、分離等の多くの分野で広く使用されているマウス抗体の組換え発現における生産性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述のような事情に鑑み鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
即ち、代表的な本発明は以下の通りである。
[項1] (1)マウス抗体軽鎖のフレームワーク領域においてKabat法で定義される7位、24位、及び106位からなる群より選択される少なくとも一つの位置でアミノ酸を改変すること、或いは、
(2)マウス抗体重鎖フレームワーク領域においてKabat法で定義される23位でアミノ酸を改変すること、
のいずれか又はその両方により、マウス抗体又はその断片の組換え発現における生産性を向上させる方法。
[項2] 前記(1)のアミノ酸改変として、マウス抗体軽鎖フレームワーク領域においてKabat法で定義される7位のアミノ酸をチロシン残基に置換すること、24位のアミノ酸をアルギニン残基に置換すること、及び/又は106位のアミノ酸をロイシン残基に置換することを含む、項1に記載の方法。
[項3] 前記(1)のアミノ酸改変として、マウス抗体軽鎖のフレームワーク領域においてKabat法で定義される7位、24位、及び106位でアミノ酸を改変することを含む、項1又は2に記載の方法。
[項4] 前記(2)のアミノ酸改変として、マウス抗体重鎖フレームワーク領域においてKabat法で定義される23位のアミノ酸をアラニン残基に置換することを含む、項1~3のいずれかに記載の方法。
[項5] 前記(1)のアミノ酸改変として、マウス抗体軽鎖フレームワーク領域においてKabat法で定義される7位のアミノ酸をチロシン残基に置換すること、24位のアミノ酸をアルギニン残基に置換すること、及び106位のアミノ酸をロイシン残基に置換することを含み、且つ、
前記(2)のアミノ酸改変として、マウス抗体重鎖フレームワーク領域においてKabat法で定義される23位のアミノ酸をアラニン残基に置換することを含む、項1~4のいずれかに記載の方法。
[項6] (1’)配列番号3と85%以上のアミノ酸配列同一性を有し、且つ配列番号3で示されるアミノ酸配列の7番目及び24番目のアミノ酸残基が改変されている軽鎖フレームワーク領域1、及び/又は配列番号4と85%以上のアミノ酸配列同一性を有し、且つ配列番号4で示されるアミノ酸配列の11番目のアミノ酸残基が改変されている軽鎖フレームワーク領域4を含むように抗体又はその断片のアミノ酸配列を設計し、それを組換え発現すること、又は、
(2’)配列番号5と85%以上のアミノ酸配列同一性を有し、且つ配列番号5で示されるアミノ酸配列の23番目のアミノ酸残基が改変されている重鎖フレームワーク領域1を含むように抗体又はその断片のアミノ酸配列を設計し、それを組換え発現すること、
のいずれか或いはその両方により、抗体又はその断片の組換え発現における生産性を向上させる方法。
[項7] 前記(1’)の軽鎖フレームワーク領域1のアミノ酸配列を配列番号6で示されるアミノ酸配列とすること、且つ軽鎖フレームワーク領域4のアミノ酸配列を配列番号7で示されるアミノ酸配列とすること、及び
前記(2’)の重鎖フレームワーク領域1のアミノ酸配列を配列番号8で示されるアミノ酸配列とすることを含む、項6に記載の方法。
[項8] CHO細胞、HEK細胞、Vero細胞、MDCK細胞及びハイブリドーマ細胞からなる群より選択される少なくとも一つの哺乳動物細胞を宿主細胞として使用して、抗体又はその断片を組換え発現する場合の生産性を向上させる、項1~7のいずれかに記載の方法。
[項9] 前記宿主細胞を流加培養法、回分培養法、又は連続培養法で培養して、抗体又はその断片を組換え発現する場合の生産性を向上させる、項8に記載の方法。
[項10] 以下(1)又は(2)のいずれか或いはその両方の特徴を含む、マウス抗体又はその断片:
(1)マウス抗体軽鎖のフレームワーク領域においてKabat法で定義される7位、24位、及び106位からなる群より選択される少なくとも一つの位置でアミノ酸が改変されている、又は、
(2)マウス抗体重鎖フレームワーク領域においてKabat法で定義される23位でアミノ酸が改変されている。
[項11] 前記(1)のアミノ酸改変として、マウス抗体軽鎖フレームワーク領域においてKabat法で定義される7位のアミノ酸がチロシン残基に置換されており、24位のアミノ酸がアルギニン残基に置換されており、及び/又は106位のアミノ酸がロイシン残基に置換されている、項10に記載の抗体又はその断片。
[項12] 前記(1)のアミノ酸改変として、マウス抗体軽鎖のフレームワーク領域においてKabat法で定義される7位、24位、及び106位のアミノ酸が改変されている、項10又は11に記載の抗体又はその断片。
[項13] 前記(2)のアミノ酸改変として、マウス抗体重鎖フレームワーク領域においてKabat法で定義される23位のアミノ酸がアラニン残基に置換されている、項10~12のいずれかに記載の抗体又はその断片。
[項14] 前記(1)のアミノ酸改変として、マウス抗体軽鎖フレームワーク領域においてKabat法で定義される7位のアミノ酸がチロシン残基に置換されており、24位のアミノ酸がアルギニン残基に置換されており、及び106位のアミノ酸がロイシン残基に置換されており、且つ、
前記(2)のアミノ酸改変として、マウス抗体重鎖フレームワーク領域においてKabat法で定義される23位のアミノ酸がアラニン残基に置換されている、項10~13のいずれかに記載の抗体又はその断片。
[項15] 以下(1’)又は(2’)のいずれか或いはその両方の特徴を含む、抗体又はその断片:
(1’)配列番号3と85%以上のアミノ酸配列同一性を有し、且つ配列番号3で示されるアミノ酸配列の7番目及び24番目のアミノ酸残基が改変されている軽鎖フレームワーク領域1、及び/又は配列番号4と85%以上のアミノ酸配列同一性を有し、且つ配列番号4で示されるアミノ酸配列の11番目のアミノ酸残基が改変されている軽鎖フレームワーク領域4を含む、又は、
(2’)配列番号5と85%以上のアミノ酸配列同一性を有し、且つ配列番号5で示されるアミノ酸配列の23番目のアミノ酸残基が改変されている重鎖フレームワーク領域1を含む。
[項16] 前記(1’)の軽鎖フレームワーク領域1のアミノ酸配列が配列番号6で示されるアミノ酸配列からなり、且つ軽鎖フレームワーク領域4のアミノ酸配列が配列番号7で示されるアミノ酸配列からなり、及び
前記(2’)の重鎖フレームワーク領域1のアミノ酸配列が配列番号8で示されるアミノ酸配列からなる、項15に記載の抗体又はその断片。
[項17] 前記断片がFab、F(ab’)2、又はscFvである、項10~16のいずれかに記載の抗体の断片。
[項18] 項10~17のいずれかに記載の抗体又はその断片をコードするポリヌクレオチド。
[項19] 項18に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
[項20] 項19に記載のベクターで形質転換された細胞。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、組換え発現で抗体を取得する場合の生産性が向上した抗体が得られる。本発明は、抗体の可変領域の中でも、抗原に対する特異性を決定づける相補性決定領域(complementarity determining region:CDR)のアミノ酸配列を変更する必要がないため、抗原に対する特異性を失わずに、組換え発現によりマウス抗体を高生産することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
(【0011】以降は省略されています)

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