発明の詳細な説明【技術分野】 【0001】 本発明は、透明導電膜などに利用するためのグラフェン膜の製造装置に関する。 続きを表示(約 3,800 文字)【背景技術】 【0002】 SP 2 結合した炭素原子による導電性の平面状結晶は「グラフェン」と呼ばれている。グラフェンについては非特許文献1に詳述されている。グラフェンは様々な形態の結晶性炭素膜の基本単位である。グラフェンによる結晶性炭素膜の例としては、一層のグラフェンによる単層グラフェン、ナノメートルサイズのグラフェンの数層から十層程度の積層体であるナノグラフェン、さらに数層から数十層程度のグラフェン積層体が基材面に対して垂直に近い角度で配向するカーボンナノウォール(非特許文献2参照)などがある。 【0003】 グラフェンによる結晶性炭素膜は、その高い光透過率と電気伝導性のため、透明導電膜や透明電極としての利用が期待されている。さらにグラフェン中の電子およびホールのキャリア移動度は室温でシリコンの100倍も高い最大20万cm 2 /Vsになる可能性がある。このグラフェンの特性を生かしてテラヘルツ(THz)動作を目指した高周波デバイスや高感度のセンサーの開発も進められている。 【0004】 グラフェン透明導電膜の製造方法についてはこれまで、天然黒鉛からの剥離法、炭化ケイ素の高温熱処理によるケイ素の脱離法、さらにさまざまな金属表面への形成法などが開発されているが、グラフェンによる結晶性炭素膜を用いた透明導電性炭素膜は多岐にわたる工業的な利用が検討されており、そのため、高いスループットで大面積の成膜法が望まれている。 【0005】 グラフェン透明導電膜の形成法のひとつとして、銅箔表面への化学気相合成法(CVD)による方法が開発された(非特許文献3、4参照)。この銅箔を基材とするグラフェン成膜手法は、熱CVD法によるものであって、原料ガスであるメタンガスを1000℃程度で熱的に分解し、銅箔表面に1層のグラフェンを形成するものである。しかしながら、上記熱CVD法によるグラフェン製法では、基本的にメタンガスなど気体状の原料が加熱した銅箔と接触することにより分解するが、この分解効率が低いため、一層のグラフェンが銅箔上に形成されるのに少なくとも30分、通常は1時間から数時間を要する。したがってグラフェンの工業利用を実現するため、より短時間のグラフェン合成手法の開発が必要である。また基本的にこの手法は、1枚の銅箔基材にグラフェンを合成し終わったら基材を入れ替えて次のグラフェンを合成するというバッチプロセスであるため、より量産に適するロールツーロール方式などの連続的な合成手法の開発が望まれていた。 【0006】 成膜用基材を巻き取りながら、いわゆるロールツーロール方式で、基材表面に薄膜を連続的に合成する手法は、従来から薄膜の工業利用の様々な分野で利用されてきたが、近年グラフェンの高スループットの連続合成手法としても適用が試みられている(特許文献1、2、非特許文献5、6、7)。一例として特許文献1には、グラフェン透明導電膜の製造方法とその製造装置が開示されている。この手法では導電性を有するフレキシブルな成膜用基材である銅箔を巻き取りながら、銅箔に直接電流を印加してグラフェンの生成温度以上に加熱し、銅箔の表面に原料である炭素源物質を接触させることによりグラフェンを生成する。すなわち、銅箔を巻き取りながら通電加熱により900~1000℃に加熱し、メタンガスを炭素源として含むアルゴンと水素の混合ガス中にさらすという熱CVD法により、銅箔表面にロールツーロール方式で連続的にグラフェンを合成する手法である。しかしながらこの手法は基本的に熱CVD法による合成であるためプロセス時間が長いという課題は未解決であり、より高スループットの合成法の開発が必要とされてきた。 また特許文献2には、銅箔を成膜用基材に用いたプラズマCVD法によるロールツーロール方式のグラフェンの高スループット製造方法が開示されている。この手法によれば、毎秒2~5mmの銅箔の巻き取り速度で連続的にグラフェンを合成できたことが報告されている。一方この手法で合成したグラフェンをラマン分光で分析したところ、欠陥に起因するDバンドの強度が高い、欠陥を多く含んだ結晶品質が低いものであった。層数も数層から数十層程度であり、単層および二層のいわゆる原子層のグラフェンを得ることはできていない。またこのグラフェンで透明導電膜を作製して測定したところ、シート抵抗は1×10 5 Ωとたいへん高抵抗であった。このようにこの手法では結晶品質の高いグラフェンを得ることはできていない。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0007】 特許第5862080号公報 特許第5692794号公報 【非特許文献】 【0008】 山田久美、化学と工業、61(2008)pp.1123-1127. Y.Wu, P.Qiao, T.Chong, Z.Shen, Adv. Mater. 14(2002)pp.64-67. Alfonso Reina, Xiaoting Jia, John Ho, Daniel Nezich, Hyungbin Son, Vladimir Bulovic, Mildred S. Dresselhaus, Jing Kong, Nano letters, 9(2009)pp.30-35. Xuesong Li, Yanwu Zhu, Weiwei Cai, Mark Borysiak, Boyang Han, David Chen, Richard D. Piner, Luigi Colombo, Rodney S. Ruoff, Nano Letters, 9(2009)pp.4359-4363. Low-temperature graphene synthesis using microwave plasma CVD, Takatoshi Yamada, Jaeho Kim, Masatou Ishihara, Masataka Hasegawa, J. Phys. D 46 (2013) 063001 (8pp). Production of a 100-m-long high-quality graphene transparent conductive film by roll-to-roll chemical vapor deposition and transfer process, T. Kobayashi, M. Bando, N. Kimura, K. Shimizu, K. Kadono, N. Umezu, K. Miyahara, S. Hayazaki, S. Nagai, Y. Mizuguchi, Y. Murakami, D. Hobara, Appl. Phys. Lett. 2013, 102, 023112. High-speed roll-to-roll manufacturing of graphene using a concentric tube CVD reactor, Erik S. Polsen, Daniel Q. McNerny, B. Viswanath, Sebastian W. Pattinson, A. John Hart Scientific Reports 5 (2015) 10257. 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 発明者らはより高スループットで結晶品質の高いグラフェンの合成手法を確立するべく、特許文献1と特許文献2の手法を組み合わせ、銅箔に電流を印加してジュール加熱により銅箔をグラフェンの生成温度以上に加熱し、銅箔を連続的に巻き取りながら炭素源であるメタンガスを水素と混合したガス、あるいは炭素源であるメタンガスを水素およびアルゴンと混合したガスを励起したプラズマを照射することによるグラフェン合成の試験を行った。その結果、この手法で形成したグラフェンは欠陥を多く含んだ結晶品質の低いものであることを確認した。またこの低い結晶品質の原因は、グラフェンの形成過程でプラズマ照射によるイオン衝撃でグラフェンに照射損傷が発生したことにあることが分かった。 【0010】 本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、通電加熱で加熱した銅箔などのグラフェン合成用金属製基材を連続的に巻き取りながらプラズマを照射し、いわゆるロールツーロール方式でグラフェンを合成する場合、プラズマのイオン衝撃によりグラフェンに欠陥が生成して結晶性が著しく劣化するという問題を解決し、より結晶性の高い単層および二層のグラフェンを連続的に高スループットに形成しうるグラフェン膜の製造装置を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 (【0011】以降は省略されています) この特許をJ-PlatPatで参照する