発明の詳細な説明【技術分野】 【0001】 本発明は、スピン波導波構造体に関する。 続きを表示(約 2,700 文字)【背景技術】 【0002】 近年、インターネットや人工知能における情報量の急激な増大に伴い、電子デバイスにも継続的な成長が求められている。これまで、電子デバイスの微細化と集積化によって性能向上が実現されてきたが、微細化が物理限界に近づいたことによる発熱の問題が顕著化し、結果的にデバイスの性能向上が妨げられる状況に陥っている。この発熱は、電子が導体中を移動する時によって生じるジュール熱が原因であり、電子を移動させないで情報処理を行うデバイスが実現できれば、この問題を解決できると考えられている。そこで、電気を通さない絶縁体中を、電子の移動を伴わずに伝搬できるスピン波を使ったデバイスに注目が集まっている。ただし、スピン波を使ったデバイスの開発は、ここ十年ほどで急速に注目が集まったものであり、スピン波の伝搬素子や、初歩的なロジック素子など、基本的なコンポーネントが、地道に開発されているような状況であり、2023年時点でも黎明期にあるといえる。 【0003】 この背景から、スピン波デバイス(スピン波回路)の中でも最も基本的な素子である、導波路の実現方法・構造が開発されてきている。スピン波の導波路は、電子回路における電線(配線)に相当するものであり、必須なものといえる。なお、スピン波(すぴんは)とは、磁性体の中の磁化(スピン)が作る位相波である。これは、静磁波(せいじは)とも言う。本明細書の説明においては、スピン波とは「静磁波」も含む概念である。 【0004】 スピン波は、磁性材料内でのみ伝搬し、空気中では伝搬しない。そのため、磁性材料を任意の形状に加工することで、スピン波の配線が可能になる。通常は、磁性材料をエッチングや削り出すことで、任意の形状の導波路を作製する。非特許文献1では、Figure 1に示されているように、磁性材料をΨの形に削り出すことで、スピン波導波路を作製した例が紹介されている。これにより、スピン波を任意の位置に配線することが可能になった。しかし、磁性材料の形状を変えると、磁化状態が変わってしまい、スピン波の伝搬強度が変化するため、スピン波デバイスの電力効率が劣化するという課題がある。この磁性体の形状変化によって生じる磁化状態の変化は、全ての磁性体に共通する原理であり、形状変化を行う限り回避する方法は存在しない。 【0005】 磁性材料に周期的に穴を開けることで、周期的な磁化構造が作製できる。周期的に穴が形成された磁性材料の中を伝搬するスピン波のうち、特定周波数のスピン波だけは位相干渉によって伝搬ができなくなる。この伝搬できない周波数の範囲をバンドギャップという。周期構造の中に、一筋の周期構造が無い領域を作ることで、その筋に沿ってスピン波を伝搬することができる。非特許文献2は、これを実験で実証した論文である。しかし、この非特許文献2では磁性材料の形状が変わっているため、非特許文献1の場合と同様に、スピン波の伝搬強度が変わってしまい、スピン波デバイスの電力効率が著しく劣化する課題が残っている。 【先行技術文献】 【非特許文献】 【0006】 Naoki Kanazawa, Taichi Goto, Koji Sekiguchi, Alexander B. Granovsky, Caroline A. Ross, Hiroyuki Takagi, Yuichi Nakamura, Hironaga Uchida and Mitsuteru Inoue, "The role of Snell’s law for a magnonic majority gate", Scientific Reports, 7, 7898 (2017/08/11). Y. Zhu, K. H. Chi and C. S. Tsai, "Magnonic crystals-based tunable microwave phase shifters", Applied Physics Letters, 105, 022411 (2014). 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 上記のように、スピン波配線を実現するには、スピン波の導波路が必要となる。スピン波の導波路を作製するには、非特許文献1と非特許文献2の構造が開示されている。しかし、非特許文献1と非特許文献2のいずれの構造も、磁性体材料の形状を、加工により変化させる必要があるため、磁性材料のもつ形状依存性によって、スピン波の伝搬効率(消費電力)が悪化することが分かっている。このことから、磁性材料の形状は変化せずに、スピン波の導波方向を制御する構造が求められていた。これが、現代のスピン波導波路の課題である。これを解決する有効な構造は、提案されていない現状にあった。 【0008】 本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、磁性材料の形状を変化させること無く、スピン波を導波可能なスピン波導波構造体を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 上記目的を達成するために、本発明では、スピン波を導波するためのスピン波導波構造体であって、絶縁磁性体膜と、前記絶縁磁性体膜の両表面のうち少なくとも一方の表面上に配置された、周期的構造を有する導電体膜からなる周期的導電体膜とを有し、前記周期的導電体膜の周期的構造は、前記導電体膜が、複数の小片膜の集合体からなるものであり、前記小片膜は隣接する小片膜と互いに電気的に絶縁されているものであり、前記小片膜の電気的な絶縁は、前記小片膜同士が、複数の穴と該複数の穴同士をつなぐ溝によって区切られることによるか、又は、前記穴及び溝の少なくとも一部に非磁性かつ非導電の材料が存在することによるものであり、前記絶縁磁性体膜上に前記周期的導電体膜を有する部分と、前記絶縁磁性体膜上に前記導電体膜を有しない部分とを有し、前記導電体膜を有しない部分の前記絶縁磁性体膜がスピン波導波路として機能するものであることを特徴とするスピン波導波構造体を提供する。 【0010】 このようなスピン波導波構造体は、磁性材料の形状を変化させること無く、スピン波導波が可能である。すなわち、絶縁磁性体膜のうち導電体膜を有しない部分をスピン波導波路として機能させることができ、絶縁磁性体膜の形状を変化させなくても、導電体膜の形成箇所を変化させることにより、スピン波の導波が可能である。 (【0011】以降は省略されています) この特許をJ-PlatPatで参照する