発明の詳細な説明【技術分野】 【0001】 本発明は、血液や尿等の生体試料に含まれる物質のうち心房細動の発症に関連する物質の測定方法に関する。 続きを表示(約 3,400 文字)【背景技術】 【0002】 心房細動は比較的よく認められる心臓不整脈である。心房細動の有病率は加齢に伴い増加し、また、各年齢層では一般に男性の方が女性よりも有病率が高い。心房細動では、速く不規則で無秩序な心房興奮が起こり、有効な心房収縮が消失するため、心房内の血流が停滞して心房内に血栓が形成される。心房内の血栓形成が原因となって発症する脳塞栓(心原性脳梗塞)は心房細動の重篤な合併症の一つであり、その予防として抗凝固薬による治療が永続的に必要となる場合が多い。 【0003】 また、心房細動では有効な心房収縮が得られないため心拍出量が減少する。そのため、心疾患を有する患者で心房細動が発生すると、血行動態が保てず心不全が増悪する。さらに、心房細動による頻脈が持続すると心筋障害が起こり、長期的には心機能の低下をもたらす。従って、心房細動が発生した場合には、抗不整脈薬による薬物療法や、電気的除細動及びカテーテルアブレーション等の非薬物療法を用いた早期の洞調律化や再発予防、心拍数調節治療が重要となる(非特許文献1)。 【0004】 心房細動の診断手法としては12誘導心電図検査が標準的である。しかしながら、発作性のように時々しか起こらない心房細動は短時間の検査では見つけ出すことが容易でないことから、24時間継続して心電図がとれるホルター心電計が用いられる。さらに、心臓の弁の異常ではないことを除外するためには、心エコー検査が行われる。心房細動が初めて発生してから持続性心房細動に移行する危険因子としては、心不全、高齢(75歳以上)、一過性脳虚血発作や脳梗塞の既往、慢性閉塞性肺疾患、高血圧などが挙げられる(非特許文献2)。 【0005】 心房細動を発症した比較的早い段階において心房細動の診断ができれば、脳梗塞などの重篤な合併症の予防が可能となるばかりでなく、洞調律維持のための迅速な対応をとることができる。さらに、持続性心房細動への移行を促進する背景因子の管理に役立てることができる(非特許文献3)。従って、心房細動の発症前状態や早期の状態を特異的に捉えた疾患マーカーは、心房細動の治療や予防のために非常に有用である。 【先行技術文献】 【非特許文献】 【0006】 心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版). de Vos, C. B. et al. Progression from paroxysmal to persistent atrial fibrillation: clinical correlates and prognosis. J Am Coll Cardiol 55, 725-731 (2010) Aggressive Risk Factor Reduction Study for Atrial Fibrillation and Implications for the Outcome of Ablation: The ARREST-AF Cohort Study. J Am Coll Cardiol 64, 2222-2231 (2014) Schnabel, R. B. et al. Relation of multiple inflammatory biomarkers to incident atrial fibrillation. Am J Cardiol. 104, 92-6 (2009) Mayr, M. et al. Combined metabolomic and proteomic analysis of human atrial fibrillation. J Am Coll Cardiol. 51, 585-94 (2008) Alonso A, Yu B, Qureshi WT, Grams ME, Selvin E, Soliman EZ, Loehr LR, Chen LY,Agarwal SK, Alexander D, Boerwinkle E. Metabolomics and Incidence of AtrialFibrillation in African Americans: The Atherosclerosis Risk in Communities (ARIC) Study. PLoS One. 2015 Nov 6;10(11) Ehret, G. B. et al. International Consortium for Blood Pressure Genome-Wide Association Studies (ICBP-GWAS). Genetic variants in novel pathways influence blood pressure and cardiovascular disease risk. Nature 478, 103-109 (2011) 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 これまで、心房細動の発症と関連する疾患マーカーとして、オステオプロテゲリン(Osteoprotegerin)などの炎症性マーカーが報告されている(非特許文献4)。この疾患マーカーの検出には、汎用性の高いELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay) という免疫学的検出法が用いられている。免疫学的検出法は、目的の対象物を個々に測定する方法であり、複数種類の対象物を一度に測定することはできないため、心房細動の発症に対する特異性の高い新規の疾患マーカーを網羅的に探索するには限界があった。 【0008】 近年、代謝物を解析するメタボローム解析(メタボロミクス)を用いて、様々な疾患マーカーを探索する試みが行われている。心房細動におけるメタボローム解析としては、これまでのところ2つの報告がなされている。一つは、2008年のMayrらによる、核磁気共鳴分光法(NMR)を用いたメタボローム解析とプロテオーム解析を組み合わせた前向き研究(追跡調査による研究)の報告であり、この研究では、心臓外科手術後に心房細動を発症した群と洞調律を維持したコントロール群を比較検討し、心房細動発症群における心房筋組織の代謝物の変化を観察している(非特許文献5)。心臓外科手術後に心房細動に進展した群では、心房筋組織において統率されていない代謝物の変化が認められ、心房細動の発症に関連する代謝物としてケトン体の存在が示唆された。 【0009】 もう一つは、2015年のAlonsoらによるARIC(Atherosclerosis Risk in Communities)研究の報告であり、この研究では、1919名のアフリカ系アメリカ人を22年間追跡調査し、心房細動を新規発症した183名の対象者の血清を分析している(非特許文献6)。そして、分析の結果から心房細動の発症と関連する代謝物を解析し、その結果、胆汁酸の代謝と関連のあるGlycolithocholate sulfate及びGlycocholenate sulfateが心房細動の発症と関連する代謝物として報告された。 このように、心房細動の発症に関連するマーカー候補の報告があるものの、いずれのマーカー候補も実際に臨床応用がされていない。 【0010】 心房細動はその発症要因として、遺伝因子(遺伝的素因)と環境因子(生活習慣)の二つが考えられている(非特許文献7)。遺伝的素因は、疾患の発症し易さという点で重要であり、遺伝子情報を疾患マーカーの一つとして将来における疾患発症のリスクを推定できると考えられるが、遺伝子素因だけでは早期の段階で疾患を診断することは困難である。また、生活習慣は、遺伝的素因に影響を及ぼすような習慣の場合は遺伝因子と同様に重要な環境因子となるが、生活習慣は年齢とともに変化することが多く、また、多種多様な要因が重なり合って発症する疾患を早期の段階で診断することは困難である。 (【0011】以降は省略されています)
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