発明の詳細な説明【技術分野】 【0001】 本発明は、エクオール含有大豆胚軸発酵物から有用成分が抽出されたエクオール含有抽出物、及びその製造方法に関する。また、本発明は、エクオール含有物から高純度のエクオールを効率的に精製する方法に関する。更に、本発明は、エクオール含有食品素材、及びエクオール含有食品に関する。 続きを表示(約 3,500 文字)【背景技術】 【0002】 大豆中に含まれるイソフラボン(大豆イソフラボン;ダイゼイン、ゲニステイン、グリシテイン)はエストラジオールと構造が類似しており、エストロゲンレセプター(以下、ERと表記する)への結合に伴う抗エストロゲン作用及びエストロゲン様作用を有している。これまでの大豆イソフラボンの疫学研究や介入研究からは、抗エストロゲン作用による乳癌、前立腺癌等のホルモン依存性の癌の予防効果や、エストロゲン様作用による更年期障害、閉経後の骨粗鬆症、高脂血症の改善効果が示唆されている。 【0003】 近年、これら大豆イソフラボンの生理作用の活性本体がダイゼインの代謝物のエクオールである可能性が指摘されている。即ち、エクオールは大豆イソフラボンと比較してERとの結合能(特に、ERβとの結合)が強く、乳房や前立腺組織などの標的臓器への移行性が顕著に高いことが報告されている(非特許文献1-4参照)。また、患者-対照研究では、乳癌、前立腺癌患者でエクオール産生者が有意に少ないことが報告され、閉経後の骨密度、脂質代謝に対する大豆イソフラボンの改善効果をエクオール産生者と非産生者に分けて解析するとエクオール産生者で有意に改善されたことも報告されている。 【0004】 エクオールは、ダイゼインより腸内細菌の代謝を経て産生されるが、エクオール産生能には個人差があり、日本人のエクオール産生者の割合は、約50%と報告されている。つまり、日本人の約50%がエクオールを産生できないヒト(エクオール非産生者)であり、このようなヒトにおいては、大豆や大豆加工食品を摂取しても、エクオールの作用に基づく有用生理効果が享受できない。従って、エクオール非産生者に、エクオールの作用に基づく有用生理効果を発現させるには、エクオール自体を摂取させることが有効であると考えられる。 【先行技術文献】 【非特許文献】 【0005】 Morito K, HiroseT, Kinjo J, Hirakawa T, Okawa M, Nohara T, Ogawa S, Inoue S, Muramatsu M, Masamune Y. Interaction of phytoestrogens with estrogen receptors αand β. Biol Pharm Bull 24(4):351-356, 2001 Maubach J, Bracke ME, Heyerick A, Depypere HT, Serreyn RF, Mareel MM, Keukeleire DD. Quantitation of soy-derived phytoestrogens in human breast tissue and biological fluids by high-performance liquid chromatography. J Chromatography B 784:137-144, 2003 Morton MS, Chan PSF, Cheng C, Blacklock N, Matos-Ferreira A, Abranches-Monteiro L, Correia R, Lloyd S, Griffiths K. Lignans and isoflavonoids in plasma and prostatic fluid in men : Samples from Portugal, Hong Kong, and the United Kingdom. Prostate 32:122-128, 1997 Tammy EH, Paul DM, Paul GF, Robert D, Stephen B, Kenneth J, Ray M, Lorraine GO, Kristiina W, Holly MS, Karen JG. Long-term dietary habits affect soy isoflavone metabolism and accumulation in prostatic fluid in caucasian men. J Nutr 135:1400-1406, 2005 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 これまでに、本発明者等は、エクオールを含有する食品素材として、大豆胚軸をエクオール産生微生物で発酵させることにより得られる大豆胚軸発酵物を見出した。当該大豆胚軸発酵物には、エクオールのみならず、イソフラボンやサポニン等の大豆由来の有用成分を含み、これによって有用生理効果を発現できるので、機能性素材として有用であることが明らかにされている。更に、当該大豆胚軸発酵物は、大豆胚軸由来のアレルゲンが低減されており、低アレルゲン素材としても有用であることが確認されている。このように、本発明者等が見出した上記大豆胚軸発酵物は、含有成分に基づく有用生理活性を示し、低アレルギー性であるので、機能性食品素材として有用であることが分かっている。 【0007】 一方、上記大豆胚軸発酵物中のエクオールの含有量は、製造に使用した大豆胚軸の種類、エクオール産生微生物の種類等によって異なるが、1重量%程度であることが多い。そこで、エクオール含有割合をより高めた素材が提供できれば、食品形態の多様化等に対応でき、様々なタイプのエクオール含有食品を容易に提供することが可能になる。しかしながら、これまでに、上記大豆胚軸発酵物自体、公知でなく、また上記大豆胚軸発酵物から効率的にエクオールを含む有用成分を抽出するには如何なる手法が有効であるかについても、明らかにされていない。 【0008】 また、上記大豆胚軸発酵物のような発酵法により得られるエクオール含有物は、化学的合成方法に比べて安全性が高く、工業的製造に適しているという利点がある。しかしながら、発酵法によって得られるエクオール含有物には、エクオール以外の代謝産物も含まれ、更には原料由来の多種の成分も残存する。また、発酵に使用した原料の種類によっては、発酵法によって得られるエクオール含有物には、アレルゲンとなり得る物質が混在している場合もある。そこで、エクオールを食品や医薬品に使用される添加剤として応用するには、エクオールを製造する技術のみならず、エクオールを高純度で精製する技術の開発も不可欠である。しかしながら、従来、エクオールを精製する方法に関しては殆ど報告がないため、工業的な応用が可能で、効率的且つ簡便にエクオールを高純度に精製できる技術の確立が望まれている。 【0009】 更に、上記大豆胚軸発酵物には、大豆胚軸に由来する苦味やエクオールに由来する苦味を持ち合わせており、食品素材として利用する場合には、風味の点に十分に十分な注意を払うことが求められる。しかしながら、上記大豆胚軸発酵物は、従来報告されていない新規食品素材であり、その風味の改善には如何なる方法が有効であるかについては分かっていない。特に、上記大豆胚軸発酵物を焼き菓子に利用する場合には、製造時に焼成工程に供されることにより風味劣化が生じ易くなるため、上記大豆胚軸発酵物を配合した焼き菓子において良好な風味を呈させることは、非常に困難な技術的な課題である。 【0010】 そこで、本発明は、エクオール含有大豆胚軸発酵物から、エクオールを含む有用成分が抽出された抽出物、及びこれを製造する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、エクオール含有物から高純度のエクオールを効率的に精製する方法を提供することを目的とする。更に、本発明は、エクオール産生微生物で大豆胚軸を発酵させることにより得られるエクオール含有大豆胚軸発酵物又はその抽出物を含み、その風味が改善されている食品素材を提供することを目的とする。また、本発明は、当該エクオール含有大豆胚軸発酵物を含み、良好な風味を呈する食品(特に、焼き菓子)を提供することを目的とする。そして更に、本発明は、エクオール含有大豆胚軸発酵物又はその抽出物を含む各種形態の食品を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 (【0011】以降は省略されています) この特許をJ-PlatPatで参照する