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公開番号2024057510
公報種別公開特許公報(A)
公開日2024-04-24
出願番号2022164308
出願日2022-10-12
発明の名称紐状構造物の製造方法
出願人学校法人立命館
代理人個人,個人
主分類C12N 5/071 20100101AFI20240417BHJP(生化学;ビール;酒精;ぶどう酒;酢;微生物学;酵素学;突然変異または遺伝子工学)
要約【課題】TEKT1発現細胞を同定および製造し、該TEKT1発現細胞を用いた、繊毛運動のメカニズムと調整、および紐状構造の形成の研究へ貢献すること、並びに該TEKT1発現細胞に感染するウイルス、特にコロナウイルス科に属するウイルスの感染メカニズムの研究および医薬品開発のための有用なツールを提供すること。
【解決手段】多能性幹細胞を少なくとも5週間浮遊培養する工程を含む、TEKT1を発現する細胞を含む紐状構造物の製造方法。
【選択図】なし


特許請求の範囲【請求項1】
多能性幹細胞を少なくとも5週間浮遊培養する工程を含む、TEKT1を発現する細胞を含む紐状構造物の製造方法。
続きを表示(約 730 文字)【請求項2】
請求項1で得られた紐状構造物から、TEKT1を発現する細胞を単離する工程を含む、繊毛細胞の製造方法。
【請求項3】
多能性幹細胞が人工多能性幹細胞または胚性幹細胞である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
多能性幹細胞が繊毛病患者に由来する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
多能性幹細胞が、TEKT1遺伝子のプロモーターに制御可能に連結された蛍光タンパク質遺伝子を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
請求項2~5のいずれか1項に記載の方法で得られた繊毛細胞。
【請求項7】
以下の特徴(A)~(F)を有する細胞または紐状構造物。
(A)多能性幹細胞由来である
(B)9+2構造の繊毛を有する
(C)9+0構造の繊毛を有する
(D)TEKT1を発現する
(E)ビメンチンを発現する
(F)ACE2を発現する
【請求項8】
さらに以下の特徴(G)~(I)の少なくともいずれか1つの特徴を有する、請求項7に記載の細胞または紐状構造物。
(G)繊毛特異的遺伝子を発現する
(H)繊毛にアセチル化チューブリンが存在する
(I)繊毛にARL13bタンパク質が存在する
【請求項9】
請求項6~8のいずれか1項に記載の細胞を凝集させる工程を含む、紐状構造物の製造方法。
【請求項10】
請求項1、3~5および9のいずれか1項に記載の方法で得られた紐状構造物。
(【請求項11】以降は省略されています)

発明の詳細な説明【技術分野】
【0001】
本発明は、紐状構造物の製造方法に関する。より詳細には、多能性幹細胞を浮遊培養する工程を含む、TEKT1を発現する細胞を含む紐状構造物の製造方法に関する。
続きを表示(約 4,500 文字)【背景技術】
【0002】
繊毛および鞭毛は、2つの主要なサブグループに分類される微小管ベースのオルガネラである。1つ目は一次繊毛であり、発生の間重要なシグナル伝達経路を調節する。2つ目は運動性繊毛であり、流体置換(fluid displacement)のために(卵管細胞、気管支上皮細胞)、または細胞運動を媒介するために(精子)高度に専門化した細胞上に存在する。一次繊毛の構造は、9対の周辺末梢微小管のダブレットである9+0構造で構成されている。一方で、大部分の運動性繊毛および鞭毛は、中心に1対の微小管と追加の軸索外の9対の微小管を有する9+2構造を含む。これらの繊毛は、真核生物において重要な生物学的機能を有することが知られている。例えば、一次繊毛は、さまざまな細胞シグナル伝達の感知および調節において重要な役割を果たし、運動性繊毛は、脳室上皮、気管、および胚結節などのさまざまな組織における流体の協調的な動きを媒介する。これらの繊毛の機能不全は、発達障害および繊毛症と呼ばれる複数の疾患に関連している。
【0003】
テクチン(Tektin)は、チューブリンと会合して繊毛及び鞭毛における軸索微小管、基底小体、及び中心小体を形成するフィラメント形成タンパク質である。テクチンは真核生物全体で進化的に保存されており、タンパク質のファミリーを構成し、ヘテロ/ホモ二量体を形成して微小管を安定化する。哺乳動物では、少なくとも5つのテクチンが同定されており、精巣、脳、網膜及び繊毛細胞を含むその他の組織での発現が報告されている(非特許文献1)。最初の哺乳動物のテクチンであるTektin1(TEKT1)は、マウス精巣のcDNAからクローニングされた。TEKT1タンパク質は、精母細胞及び精子細胞などの一倍体細胞で発現し、円形精子細胞の中心体に局在しており、このことから、TEKT1が雄の生殖細胞発生中の鞭毛形成に関与していることが示唆される。
【0004】
以前の研究において、分化の間、性核型に関係なく、ES細胞が精母細胞マーカーと卵母細胞マーカー、ならびにTEKT1を発現することも報告されている(非特許文献2、3)。また、TEKT1は、ヒトおよびカニクイザルのES細胞から精子への分化をモニターするための減数分裂マーカーとして使用されている(非特許文献2、4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
Amos, L.A., Genome Biology. 9(7):229 (2008)
Clark, A.T., et al., Human Molecular Genetics. 13(7):727-739 (2004)
Shah, S.M., et al., Reproduction, Fertility, and Development. 29(4):679-693 (2017)
Yamauchi, K., et al., PLoS ONE. 4(4):e5338 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術のin vitroでのES細胞から精子への分化方法において、TEKT1発現細胞は同定されておらず、精子へと本当に分化したかどうかは定かではない。従って、本発明は、TEKT1発現細胞を同定および製造し、該TEKT1発現細胞を用いた、繊毛運動のメカニズムと調整、および紐状構造の形成の研究へ貢献すること、並びに該TEKT1発現細胞に感染するウイルス、特にコロナウイルス科に属するウイルスの感染メカニズムの研究および医薬品開発のための有用なツールを提供することなどを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、TEKT1発現細胞を同定するために、まず、カニクイザル(Macaca fascicularis)由来のTEKT1プロモーターの制御下で蛍光タンパク質を発現するコンストラクトの設計を行った。蛍光タンパク質として、Venusを選択し、TEKT1プロモーターとして、TEKT1遺伝子の5’上流領域(-4643~-952 nt(3692 bp);イントロン2の一部、エクソン3およびイントロン3の一部を含む領域)を選択した。しかしながら、このコンストラクトではVenusの発現が認められず、プロモーター領域にVenusの発現に必要なシスエレメントが含まれていないためであると結論付けた。そこで、上記プロモーター領域を、イントロン2の一部、エクソン3、イントロン3およびエクソン4の翻訳開始コドンの直前を含む3077 bpの領域(-3077~-1 nt)に置換したところ、Venusの発現が認められた。よって、イントロン3、およびエクソン4の5'-UTR(-951~-1 nt)にTEKT1の発現に必要な重要なシスエレメントが含まれていることが示唆された。本発明者らは、上記のように構築したコンストラクトをES細胞に導入することで、TEKT1プロモーターの制御下でVenusを発現するES細胞株を樹立することに成功した。
【0008】
次に、上記ES細胞株を浮遊培養により培養することで胚様体(EB)を形成させ、さらにそのまま浮遊培養を続けた(即ち、自発的に分化誘導させた)ところ、浮遊培養による分化誘導の5週目にEBの表面でVenusの発現が認められ、Venus強度はその後EBの周辺で紐状構造の形成に付随して徐々に増加し、分化誘導の8週目で運動性繊毛がEBの表面で観察されることを見出した。また、Venus陽性細胞では、運動性繊毛の特徴であるTEKT1~5、微小管の9+2構造に加えて、繊毛マーカーの発現が確認された。これらの結果から、TEKT1発現細胞が多繊毛の上皮様細胞であり、該細胞は、多能性幹細胞からの自発的な分化中に紐状構造を形成することが示された。さらに、興味深いことに、これらの繊毛は非常に活発な運動性を持ち、繊毛を有するVenus陽性細胞の中には、単一細胞への解離後も運動性を保持しているものもあった。本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
[1-1]
多能性幹細胞を少なくとも5週間浮遊培養する工程を含む、TEKT1を発現する細胞を含む紐状構造物の製造方法。
[1-2]
さらに紐状構造物を単離する工程をさらに含む、[1-1]に記載の方法。
[2]
[1-1]または[1-2]で得られた紐状構造物から、TEKT1を発現する細胞を単離する工程を含む、繊毛細胞の製造方法。
[3-1]
多能性幹細胞が人工多能性幹細胞または胚性幹細胞である、[1-1]~[2]のいずれか1つに記載の方法。
[3-2]
多能性幹細胞が霊長類由来の細胞である、[1-1]~[3-1]のいずれか1つに記載の方法。
[4]
多能性幹細胞が繊毛病患者に由来する、[1-1]~[3-2]のいずれか1つに記載の方法。
[5]
多能性幹細胞が、TEKT1遺伝子のプロモーターに制御可能に連結された蛍光タンパク質遺伝子を有する、[1-1]~[4]のいずれか1つに記載の方法。
[6]
[2]~[5]のいずれか1つに記載の方法で得られた繊毛細胞。
[7]
以下の特徴(A)~(F)を有する細胞または紐状構造物。
(A)多能性幹細胞由来である
(B)9+2構造の繊毛を有する
(C)9+0構造の繊毛を有する
(D)TEKT1を発現する
(E)ビメンチンを発現する
(F)ACE2を発現する
[8-1]
さらに以下の特徴(G)~(I)の少なくともいずれか1つの特徴を有する、[7]に記載の細胞または紐状構造物。
(G)繊毛特異的遺伝子を発現する
(H)繊毛にアセチル化チューブリンが存在する
(I)繊毛にARL13bタンパク質が存在する
[8-2]
さらに以下の特徴(J)~(L)の少なくともいずれか1つの特徴を有する、[7]または[8-1]に記載の細胞または紐状構造物。
(J)分泌小胞を有する
(K)微絨毛を有する
(L)円柱状の形状である、または円柱状の細胞を有する
[9]
[6]~[8-2]のいずれか1つに記載の細胞を凝集させる工程を含む、紐状構造物の製造方法。
[10]
[1-1]、[1-2]、[3-1]~[5]および[9]のいずれか1つに記載の方法で得られた紐状構造物。
[11]
(i)被験物質の存在下または非存在下で、[7]~[8-2]および[10]のいずれか1つに記載の紐状構造物または[6]~[8-2]のいずれか1つに記載の細胞とウイルスとを接触させ、培養する工程、
(ii)該構造体または細胞への該ウイルスの感染の程度を評価する工程、および
(iii)工程(ii)において、被験物質の非存在下と比較して、候補物質の存在下においてウイルスの感染の程度が低いと評価された場合に、該被験物質をコロナウイルスの治療または予防薬の候補物質として選別する工程
を含む、ウイルス感染症の治療または予防薬のスクリーニング方法。
[12-1]
前記ウイルスがコロナウイルス科に属するウイルスである、[11]に記載の方法。
[12-2]
前記コロナウイルス科に属するウイルスが、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)または中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)である、[12-1]に記載の方法。
[13]
(I)被験物質の存在下または非存在下で、[7]~[8-2]および[10]のいずれか1つに記載の紐状構造物または[6]~[8-2]のいずれか1つに記載の細胞を培養する工程、
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、霊長類の多能性幹細胞から、単純な分化誘方法により、繊毛細胞および紐状の構造体を半永久的に供給可能となる。これらの細胞や構造体は、SARS-CoV、MERS-CoV、COVID-19などの新興ウイルス研究、感染・増殖メカニズムの研究に用いることが可能であり、また、新興ウイルスの治療薬の開発にも非常に有用であり得る。
【図面の簡単な説明】
(【0011】以降は省略されています)

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