発明の詳細な説明【技術分野】 【0001】 本発明は、プロテインキナーゼCデルタ(PKCδ)とExtended-synaptotagmin 1(E-Syt1)との相互作用阻害剤を含む新規肝癌治療薬に関する。 続きを表示(約 2,800 文字)【背景技術】 【0002】 真核生物において、タンパク質の分泌は、発生過程、恒常性の維持、癌の発生や進行等における細胞間コミュニケーションに必要とされる基本的なメカニズムである。分泌タンパク質が細胞の外部に移動するためには膜貫通メカニズムが重要である。一般的な分泌タンパク質は、N末端にシグナルペプチドを有しており、シグナル認識粒子と結合してトランスロコンの孔から小胞体(ER)内に移行し、ゴルジ体に輸送された後に細胞外に分泌される(ER-ゴルジ体分泌経路)。近年、ER-ゴルジ体分泌経路によらない細胞質タンパク質分泌の事例も多く報告されており、例えば細胞膜(PM)を直接経由する経路(非特許文献1)や、小胞輸送を経由する経路(非特許文献2)があり、オートファゴソーム、リソソーム、ERゴルジ体中間コンパートメント(ERGIC)等様々なタイプのオルガネラと関与することが報告されている(非特許文献3)。これらの細胞質タンパク質の分泌メカニズムは、炎症性疾患や神経変性疾患の事例においてはこれまでに研究されてきたが、癌等の他の疾患においてもこのメカニズムが適用されるものであるかどうかは明らかではなかった。 【0003】 ERは、N末端にシグナルペプチドを有するタンパク質等を合成する、細胞内で最も巨大なオルガネラである。ER膜は細胞全体に分布し、しばしば異なるオルガネラの膜の近傍に接触部位を形成し、オルガネラダイナミクスを制御したり、オートファゴソームのようなオルガネラの生合成のトリガーとなったりすることが広く知られている。オートファゴソーム形成は、ER-ミトコンドリア又はER-PMの接触部位でERの膜を起点に行われると考えられている。興味深いことに、炎症細胞において、N末端のシグナルペプチドを欠いた分泌タンパク質であるIL-1βの分泌にオートファゴソームが関与していることが報告されている。最近の研究では、オートファジーに関連したIL-1βの分泌メカニズムには、ERからゴルジ体への輸送に関わるER結合テザリング因子の一つであるSEC22Bが関与していることが報告されている(非特許文献3)。また、SEC22BはER-PM接触部位に蓄積していることが報告されおり、またE-Syt1は、STIM1と共にER-PM接触部位のテザリング因子であることが知られている(非特許文献4)。しかしながら、細胞質タンパク質の分泌がER又はER-PM接触部位に関与しているかどうかは明らかではなかった。 【0004】 これまでに、PKCδやimportinα1等、癌細胞株から活発に分泌されるいくつかの細胞質タンパク質と、それらの癌の増殖への関与が多くの研究により報告されている(特許文献1、非特許文献5、6)。PKCδ等の細胞質タンパク質の分泌は、細胞質から始まることも示唆されているが、細胞質タンパク質の分泌にどの細胞内膜が関与しているかは明らかではなかった。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0005】 特開2021-046362号公報 【非特許文献】 【0006】 The Journal of biological chemistry 279, 6244-6251 (2004) eLife 4, e11205 (2015) The EMBO journal 36, 42-60 (2017) Frontiers in cell and developmental biology 9, 635518 (2021) Cancer research 81, 414-425 (2021) Scientific reports 6, 21410 (2016) The Journal of cell biology 196, 801-810 (2012) Molecular biology of the cell 27, 1188-1196 (2016) Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 104, 3823-3828 (2007) Cancer research 69, 8844-8852 (2009) Autophagy 15, 1682-1693 (2019) 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明は、PKCδの細胞外への分泌阻害を作用機序とする新規肝癌治療薬を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者らは、肝癌細胞においてER上のE-Syt1がPKCδと相互作用することにより、小胞輸送を経由する経路によってPKCδが肝癌細胞から分泌されること、PKCδとE-Syt1との相互作用を阻害することによって肝癌細胞からPKCδが分泌されるのを阻害できることを見出し、さらにその結果、肝癌細胞の増殖が抑制されることを見出した。 【0009】 上記のような知見に基づき、本発明を完成させた。 【0010】 すなわち、本発明は以下の通りである。 [1]細胞内におけるPKCδとE-Syt1との相互作用阻害剤を含む、肝癌治療薬。[2]前記相互作用阻害剤が、抗PKCδ抗体又はその抗原結合フラグメントである、[1]に記載の肝癌治療薬。 [3]前記抗PKCδ抗体又はその抗原結合フラグメントが、配列番号1におけるアミノ酸番号601~676のアミノ酸配列もしくはそれに相当する位置のアミノ酸配列、又はそれらのアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列に含まれるエピトープ配列を認識するものである、[1]又は[2]に記載の肝癌治療薬。 [4]前記抗原結合フラグメントが、Fab、Fab’、F(ab’) 2 、scFab、scFv、ジアボディ、トリアボディ、ミニボディ、又はナノボディである、[1]~[3]の何れかに記載の肝癌治療薬。 [5]前記肝癌が、肝細胞癌である、[1]~[4]の何れかに記載の肝癌治療薬。 [6]前記相互作用阻害剤の細胞内への導入剤をさらに含む、[1]~[5]の何れかに記載の肝癌治療薬。 [7]細胞内におけるPKCδとE-Syt1との相互作用阻害剤を含む、PKCδの分泌抑制剤。 [8]細胞内におけるPKCδとE-Syt1との相互作用阻害剤を含む、肝癌細胞の増殖抑制剤。 【発明の効果】 (【0011】以降は省略されています) この特許をJ-PlatPatで参照する