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公開番号2025080648
公報種別公開特許公報(A)
公開日2025-05-26
出願番号2023193935
出願日2023-11-14
発明の名称小脳または大脳皮質における細胞において所定の遺伝子を発現させるためのベクター
出願人国立大学法人東京科学大学
代理人個人,個人,個人
主分類C12N 15/864 20060101AFI20250519BHJP(生化学;ビール;酒精;ぶどう酒;酢;微生物学;酵素学;突然変異または遺伝子工学)
要約【課題】 本発明は、小脳または大脳皮質における細胞において所定の遺伝子を発現させるためのベクターを提供することを目的とする。また、本発明は、小脳または大脳皮質における細胞における所定の遺伝子の発現産物の欠乏を処置するためのベクターを提供することを目的とする。さらに、本発明は、脳疾患を処置するためのベクターを提供することを目的とする。加えて、本発明は、小脳または大脳皮質における細胞を選択的に活性化または不活性化するためのベクターを提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、小脳または大脳皮質における細胞において所定の遺伝子を発現させるためのベクターであって、CD遺伝子のプロモーターと前記所定の遺伝子とを含む、ベクターを提供する。
【選択図】 なし
特許請求の範囲【請求項1】
小脳または大脳皮質における細胞において所定の遺伝子を発現させるためのベクターであって、CD遺伝子のプロモーターと前記所定の遺伝子とを含む、ベクター。
続きを表示(約 710 文字)【請求項2】
小脳が、小脳皮質の灰白質である、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
小脳が、外側分子層、中央プルキンエ細胞層、または内側顆粒細胞層である、請求項1に記載のベクター。
【請求項4】
小脳または大脳皮質における細胞が、小脳分子層介在ニューロン、抑制性ニューロン、興奮性ニューロン、パルブアルブミン陽性抑制性ニューロン、ゴルジ細胞、プルキンエ細胞、ルガロ細胞、またはアストロサイトである、請求項1に記載のベクター。
【請求項5】
アストロサイトが、バーグマングリアである、請求項4に記載のベクター。
【請求項6】
CD遺伝子が、CD1遺伝子、CD9遺伝子、CD24遺伝子、CD34遺伝子、CD38遺伝子、CD44遺伝子、CD52遺伝子、CD68遺伝子、CD74遺伝子、CD81遺伝子、CD83遺伝子、CD164遺伝子、CD276遺伝子、またはCD300遺伝子である、請求項1に記載のベクター。
【請求項7】
エンハンサーを含む、請求項1に記載のベクター。
【請求項8】
エンハンサーが、mscRE16エンハンサー、S5E6エンハンサー、またはHGT017エンハンサーである、請求項7に記載のベクター。
【請求項9】
miRNAターゲティング配列を含む、請求項1に記載のベクター。
【請求項10】
miRNAが、miR-133a、miR-1188、miR-1983、またはmiR-3086-5pである、請求項9に記載のベクター。
(【請求項11】以降は省略されています)

発明の詳細な説明【技術分野】
【0001】
本発明は、ベクターに関し、より具体的には、小脳または大脳皮質における細胞において所定の遺伝子を発現させるためのベクターに関する。また、本発明は、小脳または大脳皮質における細胞における所定の遺伝子の発現産物の欠乏を処置するためのベクターに関し、脳疾患を処置するためのベクターに関する。さらに、本発明は、小脳または大脳皮質における細胞を選択的に活性化または不活性化するためのベクターに関する。
続きを表示(約 5,700 文字)【背景技術】
【0002】
神経科学分野の大きな目標は、脳機能や神経回路における各細胞の役割を明確にし、各細胞がどのように複雑な脳機能を生み出しているのか、各細胞の機能不全がどのように脳疾患につながるのか、を理解することである。そのためには、各細胞の種類を定義し、細胞選択的に標識・操作できる遺伝子ツールを構築する必要がある。近年、シングルセルRNAシーケンスなどの技術の発展により、神経系のさまざまな細胞集団の遺伝子発現プロファイルがカタログ化され、ゲノムワイドな遺伝子発現に基づいて各細胞タイプが定義された。その結果、脳内には実に多様な細胞タイプが存在することが分かってきた。脳内の各細胞タイプの機能や入出力関係を実験的に調べるには、マーカー遺伝子に基づくトランスジェニックマウスラインに頼ることになる。しかし、多種多様な細胞タイプのほとんどは、既存のツールでは個別にアクセスすることができないのが現状である。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、マウスからヒトまでの脳細胞にあらゆる遺伝子を導入できることが示されており、ウイルス技術の最近の発展は、次世代の細胞タイプ特異的なトランスジェニックツールを提供する。さらに、AAVを利用して特定の変異細胞にアプローチし、遺伝子操作を行うことで、多くの疾患の治療が可能となることから、AAVは臨床ツールとしても期待されている。このように、AAVを用いたトランスジェニックツールの構築は、多くの分野で有用である。AAVの血清型、プロモーター、エンハンサー、マイクロRNA標的配列が、各細胞タイプへの感染効率や各細胞タイプでの遺伝子発現に影響を与えることが示されており、これらの要素を持つ細胞型特異的AAVが一部開発されている[非特許文献1~6]。しかし、細胞タイプ特異的に遺伝子操作できるAAVの種類は極めて限られている。
【0003】
神経科学の分野における基本的な探求の1つは、脳機能と神経回路における各細胞の役割を定義することである。この知識は、各細胞がどのようにして複雑な脳機能を生成するのか、また各細胞の機能不全がどのようにしてさまざまな脳疾患を引き起こすのかを解明する鍵となる。この目標を達成するには、各細胞タイプを定義し、高度に細胞選択的な方法で標識および操作できる遺伝的ツールを生成する必要がある。単一細胞RNAシーケンスなどの最近の技術の進歩により、神経系のさまざまな細胞集団間の遺伝子発現プロファイルのカタログ化が容易になり、ゲノム全体の遺伝子発現に基づいて各細胞タイプが定義され、それによって脳内の多様な細胞サブタイプの同定が可能になった。
【0004】
このような技術の進歩にもかかわらず、かなりの制限がある。最も注目すべきは、現在のツールセットでは、脳内に存在するほとんどの種類の細胞への個別のアクセスを可能としていないことである。ウイルス技術における最近の革新は、この障害を克服するための有望な手段を提供する。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターなどのウイルスベクターは多用途であり、さまざまな種のニューロンやグリア細胞にあらゆる遺伝子を送達できる可能性がある。さらに、AAVは特定の変異細胞を特異的に標的にして遺伝子操作できるため、幅広い疾患を治療するための強力な臨床ツールとして浮上しており、それによって幅広い疾患の治療が可能になる。したがって、AAVベースのトランスジェニックツールの構築は多くの分野で役立つ。現在の研究では、AAVの血清型、プロモーター、エンハンサー、マイクロRNAターゲティング配列などの複数の要素が、特定の細胞型における感染効率や遺伝子発現に影響を与える可能性があることが示されている。これらの要素を備えた細胞型特異的AAVは部分的に開発されているが[非特許文献1-6]、特定の細胞型を標的にできるAAVは非常に限られている。
【0005】
米国での自閉症スペクトラム障害(ASD)の有病率は、8歳児において約1/54である。全世界での有病率は、少なくとも数百万人が影響を受けていると考えられている。全世界の注意欠陥・多動性障害(ADHD)の有病率は、文献によって異なるが、通常は子供において5-10%程度とされている。成人においてもこの障害は続くことが多く、成人の有病率は約2.5-4%とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
Graybuck, L. T. et al. Enhancer viruses for combinatorial cell-subclass-specific labeling. Neuron 109, 1449-1464 e1413, doi:10.1016/j.neuron.2021.03.011 (2021).
Okada, Y. et al. Development of microglia-targeting adeno-associated viral vectors as tools to study microglial behavior in vivo. Commun Biol 5, 1224, doi:10.1038/s42003- 022-04200-3 (2022).
Hoshino, C. et al. GABAergic neuron-specific whole-brain transduction by AAVPHP. B incorporated with a new GAD65 promoter. Mol Brain 14, 33, doi:10.1186/s13041-021-00746-1 (2021).
Hrvatin, S. et al. A scalable platform for the development of cell-type-specific viral drivers. Elife 8, doi:10.7554/eLife.48089 (2019).
Nitta, K., Matsuzaki, Y., Konno, A. & Hirai, H. Minimal Purkinje Cell-Specific PCP2/L7 Promoter Virally Available for Rodents and Non-human Primates. Mol Ther Methods Clin Dev 6, 159-170, doi:10.1016/j.omtm.2017.07.006 (2017).
Vormstein-Schneider, D. et al. Viral manipulation of functionally distinct interneurons in mice, non-human primates and humans. Nat Neurosci 23, 1629-1636, doi:10.1038/s41593-020-0692-9 (2020).
He, M. et al. Cell-type-based analysis of microRNA profiles in the mouse brain. Neuron 73, 35-48, doi:10.1016/j.neuron.2011.11.010 (2012).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、小脳または大脳皮質における細胞において所定の遺伝子を発現させるためのベクターを提供することを目的とする。また、本発明は、小脳または大脳皮質における細胞に所定の遺伝子の発現産物の欠乏を処置するためのベクターを提供することを目的とする。さらに、本発明は、脳疾患を処置するためのベクターを提供することを目的とする。加えて、本発明は、小脳または大脳皮質における細胞を選択的に活性化または不活性化するためのベクターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、分化クラスター(CD)遺伝子のプロモーターを使用して細胞型特異的なAAVを開発することで、前記の限界に取り組んだ。CD番号は、白血病細胞やその他の細胞の特定の細胞表面抗原分子に割り当てられており、その発現の違いを利用して、細胞の種類の細かい違いを識別することができる。さまざまなCD遺伝子は脳内でも発現されており、脳内の特定の細胞型を標的とするユニークな機会を提供している。本発明者らは、小脳の各細胞で特異的に発現を誘導する各CD遺伝子プロモーター(CDプロモーター)を有するAAVを系統的にスクリーニングし、一部のCDプロモーターが小脳の各細胞で特異的に遺伝子発現を誘導できることを見出した。本発明者らのアプローチは小脳だけでなく大脳皮質でも成功した。本発明者らは、興奮性ニューロン、抑制性ニューロン、およびパルブアルブミン陽性抑制性ニューロンにおいて特異的に目的の遺伝子を発現する3つのCDプロモーターを明らかにした。特定のCDプロモーターを備えたこれらのAAVの実用性を評価するために、それらをカルシウムイメージングおよび化学遺伝学的研究に適用した。CDプロモーターを備えたAAVを使用して、2種類の小脳介在ニューロンが社会的行動、運動活動、運動機能において異なる役割を果たし、不安行動においては共通の役割を果たしていることが明らかになった。さらに、特定のCDプロモーターを備えたAAVによる小脳分子層介在ニューロンの選択的活性化により、自閉症スペクトラム障害のマウスモデルにおける社会的欠陥と運動機能障害が救済された。CDプロモーターを備えたAAVの開発は、脳内の細胞機構の理解に革命をもたらす可能性がある。これには、複雑な脳機能や疾患における各細胞タイプの役割の理解、これらの細胞の入出力関係の理解、それらの生理学的重要性の探求、そして最終的には脳障害の新しい治療法への道を開くことが含まれる。
【0009】
脳機能における個々の細胞の役割と、脳障害につながる細胞機能不全を理解することは、神経科学研究の極めて重要な焦点である。オミクス解析の最近の進歩により、脳内の多様な細胞タイプが特定されたが、これらの細胞へのアクセスは依然として限られている。本明細書では、分化クラスター遺伝子のプロモーター(CDプロモーター)を利用した脳内の細胞型特異的アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの開発について報告する。各CDプロモーターでAAVをスクリーニングすることにより、マウスの小脳および大脳皮質の特定の細胞型で選択的に遺伝子発現を誘導するいくつかのCDプロモーターを新たに同定した。CDプロモーターと他のDNAエレメントを組み合わせることで、各細胞タイプへの特異性を高めることに成功した。CDプロモーターを備えたAAVにより、特定の種類の小脳細胞におけるin vivo Ca
2+
イメージングが可能になった。これらのAAVとCDプロモーターを用いた化学遺伝学的実験により、2種類の小脳介在ニューロンが社会的行動と運動機能において異なる役割を果たし、感情的反応において共通した役割を担っていることが明らかになった。さらに、CDプロモーターを使用した小脳分子層介在ニューロンの化学遺伝学的調節により、自閉症スペクトラム障害のマウスモデルにおける社会的行動障害と運動機能障害が回復した。本発明者らの発見は、脳機能における各細胞型の機能を解明し、脳疾患の新規治療法を開発する上で、これらのAAVが有用であることを実証している。
【0010】
すなわち、今回、cluster of differentiation(CD)遺伝子のプロモーターを用いた細胞タイプ特異的AAVを開発した。CDはヒト白血球を主としたさまざまな細胞表面に存在する分子で、CD分類はこれらの細胞表面抗原分子に対するモノクローナル抗体をクラスター解析で分類したものである。このため、CDの発現の違いから細かい細胞タイプの違いを特定することができる。CDの多くは脳でも発現していることが示されていることから、CD遺伝子のプロモーター(CDプロモーター)を用いることで脳内の各細胞タイプ特異的に遺伝子操作できる可能性が考えられた。マウス小脳の各細胞タイプで特異的に発現を誘導する各CDプロモーターを用いたAAVをスクリーニングしたところ、マウス小脳の各細胞タイプで特異的な発現を可能にするCDプロモーターを見いだした。また、この戦略をマウス大脳皮質に適用したところ、興奮性ニューロン、抑制性ニューロン、パルブルブミン陽性抑制性ニューロンで特異的に目的の遺伝子を発現する3つのCDプロモーターを発見した。これらのCDプロモーターを持つAAVの有用性を評価するために、カルシウムイメージングと化学遺伝学に応用した。CDプロモーターを持つAAVを用いることで、2種類の小脳介在ニューロンが社会的行動、運動活性、運動機能において異なる役割を果たし、不安行動においては共通の役割を果たすことを見出した。さらに、特定のCDプロモーターを持つAAVによって小脳分子層介在ニューロンを選択的に活性化すると、自閉症スペクトラム障害モデルマウスの社会性障害と運動機能障害が回復した。CDプロモーターを持つAAVは、各細胞タイプの入出力関係、脳機能や疾患における各細胞タイプの役割、各細胞タイプ間の相互作用とその生理的意義の解明、脳疾患に対する新たな治療法の確立につながることが期待できる。
(【0011】以降は省略されています)

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