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公開番号2024165458
公報種別公開特許公報(A)
公開日2024-11-28
出願番号2023081677
出願日2023-05-17
発明の名称マンガン含有パイロクロア酸化物粉体の製造方法
出願人DOWAホールディングス株式会社
代理人個人
主分類C01G 45/00 20060101AFI20241121BHJP(無機化学)
要約【課題】原料金属塩の仕込み濃度を高めた場合に不純物相の生成が顕著に抑えられるマンガン含有パイロクロア酸化物粉体の製造方法を提供する。
【解決手段】ビスマス含有塩とルテニウム含有塩を水系溶媒に混合する「第1原料混合工程」と、アルカリを添加して液のpHを4.0以下の範囲に調整する「第1pH調整工程」と、マンガン含有塩を混合する「第1原料混合工程」と、アルカリを添加してpHを10.0以上にする「第2pH調整工程」と、液に酸素を供給しながら固体の反応生成物を形成させる「酸化工程」と、前記反応生成物を乾固させて前駆体物質を得る「乾固工程」と、前記前駆体物質を焼成してビスマス-ルテニウム-酸素型パイロクロア酸化物の結晶構造を有する粒子で構成される酸化物粉体を合成する「焼成工程」と、を含むマンガン含有パイロクロア酸化物粉体の製造方法。
【選択図】図1
特許請求の範囲【請求項1】
ビスマス-ルテニウム-酸素型パイロクロア酸化物を構成するルテニウムの一部がマンガンで置換された「マンガン含有パイロクロア酸化物」の粉体の製造方法であって、
原料物質であるビスマス含有塩およびルテニウム含有塩を水系溶媒に混合してビスマス、ルテニウム含有液を得る「第1原料混合工程」と、
前記第1原料混合工程で得られた液にアルカリを添加することによって液のpHを上昇させ、pHが4.0以下である液を得る「第1pH調整工程」と、
前記第1pH調整工程で得られた液に、原料物質であるマンガン含有塩を混合してビスマス、ルテニウム、マンガン含有液を得る「第2原料混合工程」と、
前記第2原料混合工程で得られた液にアルカリを添加することによってpHが10.0以上である液を得る「第2pH調整工程」と、
前記第2pH調整工程で得られた液に酸素を供給しながら、固体の反応生成物を形成させる「酸化工程」と、
前記反応生成物を回収したのち、乾固させることにより、前駆体物質を得る「乾固工程」と、
前記前駆体物質を焼成することにより、ビスマス-ルテニウム-酸素型パイロクロア酸化物の結晶構造を有する粒子で構成される酸化物粉体を合成する「焼成工程」と、
を含む、マンガン含有パイロクロア酸化物粉体の製造方法。
続きを表示(約 500 文字)【請求項2】
前記第1原料混合工程と第2原料混合工程で液に混合する前記原料物質の混合割合を、ルテニウムとマンガンの合計量に対するマンガン量の原子割合を表すMn/(Ru+Mn)原子比が0.05以上0.35以下である混合割合とする、請求項1に記載のマンガン含有パイロクロア酸化物粉体の製造方法。
【請求項3】
前記第1原料混合工程と第2原料混合工程で液に混合する前記原料物質の混合割合を、ルテニウムとマンガンの合計量に対するビスマス量の原子割合を表すBi/(Ru+Mn)原子比が0.700以上0.990以下である混合割合とする、請求項1に記載のマンガン含有パイロクロア酸化物粉体の製造方法。
【請求項4】
前記酸化工程に供する液は、添加したアルカリ水溶液を含めない液状媒体1Lあたりのビスマス含有量が0.3mol/L以上である、請求項1に記載のマンガン含有パイロクロア酸化物粉体の製造方法。
【請求項5】
前記第2pH調整工程において、アルカリの添加所要時間を300秒以内とする、請求項1に記載のマンガン含有パイロクロア酸化物粉体の製造方法。

発明の詳細な説明【技術分野】
【0001】
本明細書では、ビスマス(Bi)-ルテニウム(Ru)-酸素(O)型パイロクロア酸化物の結晶構造を有し、その構成金属元素としてビスマスおよびルテニウム、またはビスマス、ルテニウムおよびマンガン(Mn)を含有するパイロクロア酸化物を「BRO酸化物」と呼ぶ。BRO酸化物のうち、特にマンガンを含有するタイプのパイロクロア酸化物を「MBRO酸化物」と呼ぶ。本発明は、MBRO酸化物粉体の製造方法に関するものである。
続きを表示(約 3,400 文字)【背景技術】
【0002】
BRO酸化物は、空気二次電池や水の電気分解による水素製造プロセスなどに用いる正極触媒としての応用が期待される物質である。なかでもマンガンを含有するMBRO酸化物は、BRO酸化物において、主としてルテニウムサイトの一部がマンガンに置き換わった構造を持つとされ、高価なルテニウムを節約することができることから、パイロクロア酸化物触媒を用いた装置の工業的な普及を図る上で有望視されている。
【0003】
特許文献1には、マンガンを含有するMBRO酸化物触媒が記載されている(請求項1)。マンガンの含有により触媒活性向上などの効果が得られるという。そのMBRO酸化物の製造方法として、原料金属塩を所定割合で含む水溶液にNaOH水溶液を添加し、75℃で酸素を通気しながら24時間撹拌する酸化反応により得られた生成物を乾燥させ、600℃で焼成し、蒸留水を用いて吸引濾過したのち乾燥させる手法が開示されている(段落0027、0041)。本明細書では、酸化反応に供するための原料物質含有液(ただし、アルカリ水溶液の添加分は含まない)の液状媒体1Lあたりにおける原料金属の混合量(mol/L)を「仕込み濃度」と言う。特許文献1の開示によると、原料金属塩の仕込み濃度はビスマス、ルテニウムとも概ね0.007mol/L程度である(段落0027)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
国際公開第2020/153401号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
工業的規模でMBRO酸化物を量産する場合には、焼成に供する前駆体物質の元になるビスマス、ルテニウム、マンガン含有物質(主として水酸化物やオキシ水酸化物)を湿式反応プロセスで生成させるための反応槽において、1バッチあたりの原料金属塩の仕込み濃度をできるだけ大きくすることが生産性を確保する上で極めて重要である。例えば、特許文献1に開示されるラボ実験での金属塩の仕込み濃度は0.007mol/L程度であるが、この程度の仕込み濃度で量産現場の反応槽1バッチあたりの生産量を十分に確保しようとすると、必要な溶液量が膨大となり、工業的規模での実施は容易でない。量産現場での生産性を考慮すると、前記のラボ実験の例との対比で、少なくとも10倍程度の仕込み濃度を確保することが望まれ、可能であれば50倍程度以上の仕込み濃度で実施したいところである。
【0006】
原料金属塩の仕込み濃度を高めると、それに伴い、アルカリの添加量も増加させる必要がある。中和を均一に行うためにはアルカリの添加所要時間はできるだけ短くすることが望ましいが、水系溶媒中にアルカリを多量に投入すると中和熱により液温が急上昇し、冷却が追いつかないと突沸が生じるなどの危険な状態となりやすい。それを防ぐためには中和熱の発生速度が装置の冷却能力を上回らないようにアルカリの添加速度を低下させる必要がある。しかしながら発明者らの検討によると、MBRO酸化物の製造においては、アルカリの添加速度を低下させていくと、焼成後のMBRO酸化物はビスマス-マンガン複合酸化物を主体とする不純物相を伴い易くなるという問題が生じた。不純物相の混在は、そのMBRO酸化物を触媒に用いた二次電池等の装置において、性能向上や耐久性向上の取り組みに支障となる恐れがある。
本発明の目的は、原料金属塩の仕込み濃度を高めた場合に不純物相の生成が顕著に抑えられるMBRO酸化物粉体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らの研究によれば、ビスマス含有塩、ルテニウム含有塩およびマンガン含有塩の仕込み濃度を高めた水溶液に、それらのアニオンの全量と反応させるに足るアルカリを、中和熱による過度の発熱を抑制しながら連続的に長時間をかけて添加した場合には、ビスマス、ルテニウムの中和生成物とともに一部のマンガン含有塩が共沈して、マンガンの存在形態が不均質な反応生成物が形成されてしまうものと考えられ、その生成物中のマンガン含有塩が焼成後に不純物相として残留するのではないかと推察された。そこで発明者らは詳細な検討の結果、マンガン含有塩を初期の原料溶液には投入せず、ビスマス含有塩とルテニウム含有塩を混合した水溶液に所定量のアルカリを沸騰しない添加速度で添加し、その後にマンガン含有塩を投入して残りのアルカリを添加するという、2段階の「金属塩混合-アルカリ添加」プロセスを採用することによって、原料金属塩の仕込み濃度を高めた場合でも不純物相の形成を防止したMBRO酸化物の合成が可能になることを見出した。
【0008】
上記目的は、以下の発明によって達成される。
[1]ビスマス-ルテニウム-酸素型パイロクロア酸化物を構成するルテニウムの一部がマンガンで置換された「マンガン含有パイロクロア酸化物」の粉体の製造方法であって、
原料物質であるビスマス含有塩およびルテニウム含有塩を水系溶媒に混合してビスマス、ルテニウム含有液を得る「第1原料混合工程」と、
前記第1原料混合工程で得られた液にアルカリを添加することによって液のpHを上昇させ、pHが4.0以下である液を得る「第1pH調整工程」と、
前記第1pH調整工程で得られた液に、原料物質であるマンガン含有塩を混合してビスマス、ルテニウム、マンガン含有液を得る「第2原料混合工程」と、
前記第2原料混合工程で得られた液にアルカリを添加することによってpHが10.0以上である液を得る「第2pH調整工程」と、
前記第2pH調整工程で得られた液に酸素を供給しながら、固体の反応生成物を形成させる「酸化工程」と、
前記反応生成物を回収したのち、乾固させることにより、前駆体物質を得る「乾固工程」と、
前記前駆体物質を焼成することにより、ビスマス-ルテニウム-酸素型パイロクロア酸化物の結晶構造を有する粒子で構成される酸化物粉体を合成する「焼成工程」と、
を含む、マンガン含有パイロクロア酸化物粉体の製造方法。
[2]前記第1原料混合工程と第2原料混合工程で液に混合する前記原料物質の混合割合を、ルテニウムとマンガンの合計量に対するマンガン量の原子割合を表すMn/(Ru+Mn)原子比が0.05以上0.35以下である混合割合とする、上記[1]に記載のマンガン含有パイロクロア酸化物粉体の製造方法。
[3]前記第1原料混合工程と第2原料混合工程で液に混合する前記原料物質の混合割合を、ルテニウムとマンガンの合計量に対するビスマス量の原子割合を表すBi/(Ru+Mn)原子比が0.700以上0.990以下である混合割合とする、上記[1]または[2]に記載のマンガン含有パイロクロア酸化物粉体の製造方法。
[4]前記酸化工程に供する液は、添加したアルカリ水溶液を含めない液状媒体1Lあたりのビスマス含有量が0.3mol/L以上である、上記[1]~[3]のいずれかに記載のマンガン含有パイロクロア酸化物粉体の製造方法。
[5]前記第2pH調整工程において、アルカリの添加所要時間を300秒以内とする、上記[1]~[4]のいずれかに記載のマンガン含有パイロクロア酸化物粉体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、マンガンを含有するパイロクロア酸化物粉体の製造において、原料金属塩の仕込み濃度を、ラボ実験で従来一般的に実施されている仕込み濃度よりも大幅に増大させることができ、かつ不純物相の混在を防止することができる。マンガンの含有は高価なルテニウムの節約につながり、不純物相の混在防止は当該粉体を触媒に用いた二次電池等の装置の性能向上に有利となる。したがって本発明は、マンガンを含有するパイロクロア酸化物粉体の工業的普及に資するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
各例で得られたMBRO酸化物粉体についてのX線回折パターンを例示した図。
【発明を実施するための形態】
(【0011】以降は省略されています)

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