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公開番号2024157922
公報種別公開特許公報(A)
公開日2024-11-08
出願番号2023072592
出願日2023-04-26
発明の名称耐酸性微生物を抽出するための検水の前処理方法
出願人三浦工業株式会社
代理人個人
主分類C12Q 1/24 20060101AFI20241031BHJP(生化学;ビール;酒精;ぶどう酒;酢;微生物学;酵素学;突然変異または遺伝子工学)
要約【課題】クーリングタワーの循環冷却水から採取したレジオネラ属菌の死菌による汚染度の高い検水について、レジオネラ属菌の検査精度を高める。
【解決手段】検水をレジオネラ属菌が耐性を示すpH3.6に調整する。pH3.6を含む高pH領域において負極性の電荷を有しかつレジオネラ属菌が通過可能なグラスファイバー製のシリンジフイルターに対してpHを調整した上記検水を通過させ、検水中において正極性に帯電したレジオネラ属菌を静電引力によりシリンジフイルターに捕捉する。シリンジフイルターにpH4.2で電気伝導度が20μS/cmの緩衝液を通過させた後、レジオネラ属菌の等電点より高pHの緩衝液、例えばpH7で電気伝導度が20μS/cmの緩衝液をシリンジフイルターに通過させて通過液を確保する。この通過液を誘電泳動に適用し、それにより通過液から分離されたレジオネラ属菌を回収してリアルタイムPCR法により検査する。
【選択図】なし
特許請求の範囲【請求項1】
誘電泳動を利用して検水に含まれる耐酸性微生物を抽出するために、前記検水を前処理するための方法であって、
前記耐酸性微生物が耐性を示す酸性領域に前記検水のpHを調整する工程1と、
工程1で調整した前記検水のpH値を含む高pH領域において負極性の電荷を有しかつ前記耐酸性微生物が通過可能なろ過材に対し、工程1においてpHを調整した前記検水を通過させる工程2と、
工程2を経た前記ろ過材に対し、前記耐酸性微生物が耐性を示す酸性領域のpHでありかつ前記誘電泳動により前記耐酸性微生物を選択的に捕捉可能な電気伝導度を有する第1緩衝液を通過させる工程3と、
工程3を経た前記ろ過材に対して前記耐酸性微生物の等電点より高pHでありかつ前記誘電泳動により前記耐酸性微生物を選択的に捕捉可能な電気伝導度を有する第2緩衝液を通過させ、通過液を確保する工程4と、
を含む耐酸性微生物を抽出するための検水の前処理方法。
続きを表示(約 1,400 文字)【請求項2】
前記ろ過材がグラスファイバー若しくはグラスウールまたはこれらの混合繊維を用いて形成されている、請求項1に記載の検水の前処理方法。
【請求項3】
第2緩衝液としてタンパク質、糖類、界面活性剤またはアルコール類を添加したものを用いる、請求項1または2に記載の検水の前処理方法。
【請求項4】
工程3と工程4との間において、前記耐酸性微生物の耐熱条件下で前記ろ過材を加熱する、請求項1または2に記載の検水の前処理方法。
【請求項5】
工程2の前に前記ろ過材を第2緩衝液により処理する、請求項1または2に記載の検水の前処理方法。
【請求項6】
前記耐酸性微生物が細菌、カビまたは酵母である、請求項1または2に記載の検水の前処理方法。
【請求項7】
検水に含まれる耐酸性微生物を抽出するための方法であって、
前記耐酸性微生物が耐性を示す酸性領域に前記検水のpHを調整する工程1と、
工程1で調整した前記検水のpH値を含む高pH領域において負極性の電荷を有しかつ前記耐酸性微生物が通過可能なろ過材に対し、工程1においてpHを調整した前記検水を通過させる工程2と、
工程2を経た前記ろ過材に対し、前記耐酸性微生物が耐性を示す酸性領域のpHである第1緩衝液を通過させる工程3と、
工程3を経た前記ろ過材に対して前記耐酸性微生物の等電点より高pHである第2緩衝液を通過させ、通過液を確保する工程4と、
工程4において確保した前記通過液を誘電泳動に適用する工程5と、
を含み、
第1緩衝液および第2緩衝液として、前記誘電泳動により前記耐酸性微生物を選択的に捕捉可能な電気伝導度を有するものを用いる、
耐酸性微生物の抽出方法。
【請求項8】
検水に含まれる耐酸性微生物の検査方法であって、
前記耐酸性微生物が耐性を示す酸性領域に前記検水のpHを調整する工程1と、
工程1で調整した前記検水のpH値を含む高pH領域において負極性の電荷を有しかつ前記耐酸性微生物が通過可能なろ過材に対し、工程1においてpHを調整した前記検水を通過させる工程2と、
工程2を経た前記ろ過材に対し、前記耐酸性微生物が耐性を示す酸性領域のpHである第1緩衝液を通過させる工程3と、
工程3を経た前記ろ過材に対して前記耐酸性微生物の等電点より高pHである第2緩衝液を通過させ、通過液を確保する工程4と、
工程4において確保した前記通過液を誘電泳動に適用する工程5と、
前記誘電泳動により前記通過液から分離された前記耐酸性微生物を回収する工程6と、
回収した前記耐酸性微生物を検査する工程7と、
を含み、
第1緩衝液および第2緩衝液として、前記誘電泳動により前記耐酸性微生物を選択的に捕捉可能な電気伝導度を有するものを用いる、
耐酸性微生物の検査方法。
【請求項9】
工程7は、
回収した前記耐酸性微生物から核酸を抽出する工程7Aと、
抽出された前記核酸を核酸増幅法により検査する工程7Bと、
を含む、請求項8に記載の耐酸性微生物の検査方法。
【請求項10】
工程7Aの前に、回収した前記耐酸性微生物に対して選択的細胞膜透過性色素による処理をする工程7Cをさらに含む、請求項9に記載の耐酸性微生物の検査方法。

発明の詳細な説明【技術分野】
【0001】
本発明は、検水の前処理方法、特に、誘電泳動を利用して検水に含まれる耐酸性微生物を抽出するために、検水を前処理するための方法に関する。なお、耐酸性微生物は、特に断りのない限り、耐酸性微生物の生体(例えば、耐酸性微生物が細菌の場合は生菌。)を意味する。
続きを表示(約 3,200 文字)【背景技術】
【0002】
飲用水や浴槽水などの生活用水は、水源や環境などの諸要因により種々の微生物を微量に含むことがあり、その含有量が一定量を超えると感染症等を誘発するおそれがある。例えば、公衆浴場や宿泊施設での循環式の温泉水や浴槽水、或いは、クーリングタワーの循環冷却水において屡々検出されるレジオネラ属菌は、耐酸性微生物であってポンティアック熱や重篤な肺炎(レジオネラ肺炎)等の疾病の原因となる病原菌である。そこで、温泉水等の浴槽水については、条例によりレジオネラ属菌の規制値が10CFU/100mL未満と規定されるとともに、年に一度のレジオネラ属菌の検査が義務付けられており、また、クーリングタワーの循環冷却水については、別途100CFU/100mL未満の推奨値が設けられるとともに同様の検査が推奨されている。
【0003】
浴槽水や循環冷却水に含まれるレジオネラ属菌が規制値を超えるか否かを判定するための検査方法として、非特許文献1、2は、培養法を規定している。培養法では、浴槽水等から採取した検水を濃縮した後に夾雑菌の殺菌処理をすることで検査用試料を調製する。そして、検査用試料の一定量を選択培地に塗布して5~7日間培養し、湿潤性の青白および灰白の集落が出現した場合は検水に規制値以上のレジオネラ属菌が含まれるものと仮に判断し、確認試験を実施する。確認試験では、選択培地に出現した集落をL-システイン不含培地およびBCYEα培地に塗布して2~7日間さらに培養する。これでBCYEα培地のみに集落が形成された場合、検水に規制値以上のレジオネラ属菌が含まれるものと最終判断する。
【0004】
培養法は、培養に日数を要することから、検水の採取から結果の判定までに少なくとも10日前後の長期間を要し、この点が浴槽水や循環冷却水等の水質管理上の難点である。そこで、非特許文献1は、浴槽水が水質基準に適合しているか否かを判断するための検査方法として、レジオネラ属菌の生菌の核酸を定量的に検出可能な迅速検査法であるLC EMA-qPCR法(非特許文献3、4)を認めている。LC EMA-qPCR法では、検水をろ過濃縮後に酸処理することで検水中の夾雑微生物の生息を抑制し、レジオネラ属菌を選択的に増殖するための液体培養(Liquid Culture(LC))を開始する。続いて、液体培養された試料に対して選択的膜透過性色素であるエチジウムモノアジド(EMA)を添加するとともに光照射し、それによって生息を抑制された夾雑微生物およびレジオネラ属菌の死骸に由来の核酸をEMAにより修飾した後、この試料に対して迅速検査法であるリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応法(qPCR法)を適用する。このqPCR法においては、生息を抑制された夾雑微生物およびレジオネラ属菌の死骸の両者に由来の核酸がEMAにより修飾されることでポリメラーゼ連鎖反応の鋳型とならないことから、レジオネラ属菌の生菌に由来の核酸が選択的に増幅し、当該生菌に由来の核酸を選択的に検出することができる。LC EMA-qPCR法によれば、浴槽水についてレジオネラ属菌に係る水質基準の適合・不適合を培養法よりも大幅に短縮された2日で判定可能とされている。
【0005】
しかし、LC EMA-qPCR法は夾雑微生物等による汚れの比較的少ない浴槽水を検査対象とするものであり、夾雑微生物等、特に、レジオネラ属菌の死菌による汚染度の高い循環冷却水が検査対象の場合は検査精度が低下する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
令和元年9月19日 厚生労働省医薬・生活衛生局生活衛生課長通知「公衆浴場における浴槽水等のレジオネラ属菌検査方法について」
日本工業規格 JIS K 0350-50-10:2006、「工業用水・工場排水中のレジオネラ試験方法」
タカラバイオ株式会社、レジオネラ属菌検査 生菌検出法(LC EMA-qPCR法) [検索日 2023.04.25]、インターネット <URL:https://catalog.takara-bio.co.jp/product/basic_info.php?unitid=U100007673>
タカラバイオ株式会社、Viable Bacteria Selectionシステムによる生菌由来DNAの選択的検出(EMA-PCR法) [検索日 2023.04.25]、インターネット <URL:https://catalog.takara-bio.co.jp/product/basic_info.php?unitid=U100006890#ema-pcr>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、夾雑微生物等による汚染度の高い検水、特に、耐酸性微生物の死骸による汚染度の高い検水に含まれる耐酸性微生物の検査精度を高めることができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、誘電泳動を利用して検水に含まれる耐酸性微生物を抽出するために、検水を前処理するための方法に関するものである。この前処理方法は、耐酸性微生物が耐性を示す酸性領域に検水のpHを調整する工程1と、工程1で調整した検水のpH値を含む高pH領域において負極性の電荷を有しかつ耐酸性微生物が通過可能なろ過材に対し、工程1においてpHを調整した検水を通過させる工程2と、工程2を経たろ過材に対し、耐酸性微生物が耐性を示す酸性領域のpHでありかつ誘電泳動により耐酸性微生物を選択的に捕捉可能な電気伝導度を有する第1緩衝液を通過させる工程3と、工程3を経たろ過材に対して耐酸性微生物の等電点より高pHでありかつ誘電泳動により耐酸性微生物を選択的に捕捉可能な電気伝導度を有する第2緩衝液を通過させ、通過液を確保する工程4と、を含む。
【0009】
工程1においてpHが調整された検水において、耐酸性微生物は正極性の電荷を有する状態で安定に生息するのに対し、耐酸性微生物以外の夾雑微生物は検水の酸性環境において生息を抑制される。工程2において、工程1を経た検水をろ過材に通過させると、ろ過材は負極性に帯電し、検水中において正極性に帯電する耐酸性微生物を静電引力により引き付けて捕捉する。一方、検水において生息を抑制された夾雑微生物は、検水とともにろ過材を通過する。そして、工程3においてろ過材に対して第1緩衝液を通過させると、耐酸性微生物はろ過材に保持され続ける一方でろ過材に残留する検水が第1緩衝液により置換され、また、工程4においてろ過材に対して第2緩衝液を通過させると、第2緩衝液のpH環境により耐酸性微生物は負極性の電荷を得ることから負極性に帯電するろ過材に対して反発し、ろ過材から離脱して第2緩衝液へ移行する。したがって、工程4においてろ過材を通過した第2緩衝液による通過液を確保すると、耐酸性微生物を含む前処理液が得られる。この前処理液は、第1緩衝液および第2緩衝液のいずれもが誘電泳動により耐酸性微生物を選択的に捕捉可能な電気伝導度を有することから、そのまま誘電泳動に適用することができ、誘電泳動に適用すると耐酸性微生物が捕捉される。
【0010】
本発明に係る前処理方法において、ろ過材は、例えば、グラスファイバー若しくはグラスウールまたはこれらの混合繊維を用いて形成されている。
(【0011】以降は省略されています)

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