公開番号2025168760 公報種別公開特許公報(A) 公開日2025-11-12 出願番号2024073489 出願日2024-04-30 発明の名称近位尿細管生体模倣システム 出願人国立大学法人京都大学,国立研究開発法人理化学研究所,学校法人立命館 代理人弁理士法人 津国 主分類C12M 3/00 20060101AFI20251105BHJP(生化学;ビール;酒精;ぶどう酒;酢;微生物学;酵素学;突然変異または遺伝子工学) 要約【課題】本発明は、ヒトの近位尿細管を模倣した生体模倣システムであって、ヒトの近位尿細管が持つ生理機能を生体外で再現でき、創薬における評価ツールとして使用できる高性能な近位尿細管in vitroモデルを提供することを目的とする。 【解決手段】本発明は、マイクロ流体デバイス、並びに、前記マイクロ流体デバイス内に収容される多能性幹細胞由来のLTL陽性細胞を備え、前記マイクロ流体デバイスが、(A)デバイス本体、(B)前記デバイス本体に設けられた第1のチャンバー、(C)前記デバイス本体に設けられた第2のチャンバー、及び(D)前記第1のチャンバーと前記第2のチャンバーとの間に位置し、前記第1のチャンバーと前記第2のチャンバーとを隔てる多孔質膜を有し、前記LTL陽性細胞が、前記第1のチャンバー内に収容され、かつ、前記多孔質膜の前記第1のチャンバーに面する第1の表面に接着しており、前記多孔質膜の前記第1の表面が、細胞外基質でコートされていることを特徴とする、近位尿細管生体模倣システムである。 【選択図】なし 特許請求の範囲【請求項1】 近位尿細管生体模倣システムであって、 マイクロ流体デバイス、並びに、前記マイクロ流体デバイス内に収容される多能性幹細胞由来のLTL陽性細胞を備え、 前記マイクロ流体デバイスが、 (A)デバイス本体、 (B)前記デバイス本体に設けられた第1のチャンバー、 (C)前記デバイス本体に設けられた第2のチャンバー、及び (D)前記第1のチャンバーと前記第2のチャンバーとの間に位置し、前記第1のチャンバーと前記第2のチャンバーとを隔てる多孔質膜 を有し、 前記LTL陽性細胞が、前記第1のチャンバー内に収容され、かつ、前記多孔質膜の前記第1のチャンバーに面する第1の表面に接着しており、 前記多孔質膜の前記第1の表面が、細胞外基質でコートされている ことを特徴とする、近位尿細管生体模倣システム。 続きを表示(約 1,500 文字)【請求項2】 前記多能性幹細胞が、iPS細胞又はES細胞である、請求項1に記載の近位尿細管生体模倣システム。 【請求項3】 前記LTL陽性細胞が、iPS細胞又はES細胞から作製した腎臓オルガノイド由来のLTL陽性細胞である、請求項2に記載の近位尿細管生体模倣システム。 【請求項4】 前記多孔質膜の前記第1のチャンバーに面する第1の表面に接着している前記LTL陽性細胞が、OAT1及びOAT3を発現している、請求項3に記載の近位尿細管生体模倣システム。 【請求項5】 近位尿細管生体模倣システム作製キットであって、 マイクロ流体デバイス、及び多能性幹細胞由来のLTL陽性細胞を含み、 前記マイクロ流体デバイスが、 (A)デバイス本体、 (B)前記デバイス本体に設けられた第1のチャンバー、 (C)前記デバイス本体に設けられた第2のチャンバー、及び (D)前記第1のチャンバーと前記第2のチャンバーとの間に位置し、前記第1のチャンバーと前記第2のチャンバーとを隔てる多孔質膜 を有し、 前記多孔質膜の前記第1のチャンバーに面する第1の表面が、細胞外基質でコートされている ことを特徴とする、近位尿細管生体模倣システム作製キット。 【請求項6】 前記多能性幹細胞が、iPS細胞又はES細胞である、請求項5に記載の近位尿細管生体模倣システム作製キット。 【請求項7】 前記LTL陽性細胞が、iPS細胞又はES細胞から作製した腎臓オルガノイド由来のLTL陽性細胞である、請求項6に記載の近位尿細管生体模倣システム作製キット。 【請求項8】 近位尿細管生体模倣システム用のマイクロ流体デバイスであって、 (A)デバイス本体、 (B)前記デバイス本体に設けられた第1のチャンバー、 (C)前記デバイス本体に設けられた第2のチャンバー、及び (D)前記第1のチャンバーと前記第2のチャンバーとの間に位置し、前記第1のチャンバーと前記第2のチャンバーとを隔てる多孔質膜 を有し、 前記多孔質膜の前記第1のチャンバーに面する第1の表面が、細胞外基質でコートされている、近位尿細管生体模倣システム用のマイクロ流体デバイス。 【請求項9】 近位尿細管生体模倣システムの製造方法であって、 (1)マイクロ流体デバイスを用意する工程、 (2)多能性幹細胞由来のLTL陽性細胞を調製する工程、及び (3)多能性幹細胞由来のLTL陽性細胞をマイクロ流体デバイス中で培養する工程 を含み、 前記マイクロ流体デバイスが、 (A)デバイス本体、 (B)前記デバイス本体に設けられた第1のチャンバー、 (C)前記デバイス本体に設けられた第2のチャンバー、及び (D)前記第1のチャンバーと前記第2のチャンバーとの間に位置し、前記第1のチャンバーと前記第2のチャンバーとを隔てる多孔質膜 を有し、 前記多孔質膜の前記第1のチャンバーに面する第1の表面が、細胞外基質でコートされており、 前記(3)工程において、多能性幹細胞由来のLTL陽性細胞を前記第1のチャンバーに播種して培養し、LTL陽性細胞を前記多孔質膜の前記第1の表面に接着させる ことを特徴とする、近位尿細管生体模倣システムの製造方法。 【請求項10】 前記多能性幹細胞が、iPS細胞又はES細胞である、請求項9に記載の近位尿細管生体模倣システムの製造方法。 (【請求項11】以降は省略されています) 発明の詳細な説明【技術分野】 【0001】 本発明は、近位尿細管生体模倣システム、近位尿細管生体模倣システム作製キット、近位尿細管生体模倣システム用のマイクロ流体デバイス及び近位尿細管生体模倣システムの製造方法に関する。 続きを表示(約 3,400 文字)【背景技術】 【0002】 生体模倣システム(Micro-Physiological System: MPS)は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて作製された微小空間に、生体(in vivo)に近い培養環境を再構築したin vitro培養系のことである。この生体模倣システムは、従来の細胞ベースのアッセイよりも正確に生体組織の生理機能を再現でき、また、時間と費用のかかる動物試験に取って代わる可能性があるため、創薬の際の候補薬剤のスクリーニング、薬物動態又は毒性実験等において、細胞実験又は動物実験の代わりになると期待されている。 【0003】 尿細管は腎臓の糸球体を包むボーマン嚢から続く直径20~30μm、全長4~7cmの曲がりくねった管で、近位尿細管、ヘンレループ、遠位尿細管に分かれ、最終的に複数の遠位尿細管が集まって集合管となり腎乳頭に開口している。尿細管は、血液中に存在する必要な物質(酵素、糖、アミノ酸等)を再吸収し、同時に薬物や毒素を尿中に排泄する重要な役割を果たしている。腎近位尿細管は、原尿からの栄養素再吸収の最大80%を担っており、そのため循環血中の薬物が蓄積し易い部位である。 【0004】 近年、近位尿細管の濾過機能等の生理機能をin vitroで模倣した、生体模倣システム(近位尿細管チップ(proximal tubule on achip)ともいう)が多く開発されている。例えば、特許文献1(US2020/0269234A1)には、膜と、膜の第1の表面に近位尿細管細胞と、膜の第2の表面に糸球体微小血管内皮細胞とを含むマイクロ流体デバイスが開示されている。特許文献2(WO2020/172670A1)には、マイクロ流体腎臓オンチップとしてのマイクロ流体デバイス、例えば、ヒト近位尿細管-腎臓チップ、糸球体(腎臓)-チップ、集合管(腎臓)-チップが開示されている。また、特許文献3(WO2016/057571A1)には、腎線維芽細胞及び内皮細胞を含む腎間質層と、尿細管上皮細胞を含む腎上皮組織層とを含み、腎上皮組織は腎間質組織層と接触している、3次元(3D)腎尿細管モデルが開示されている。 【0005】 さらに、非特許文献1(Jang, K. J. et al., Human kidney proximal tubule-on-a-chip for drug transport and nephrotoxicity assessment. Integr Biol (Camb) 5, 1119-1129, doi:10.1039/c3ib40049b (2013).)には、従来のトランズウェル(Transwell(登録商標))培養系と比較して、上皮細胞の分極及び一次繊毛形成が向上したヒト腎近位尿細管チップが開示されている。非特許文献2(Vedula EM et al., A microfluidic renal proximal tubule with active reabsorptive function. PLoS ONE 12(10):e0184330. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0184330 (2017).)には、初代培養ヒト近位尿細管上皮細胞(hRPTEC)とヒト血管内皮細胞(hMVEC)との共培養による能動的再吸収性機能を有するマイクロ流体腎近位尿細管が開示されている。また、非特許文献3(Lin, N. Y. C. et al., Renal reabsorption in 3D vascularized proximal tubule models. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 116, 5399-5404,doi:10.1073/pnas.1815208116 (2019).)には、不死化近位尿細管上皮細胞と糸球体内皮細胞との共培養によって3D血管形成された近位尿細管モデルが開示されている。 【0006】 しかし、これら従来の近位尿細管モデルは、ある程度ヒトの近位尿細管の機能を模倣できるものの、複数のトランスポーターが複雑に関与するin vivoの状況を正確に反映するものではない。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0007】 US2020/0269234A1 国際公開2020/172670A1 国際公開2016/057571A1 【非特許文献】 【0008】 Jang, K. J. et al., Human kidney proximal tubule-on-a-chip for drug transport and nephrotoxicity assessment. Integr Biol (Camb) 5, 1119-1129, doi:10.1039/c3ib40049b (2013) Vedula EM et al., A microfluidic renal proximal tubule with active reabsorptive function. PLoS ONE 12(10):e0184330. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0184330 (2017) Lin, N. Y. C. et al., Renal reabsorption in 3D vascularized proximal tubule models. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 116, 5399-5404,doi:10.1073/pnas.1815208116 (2019) Ramin Banan Sadeghian et al., A bioinspired human proximal tubule-on-a-chip with both Epithelial and endothelial tissue layers for online Monitoring of nephrotoxicity and filtration properties, p. 1631-1634, 22nd International Conference on Miniaturized Systems for Chemistry and Life Sciences, November 11-15, 2018, Kaohsiung, Taiwan 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 上述のような状況下、本発明は、ヒトの近位尿細管を模倣した生体模倣システムであって、ヒトの近位尿細管が持つ生理機能を生体外で再現でき、創薬における評価ツールとして使用できる高性能な近位尿細管in vitroモデルを提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0010】 本発明者らは、以前多孔質膜の両面にそれぞれ近位尿細管上皮細胞及び血管内皮細胞を有する生体模倣システムを開発した(非特許文献4)。本発明者らは、この生体模倣システムについてさらに改良・検討し、血管内皮細胞は用いず、また近位尿細管上皮細胞の代わりに、iPS細胞由来のLTL陽性細胞を用いることで、有機アニオントランスポーターSLC22A6(OAT1)及びSLC22A8(OAT3)を発現し、基質の細胞内取り込み、及び輸送をin vivoと同様に再現できるヒト近位尿細管モデルを得ることができた。即ち、本発明は、以下に示すとおりである。 (【0011】以降は省略されています)
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