発明の詳細な説明【技術分野】 【0001】 本発明は、2種類のブロック共重合体を含む、細胞内へのタンパク質送達用のpH応答性担体に関する。 続きを表示(約 7,300 文字)【背景技術】 【0002】 細胞内にタンパク質を送達することは、細胞機能の制御に基づく新規治療法の開発に有用である。ほとんどの癌においては細胞内経路が制御されていることから、上記治療法は癌の治療数を拡大するために特に魅力的である(非特許文献1) [1] 。このような治療法を実現するためには、タンパク質を標的細胞に輸送し、その細胞質ゾルに運ぶ系の開発が必要である。従って、タンパク質を細胞内に送達するために、生物学的及び細胞学的障壁を克服した種々の系が開発されている(非特許文献2~4) [2~4] 。しかしながら、現在開発されている系では、送達効率及び標的への選択性がいずれも低く、in vivoでの適用が制限される(非特許文献4~7) [4-7] 。従って、機能性タンパク質をin vivoで細胞内送達し、治療開発を促進するための有効な戦略が依然として必要とされる。 【0003】 脂質ナノ粒子(非特許文献8) [8] 、ポリマーミセル(非特許文献9) [9] 及び無機ナノ材料(非特許文献10) [10] などのナノキャリアは、タンパク質等の生体活性高分子をin vivoで送達する可能性を実証している(非特許文献11~14) [11~14] 。このうちいくつかのナノキャリアは、細胞内送達のために、エンドサイトーシスを介した細胞内取り込みを促進し、エンドソーム膜を破壊して細胞質ゾルに接近するウイルス様の特徴を備えている(非特許文献15~17) [15-17] 。 【0004】 エンドソームからの脱出は、エンドソーム/リソソーム区画におけるペイロードの分解を回避し、そして治療効果を達成するために必須である(非特許文献18) [18] 。従って、pH緩衝化物質(非特許文献19~20) [19-20] 、膜妨害物質(非特許文献21~23) [21-23] 、又は融合原性物質(非特許文献15~16) [15-16] をこれらのナノキャリア構造に導入することによって、ナノキャリアのエンドソーム脱出能を最大化することに主要な努力が払われてきた。 【0005】 ところで、ウイルスは、エンドソームを感知し、特定の宿主細胞に感染できるようにするために細胞を選択的に破壊するように進化している一方で、他の宿主細胞への感染は免れている(非特許文献24) [24] 。例えばB型肝炎ウイルスは、肝細胞内のエンドソームから選択的に脱出して肝臓に感染することができる(非特許文献25) [25] 。従って、ナノキャリアのエンドソーム脱出の選択性に関しては、癌細胞などの特定の細胞型において優先的にエンドソーム脱出能を有するナノキャリアを開発することが、優れた治療結果、及びオフターゲット効果の低下に向けて、送達の精度及び有効性を増加させるための有望なアプローチとなり得る。 【0006】 エンドソーム脱出が起こるための一般的な属性は酸性化であり、そのpHは6.5~4.5の範囲である(非特許文献26) [26] 。従って、酸性環境は、ナノキャリアの脱出機能を活性化するためのトリガーとして広く使用されている(非特許文献27~29) [27~29] 。最近の研究では、癌細胞のエンドソーム内のpHが高度に調節障害されていることが示されている(非特許文献30~32) [30-32] 。例えば、癌細胞におけるエンドソームの過酸化は低酸素腫瘍内条件下で起こる(非特許文献30) [30] 。これにより、分化したエンドソーム酸性化は、腫瘍にタンパク質を選択的に送達するためのナノキャリアのエンドソーム脱出を調節するのに適切なシグナルとなり得る。 【先行技術文献】 【非特許文献】 【0007】 D. Hanahan, R. A. Weinberg, Cell 2011, 144, 646. K. Kardani, A. Milani, S. H. Shabani, A. Bolhassani, Expert Opin. Drug Deliv. 2019, 16, 1227 A. Jhaveri, V. Torchilin, Expert Opin. Drug Deliv. 2015, 13, 49. J. L. S. Au, B. Z. Yeung, M. G. Wientjes, Z. Lu, M. G. Wientjes, Adv. Drug Deliv. Rev. 2016, 97, 280 A. Erazo-Oliveras, N. Muthukrishnan, R. Baker, T. Y. Wang, J. P. Pellois, Pharm. 2012, Vol. 5, Pages 1177-1209 2012, 5, 1177. J. Gilleron, W. Querbes, A. Zeigerer, A. Borodovsky, G. Marsico, U. Schubert, K. Manygoats, S. Seifert, C. Andree, M. Stoter, H. Epstein-Barash, L. Zhang, V. Koteliansky, K. Fitzgerald, E. Fava, M. Bickle, Y. Kalaidzidis, A. Akinc, M. Maier, M. Zerial, Nat. Biotechnol. 2013 317 2013, 31, 638. G. Sahay, W. Querbes, C. Alabi, A. Eltoukhy, S. Sarkar, C. Zurenko, E. Karagiannis, K. Love, D. Chen, R. Zoncu, Y. Buganim, A. Schroeder, R. Langer, D. G. Anderson, Nat. Biotechnol. 2013 317 2013, 31, 653. T. Jiang, R. Mo, A. Bellotti, J. Zhou, Z. Gu, Adv. Funct. Mater. 2014, 24, 2295. A. Tao, G. Lo Huang, K. Igarashi, T. Hong, S. Liao, F. Stellacci, Y. Matsumoto, T. Yamasoba, K. Kataoka, H. Cabral, Macromol. Biosci. 2020, 20, 1900161. F. Scaletti, J. Hardie, Y. W. Lee, D. C. Luther, M. Ray, V. M. Rotello, Chem. Soc. Rev. 2018, 47, 3421. P. Mi, K. Miyata, K. Kataoka, H. Cabral, Adv. Ther. 2021, 4, 2000159 H. Cabral, K. Miyata, K. Osada, K. Kataoka, Chem. Rev. 2018, 118, 6844. M. Ray, Y. W. Lee, F. Scaletti, R. Yu, V. M. Rotello, Nanomedicine 2017, 12, 941. X. Qin, C. Yu, J. Wei, L. Li, C. Zhang, Q. Wu, J. Liu, S. Q. Yao, W. Huang, Adv. Mater. 2019, 31, 1902791. Y. Nishimura, K. Takeda, R. Ezawa, J. Ishii, C. Ogino, A. Kondo, J. Nanobiotechnology 2014, 12, 1. K. Sasaki, K. Kogure, S. Chaki, Y. Nakamura, R. Moriguchi, H. Hamada, R. Danev, K. Nagayama, S. Futaki, H. Harashima, Anal. Bioanal. Chem. 2008, 391, 2717. I. M. S. Degors, C. Wang, Z. U. Rehman, I. S. Zuhorn, Acc. Chem. Res. 2019, 52, 1750. S. A. Smith, L. I. Selby, A. P. R. Johnston, G. K. Such, Bioconjug. Chem. 2018, 30, 263. J. Lee, I. Sands, W. Zhang, L. Zhou, Y. Chen, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 2021, 118, e2104511118 S. Han, Q. Cheng, Y. Wu, J. Zhou, X. Long, T. Wei, Y. Huang, S. Zheng, J. Zhang, L. Deng, X. Wang, X. J. Liang, H. Cao, Z. Liang, A. Dong, Biomaterials 2015, 48, 45. S. T. Yang, E. Zaitseva, L. V. Chernomordik, K. Melikov, Biophys. J. 2010, 99, 2525. H. Yu, Y. Zou, Y. Wang, X. Huang, G. Huang, B. D. Sumer, D. A. Boothman, J. Gao, ACS Nano 2011, 5, 9246. X. Han, H. Zhang, K. Butowska, K. L. Swingle, M.-G. Alameh, D. Weissman, M. J. Mitchell, Nat. Commun. 2021 121 2021, 12, 1. J. M. White, G. R. Whittaker, Traffic 2016, 17, 593. L. Stoeckl, A. Funk, A. Kopitzki, B. Brandenburg, S. Oess, H. Will, H. Sirma, E. Hildt, Proc. Natl. Acad. Sci. 2006, 103, 6730. J. R. Casey, S. Grinstein, J. Orlowski, Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 2009 111 2009, 11, 50. S. Wang, Front. Chem. 2021, 9, 145. Y. Sato, H. Hatakeyama, Y. Sakurai, M. H 774 yodo, H. Akita, H. Harashima, J. Control. Release 2012, 163, 267. N. Song, L. Zhou, J. Li, Z. Pan, X. He, H. Tan, X. Wan, J. Li, R. Ran, Q. Fu, Nanoscale 2016, 8, 7711. M. Ko, A. Quinones-Hinojosa, R. Rao, Cancer Metastasis Rev. 2020, 39, 519. F. Lucien, P. P. Pelletier, R. R. Lavoie, J. M. Lacroix, S. Roy, J. L. Parent, D. Arsenault, K. Harper, C. M. Dubois, Nat. Commun. 2017 81 2017, 8, 1. L. W. Jiang, V. M. Maher, J. J. McCormick, M. Schindler, J. Biol. Chem. 1990, 265, 4775. 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 上記背景のもと、タンパク質を目的となる組織に送達し、pHに応じてタンパク質を放出し得る担体の開発が求められていた。 【課題を解決するための手段】 【0009】 そこで本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、2種類のブロック共重合体とタンパク質との複合体により上記課題を解決し得ることに成功し、本発明を完成するに至った。 【0010】 すなわち、本発明は以下の通りである。 [1] 次式(1): TIFF 2024130632000001.tif 84 156 〔式中、R 1 及びR 2 は、それぞれ独立して、水素原子、若しくは置換されていてもよい炭素数1~12の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、又はアジド、アミン、マレイミド、リガンド若しくは標識剤を表し、 R 3 は、下記式(I)で示される化合物を表し、 TIFF 2024130632000002.tif 31 42 (式中、R a 及びR b は、それぞれ独立して、水素原子、又は置換されていてもよいアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、複素環基、複素環アルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基若しくはアリールオキシ基を表す。また、R a とR b とが互いに結合し、それぞれが結合している炭素原子と共に芳香環又はシクロアルキル環を形成していてもよい。R a 及びR b がそれぞれ結合している炭素原子間の結合は、単結合であってもよいし二重結合であってもよい。) L 1 は、NH、CO、又は下記式(11): -(CH 2 ) p1 -NH- (11) (式中、p1は1~6の整数を表す。) で示される基、若しくは下記式(12): -L 2a -(CH 2 ) q1 -L 3a - (12) (式中、L 2a は、OCO、OCONH、NHCO、NHCOO、NHCONH、CONH又はCOOを表し、L 3a は、NH又はCOを表す。q1は1~6の整数を表す。) で示される基を表し、 m1及びm2は、それぞれ独立して1~500の整数を表し(但し、m1及びm2の合計は10~500の整数を表す。)、m3、m4及びm5は、それぞれ独立して1~5の整数を表し、nは1~500の整数を表す。 「/」の表記は、その左右に示された(m1+m2)個の各モノマー単位の配列順序が任意であることを表す。〕 で示されるブロック共重合体と、次式(2): TIFF 2024130632000003.tif 52 168 〔式中、R 1 、R 2 、L1、m1及びm2、並びに「/」の表記は前記と同様であり、R 30 及びR 32 は、それぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R 31 及びR 33 は、それぞれ独立してアミノ基を有する基又はリンカーを有する基を表す(但し、(m1+m2)個の各モノマー単位のうち少なくとも1つにおいて、R 31 及び/又はR 33 はリンカーを有する基である。)。〕 で示されるブロック共重合体との組み合わせを含む、タンパク質送達用pH応答性担体。 [2] 式(I)で示される化合物が、下記式(Ia)~(Ig)で示される化合物のうち少なくとも1種である、[1]に記載の担体。 TIFF 2024130632000004.tif 92 98 [3] 式(I)で示される化合物が、下記式(Ia)又は(Ib)で示される化合物である、[2]に記載の担体。 TIFF 2024130632000005.tif 34 93 [4] リンカーを有する基が、下記式: TIFF 2024130632000006.tif 19 64 (DBCOはジベンゾシクロオクチン基を表す。) 【発明の効果】 (【0011】以降は省略されています) この特許をJ-PlatPatで参照する