発明の詳細な説明【技術分野】 【0001】 本開示は、骨伸長の促進作用を発揮でき、軟骨無形成症をはじめとする骨伸長障害の予防又は治療に利用できる骨伸長促進剤に関する。 続きを表示(約 4,000 文字)【背景技術】 【0002】 長骨の形成は軟骨内骨化と呼ばれ、間葉系幹細胞から分化した軟骨細胞の増殖及び分化によって引き起こされる(非特許文献1)。遺伝子変異や投薬等によって軟骨細胞の成熟又は機能の不全により骨伸長障害が生じると、軟骨無形成症に代表される四肢の短縮及び低身長による著しいQOLの低下を来す(非特許文献2)。 【0003】 軟骨細胞の増殖及び分化は様々な内分泌因子が制御しており、C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)はその一つである(非特許文献3及び4)。CNPは、その受容体である膜型グアニル酸シクラーゼ2(NPR2)を活性化し、cGMPの産生を介して活性化したプロテインキナーゼG(PKG)が、軟骨細胞の成熟を抑制する分裂促進因子活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路を抑制することが報告されている。(非特許文献4)。実際、ヒトではNPR2機能獲得変異を有する患者が高身長になる一方、NPR2機能喪失変異はマロトー型遠位中間肢異形成症を引き起こすことが報告されている(非特許文献5及び6)。 【0004】 従来、CNPアナログであるボソリチドが軟骨無形成症の治療薬として日本で承認されている。しかしながら、CNPアナログは血中半減期がおよそ30分程度と短く毎日の皮下投与が必須であり、小児患者の慢性利用にあたっては支障がある。更に、ボソリチドは、薬価が高額であることに加え、慢性投与による中和抗体の出現や受容体脱感作といった問題も基礎研究から示唆されており(非特許文献7及び8)、改善の余地が大きく残されている。 【0005】 一方、近年、本発明者は、CNPが活性化する新たな軟骨細胞内シグナルとしてNPR2-PKG-大コンダクタンスCa 2+ 感受性K + (BK)チャネル-TRPM7チャネル-Ca 2+ /カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ(CaMKII)を同定している(非特許文献9)。具体的には、CNP処置により活性化したPKGがBKチャネルを活性化し細胞外にK + を透過することで過分極を引き起こす。この過分極による電気化学的な力によってTRPM7を介したCa 2+ 流入が増強され、CaMKIIの活性化を介して骨伸長作用を発揮する。しかしながら、当該軟骨細胞内シグナルに立脚した骨伸長促進手法については見出されていない。 【先行技術文献】 【非特許文献】 【0006】 A. D. Berendsen and B. R. Olsen, Bone development. Bone 80, 14-18 (2015). R. M. Pauli, Achondroplasia: a comprehensive clinical review. Orphanet J Rare Dis. 14 (2019) T. Sudoh, et al., C-type natriuretic peptide (CNP): a new member of natriuretic peptide family identified in porcine brain. Biochem Biophys Res Commun. 168, 863-870 (1990). N. J. Peake, et al., Role of C-type natriuretic peptide signalling in maintaining cartilage and bone function. Osteoarthritis and Cartilage 22, 1800-1807 (2014). S. E. Hannema, et al., An Activating Mutation in the Kinase Homology Domain of the Natriuretic Peptide Receptor-2 Causes Extremely Tall Stature Without Skeletal Deformities. J Clin Endocrinol Metab 98(12): E1988-E1998(2013). C. F. Bartels, et al., Mutations in the Transmembrane Natriuretic Peptide Receptor NPR-B Impair Skeletal Growth and Cause Acromesomelic Dysplasia, Type Maroteaux. Am. J. Hum. Genet. 75:27-34 (2004). M. L. Chan et al., Pharmacokinetics andExposure-Response ofVosoritide inChildren withAchondroplasia. Clinical Pharmacokinetics, 61, 263-280(2022) L. C. Shuhaibar et al., Dephosphorylation of the NPR2 guanylyl cyclase contributes to inhibition of bone growth by fibroblast growth factor, eLife 6, e31343(2017). DOI: https://doi.org/10.7554/eLife.31343 Y. Miyazaki, et al., C-type natriuretic peptide facilitates autonomic Ca2+entry in growth plate chondrocytes for stimulating bone growth. eLife 11, e71931(2022). 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 前述したCNPアナログの課題の解決には、NPR2より下流のシグナル分子を標的とした治療薬の開発が有効であると考えられる。そこで、本開示は、CNPのシグナル経路において、NPR2より下流のシグナル分子を標的とした骨伸長促進剤を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、軟骨細胞においてホスホジエステラーゼ3(PDE3)を阻害することにより、軟骨細胞内Ca 2+ シグナルを増強し、優れた骨伸長の促進効果が奏されることを見出した。本開示は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。 【0009】 即ち、本開示の一実施形態として、下記に掲げる態様の骨伸長促進剤を提供する。 項1-1. PDE3阻害薬を含む、骨伸長促進剤。 項1-2. 前記PDE3阻害薬が、シロスタゾール、シロスタミド、ミルリノン、オルプリノン、アムリノン、ベスナリノン、エノキシモン、エンシフェントリン、K134、及びこれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種である、項1-1に記載の骨伸長促進剤。 項1-3. 骨伸長障害の予防又は治療のために使用される、項1-1又は1-2に記載の骨伸長促進剤。 項1-4. 前記骨伸長障害が、軟骨無形成症、軟骨低形成症、軟骨異形成症、ターナー症候群、RAS/MAPK症候群、SGA性低身長症、又はマロトー型遠位中間肢異形成症である、項1-3に記載の骨伸長促進剤。 項1-5. C型ナトリウム利尿ペプチド又はそのアナログと併用投与される、項1-1~1-4のいずれかに記載の骨伸長促進剤。 項1-6. 前記C型ナトリウム利尿ペプチド又はそのアナログが、ボソリチドである、項1-5に記載の骨伸長促進剤。 【0010】 また、本開示の他の実施形態として、下記に掲げる態様の骨伸長促進方法を提供する。 項2-1. 骨伸長の促進が求められる者にPDE3阻害薬を投与する、骨伸長促進方法。 項2-2. 前記PDE3阻害薬が、シロスタゾール、シロスタミド、ミルリノン、オルプリノン、アムリノン、ベスナリノン、エノキシモン、エンシフェントリン、K134、及びこれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種である、項2-1に記載の骨伸長促進方法。 項2-3. 骨伸長の促進が求められる者が、骨伸長障害を有する患者である、項2-1又は2-2に記載の骨伸長促進方法。 項2-4. 前記骨伸長障害が、軟骨無形成症、軟骨低形成症、軟骨異形成症、ターナー症候群、RAS/MAPK症候群、SGA性低身長症、又はマロトー型遠位中間肢異形成症である、項2-3に記載の骨伸長促進方法。 項2-5. 骨伸長の促進が求められる者に対して、更にC型ナトリウム利尿ペプチド又はそのアナログを投与する、項2-1~2-4のいずれかに記載の骨伸長促進方法。 項2-6. 前記C型ナトリウム利尿ペプチド又はそのアナログが、ボソリチドである、項2-5に記載の骨伸長促進方法。 (【0011】以降は省略されています) この特許をJ-PlatPatで参照する