発明の詳細な説明【技術分野】 【0001】 本発明はアポトーシスにより細分化されたヌクレオソームを標的とする自家蛍光の定量法に関する。 続きを表示(約 5,800 文字)【背景技術】 【0002】 アポトーシス細胞ではCAD(カスパーゼ活性化DNase)の阻害因子が分解され、活性化したCADがDNAをヌクレオソーム単位で切断するので、およそ200bpの倍数のDNAとして断片化されるといわれる(非特許文献5)。このヌクレオソームはゲノムDNAが担う遺伝情報とエピジェネティクスの情報の双方を含む。即ち、ゲノムDNAが担う遺伝情報は塩基配列にあるが、塩基配列が同じでも異なる情報を示すことがある。すなわち、私たちの細胞内のDNAは、ヒストンタンパク質に巻きついた形で存在しており、ヒストンタンパク質がアセチル化などの化学修飾を受けるとDNAのありようが変化する。またDNA自身もメチル化などの修飾を受け、それによってはたらきが変わってくる。このような変化を示す遺伝情報をエピジェネティクスというが、一つの個体を構成する様々な細胞が、受精卵から受けついだ同じゲノムDNAを持つにも関わらず異なる機能を発揮するのは、細胞のエピジェネティクスが異なるためである。エピジェネティクスの情報は、分子の付加や消去によってDNAの構造を変え、ゲノムDNAにある遺伝子の発現をオン、オフする、いわばスイッチの役割を果たしている。つまり個体を構成する多様な細胞が正しく働くためには、各細胞の持つエピジェネティクスが重要であるとされる(東北大学教授:有馬隆博著「ヒトから知るエピジェネティクスと進化」)。そのため、自然発生の癌細胞のほとんどに、DNAメチル化とクロマチンの異常があるといわれ、癌細胞では、ゲノム全体のDNAメチル化の低下が染色体不安定性を増大するとともに、プロモーター領域の高メチル化によって癌抑制遺伝子の発現が抑制されることが知られている。ゲノム全体の低メチル化と癌抑制遺伝子の高メチル化は、一見、逆の現象のように見えるが、トランスポゾン等のリピート配列に富むゲノム領域と遺伝子のプロモーター領域では、DNAのメチル化の制御機構が異なることを示唆している。また、核構造異常(核異型)は癌細胞に共通した特徴として知られているが、ゲノム全体の低メチル化によるクロマチンの変化を反映するものと推測されている。このように、癌化におけるエピジェネティックな制御異常は、癌細胞に共通の特性のひとつとして理解することができる。高メチル化された遺伝子の不活性化に関わるMBD1とzinc fingerタンパク質 ) 、癌細胞で高発現して遺伝子制御を変化させるMCAF1、癌細胞の悪性形質に関わる構造的クロマチン因子HMCA1とHMGA2などに着目して、癌のエピジェネティックな異常について解析を進められており(熊本大学発生医学研究所教授:中尾光善著)、各細胞の持つエピジェネティクスを解析することは重要である。 【0003】 ところで、ガンの確定診断は、がん組織の一部を穿刺や内視鏡処理などによって採取し、その組織片の病理組織検査を行う、いわゆる生検法(バイオプシィ)によってなされるのが一般的である。多くの生検法(バイオプシィ)は出血や細菌感染の合併などのリスクを伴う侵襲的な処理であり、また、主要の部位によっては生検が困難なこともある。この課題を克服するために、血液や尿など容易に採取可能な検体を用いて病理診断に匹敵する精度で疾患診断をしようとする試みは、液体生検(リキッド・バイオプシィ)と呼ばれ、その迅速性および簡易性から臨床応用に適切なものとして非常に注目されている。このリキッド・バイオプシィの標的としては、ガン疾患の場合、血中循環腫瘍細胞(circulating tumor cells:CTC)、末梢血循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA:ctDNA)以外に、エクソソームや末梢血循環マイクロRNA(microRNA: miRNA)など複数挙げられる。 【0004】 ここで、血中循環腫瘍細胞(CTC) は、原発腫瘍組織または転移腫瘍組織から上皮間葉転換(EMT)を経て血中へ遊離し、血流中を循環する細胞であり、原発腫瘍部位から遊離した後、CTCは血液内を循環し、その他の臓器を侵襲して転移性腫瘍(転移巣)を形成する。このCTCはがん患者の末梢血に存在するため、これを検出することで転移の過程を判断し、治療の予後予測に役立てることができるとされ、期待される。ところが、その他の血液細胞と比較して、CTCはごく微量しか存在せず、検出が非常に困難であるという難点がある。他方、末梢血循環マイクロRNA(miRNA)やそれを含むエクソソームは特に早期診断への有用性が期待されている。なぜなら、マイクロRNAは細胞内でタンパク質へと翻訳される前のメッセンジャーRNA(mRNA)に相補的に結合し、そのmRNAの翻訳を阻害する、いわゆる遺伝子発現のファインチューナーとして様々な生命現象において重要な役割を担っており、ガン細胞ではマイクロRNAの発現制御機構の破綻が生じ、例えば細胞増殖を促進するマイクロRNAなどが高発現していることが知られるためである。また、近年、ほぼ全ての細胞が細胞外小胞(エクソソーム)を分泌しており、早期がん細胞が分泌したエクソソームを体液中から検出することで、早期がんの診断も可能であるとされるためである。したがって、エクソソームを解析対象としても疾患細胞由来のエクソソームを特異的に検出することが望まれるため、超遠心分離による回収に時間を要し、ハイスループット性に難がある。また、上記血中循環腫瘍細胞(CTCs, Circulating Tumor Cells)による診断技術を含め、この種リキッド・バイオプィシィ法は、がん患者検体(末梢血4mL)から赤血球を溶血させた後、CD45抗体ビーズを用いて血液細胞を除去し、サイトケラチン陽性、かつCD45陰性の細胞分画をソートする必要があり、短時間での解析が可能な臨床応用でのリキッド・バイオプシィ法の提供には限界がある(非特許文献1、2及び3)。 【0005】 そこで、本発明者らは、各細胞の持つエピジェネティクス情報を簡易に解析するため、鋭意研究の結果、アポトーシス細胞ではCAD(カスパーゼ活性化DNase)の阻害因子が分解され、活性化したCADがDNAをヌクレオソーム単位で切断するので、およそ200bpの倍数のDNAとして断片化される。このアポトーシス後のヌクレオソームはゲノムDNAが担う遺伝情報とエピジェネティクスの情報の双方を含み、しかも、ヒストンタンパク質がアセチル化などの化学修飾を受けるとDNAのありようが変化する一方、DNA自身もメチル化などの修飾を受け、それによってはたらきが変わってくるといわれる。本発明者は、かかるヌクレオソームは、断片化された後もヒストンタンパク質に巻きついた形(細分化されたヌクレオソーム)で存在し、メチル化され、プラス電荷を有しており、血中で、マイナス電荷を示すプラズモン金属メソ結晶の表面に選択的に吸着捕集され、しかも表面プラズモン増強効果により増強されると、蛍光顕微鏡で確認できる所定以上の輝度を有する自家蛍光を発光して観測可能であることを見出した(図1)。因みに、p53を含むガン抑制遺伝子はエピジェネティクスによりメチル化されており、メチル化されたヌクレオソームを検出することはガン疾病情報として欠かせないにも関わらず、メチル化ヌクレオソームを選択的に捕集することは難しいことであった。しかもアポトーシス後の血中から捕捉される断片化DNA、即ち、細分化されたヌクレオソームはバイオチップ上で幾分凝集してその発する自家蛍光コロニーは夜空の星座のように複数のコロニーとして観測され、小さいものでは、25μm程度の広がり、大きいものでは150μm程度の広がりとして観測された。 【0006】 従前、細胞観察では自家蛍光は背景光となり、蛍光画像の信号雑音比(S/N比)を低下させることになる。そのため、内視鏡検査では標的を蛍光標識する方法が推奨され、蛍光画像から最良のデータを取得するためには、シグナル(蛍光標識されることが望ましいもの)とバックグラウンド(蛍光標識されることが望ましくない自家蛍光など)の差をできる限り大きくすることが必要であった(非特許文献6)。そのため、自家蛍光を用いる蛍光顕微鏡の細胞観測において、自家蛍光の蛍光強度でなく、蛍光のもう一つのパラメータである蛍光寿命を画像化することにより細胞観察することが行われるのが一般的であった(非特許文献7)。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0007】 WO2015/170711号公報 特開2011-158369号公報 WO2013/039180号公報 【非特許文献】 【0008】 末梢血循環腫瘍細胞Circulating Tumor Cells (CTCs) の検出:Circulating tumor cell isolation and diagnostics: toward routine clinical use. Cancer Res 2011;71:5955-60 Gorges TM, Pantel K:. Circulating tumor cells as therapy-related biomarkers in cancer patients. Cancer Immunol Immunother 2013;62:931-9. Permuth-Wey J et al., A Genome-Wide Investigation of MicroRNA Expression Identifies Biologically-Meaningful MicroRNAs That Distinguish between High-Risk and Low-Risk Intraductal Papillary Mucinous Neoplasms of the Pancreas., PLoS One., 2015;10:e0116869. Ellen Heitzer, Peter Ulz and Jochen B. Geigl, Circulating Tumor DNA as a Liquid Biopsy for Cancer., Clinical Chemistry 2015; 61:112-123 Cell,2016January14;164:Cell-free DNA comprises an in vivo nucleosome footprint that informs its tissues-of-origin 自家蛍光内視鏡の現況Vol.58(4)Apr.2016 生物物理53(3),166-169(2013) 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 本発明者らは、鋭意研究の結果、疾患の発生により血液その他体液中にアポトーシスに代表される病理的な細胞死によって放出されるヌクレオソームを検査の対象とすると、疾患との関連性が深いことに着目した(例えば発がんはガン遺伝子及びガン抑制遺伝子の異常により発生する遺伝子疾患であることは広く受け入れられている事実であるが、メチル化に代表される塩基への修飾によるエピジェネテックスな遺伝子異常によっても発がんすることが明らかになってきており、ガン抑制遺伝子の質的異常だけでなく、高メチル化による量的異常が発ガン機構に重要となっており、ガン細胞で高メチル化を受けるガン抑制遺伝子の活性不活化として、高メチル化したRB遺伝子、p16以外にp14並びにp53の不活化は発ガン機構として注目されている:曽和義弘、酒井敏行著癌とエピジェネティクス)ので、その高メチル化ガン抑制遺伝子を含む、ヌクレオソームを選択的に捕捉し、その量的異常を検出することはガン検診としては重要である。しかもそれらは蛍光画像では図1に示す夜空の星座のように複数のコロニーが観測されるので、プラズモン金属メソ結晶の表面プラズモン増強効果により増強されると、蛍光顕微鏡で確認できる所定以上の輝度を有する自家蛍光を発光し(図1)、所定以上の輝度を示す画素、ピクセルを採択して分析すると疾病に関し、正診率の高い結果が得られることを見出し、本発明を完成した。即ち、本発明が解決しようとする課題は、アポトーシスによって血中に放出されるヌクレオソームを標的とし、組織検体を用いたヒストン修飾解析、クロマチン構造解析により、各種疾病、特にがんの発症につながる、腫瘍の検出や診断を、疾病関連物質として、細分化ヌクレオソームの自家蛍光による迅速にかつ容易に行うための定量法を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0010】 本発明は、a)試料中プラズモン金属メソ結晶領域を有する測定基板に、体液または細胞を含む培養液をそのまま又は希釈して作成した検体を接触させ、検体中のヌクレオソームを疾病関連物質としてプラズモン金属メソ結晶に電荷捕捉させる工程と、b)このプラズモン金属メソ結晶上の捕捉されたヌクレオソームに、レーザ光源による単波長の励起光またはLED光源などからの励起光を、フィルタを介して取得する一定波長幅の励起光を照射して、その自家蛍光を表面プラズモン増強効果により増強し、ヌクレオソームの蛍光コロニーの蛍光画像を一定の測定領域(ROI)を決め、励起光フィルタより長波長域のフィルタを介して蛍光コロニー画像を取得する工程と、c)該蛍光コロニー画像の所定の閾値以上の輝度を示すピクセルを採択する工程と、d)採択された測定領域の所定の波長域での所定の閾値以上のピクセルの総面積値、又は採択された測定領域の異なる2波長領域の、所定の閾値以上のピクセルの総面積値のratioを演算する工程を含むことを特徴とする自家蛍光によるヌクレオソームの定量法にある。 (【0011】以降は省略されています) この特許をJ-PlatPatで参照する