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公開番号2024130955
公報種別公開特許公報(A)
公開日2024-09-30
出願番号2023040935
出願日2023-03-15
発明の名称配向性制御剤
出願人花王株式会社
代理人弁理士法人アルガ特許事務所
主分類H01M 4/86 20060101AFI20240920BHJP(基本的電気素子)
要約【課題】酸化還元酵素の配向性を制御可能な配向性制御剤の提供。
【解決手段】式(I)~(IV)で表されるカルボン酸又はその塩、及び式(V)で表されるフェノール類より選択される少なくとも1種からなる酸化還元酵素の配向性制御剤。
【選択図】なし
特許請求の範囲【請求項1】
下記式(I)~(IV)で表されるカルボン酸又はその塩、及び下記式(V)で表されるフェノール類より選択される少なくとも1種からなる酸化還元酵素の配向性制御剤。
JPEG
2024130955000018.jpg
59
170
(式中、R
1
及びR
5
は、同一又は相異なって、水素原子、又はヒドロキシ基を示し;

2
は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、又はカルボキシ基を示し;

3
は、水素原子、ヒドロキシ基、又はフェニル基を示し;

4
は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基、窒素原子を1~3個有する単環性の5~6員の不飽和複素環基、又はフェノキシ基を示す。
ただし、R
1
、R
2
、R
3
、R
4
、R
5
のすべてが水素原子であるものを除く。);
JPEG
2024130955000019.jpg
59
170
JPEG
2024130955000020.jpg
50
170
JPEG
2024130955000021.jpg
64
170
(式中、R
6
及びR
9
は、同一又は相異なって、水素原子、又はハロゲン原子を示し;

7
は、=O、-ONa、ジエチルアミノ基、又は=N
+
(C
2

5

2
Cl
-
を示し;

8
は、水素原子、ハロゲン原子、又はニトロ基を示す。)
JPEG
2024130955000022.jpg
54
170
(式中、R
10
は、水素原子、又はフェニル基を示し;

11
、R
12
及びR
13
は、同一又は相異なって、水素原子、又はヒドロキシ基を示す。)
続きを表示(約 1,600 文字)【請求項2】
上記カルボン酸又はその塩は、上記式(I)又は(IV)で表されるカルボン酸又はその塩である請求項1記載の配向性制御剤。
【請求項3】
上記カルボン酸又はその塩は、下記式(I’)又は(IV’)で表されるカルボン酸又はその塩である請求項1記載の配向性制御剤。
JPEG
2024130955000023.jpg
58
170
(式中、R
1
及びR
5
は、同一又は相異なって、水素原子、ヒドロキシ基を示し;

2
は、水素原子、ヒドロキシ基、又はカルボキシ基を示し;

3
は、水素原子、又はヒドロキシ基を示し;

4
は、水素原子、ヒドロキシ基、又は置換基を有していてもよいフェニル基を示す。
ただし、R
1
、R
2
、R
3
、R
4
、R
5
のすべてが水素原子であるものを除く。)
JPEG
2024130955000024.jpg
66
170
(式中、R
6
及びR
9
は、同一又は相異なって、水素原子、又はハロゲン原子を示し;

7
は、=O、又は-ONaを示し;

8
は、水素原子、ハロゲン原子、又はニトロ基を示す。)
【請求項4】
カルボン酸又はその塩、及びフェノール類が、次の(1)~(27)より選択される少なくとも1種である請求項1記載の配向性制御剤。
(1)ビフェニル-3-カルボン酸
(2)2’-メチルビフェニル-3-カルボン酸
(3)3-(3’-ピリジル)安息香酸
(4)3-(ピリジン-4-イル)安息香酸
(5)3-(ピリミジン-5-イル)安息香酸
(6)3-フェノキシ安息香酸
(7)3-(2-ナフチル)安息香酸
(8)3,5-ジ-tert-ブチル安息香酸
(9)3,5-ジメチル安息香酸
(10)3,5-ジブロモ安息香酸
(11)5-ヒドロキシイソフタル酸
(12)没食子酸
(13)プロトカテク酸
(14)2,3-ジヒドロキシ安息香酸
(15)2,6-ジヒドロキシ安息香酸
(16)2,4,6-トリヒドロキシ安息香酸
(17)フロログルシノール
(18)フェニルヒドロキノン
(19)ビフェニル-4-カルボン酸
(20)2,2’-ビシンコニン酸
(21)1-ピレン酪酸
(22)エオシンY
(23)エリスロシンB
(24)アシッドレッド94
(25)アシッドレッド92
(26)アシッドレッド91
(27)ローダミンB
【請求項5】
酸化還元酵素がマルチ銅オキシダーゼである請求項1~4のいずれか1項記載の配向性制御剤。
【請求項6】
酸化還元酵素がビリルビンオキシダーゼである請求項1~4のいずれか1項記載の配向性制御剤。
【請求項7】
電極上に、請求項1~6のいずれか1項記載の配向性制御剤を介在させて酸化還元酵素が固定化された酵素電極。
【請求項8】
電極上に請求項1~6のいずれか1項記載の配向性制御剤を接触させて、当該配向性制御剤が固定化された電極を得る工程と、当該配向性制御剤が固定化された電極上に酸化還元酵素を固定化する工程を含む、酵素電極の製造方法。
【請求項9】
負極及び正極を備える酵素バイオ燃料電池であって、正極に、請求項7記載の酵素電極を備える酵素バイオ燃料電池。

発明の詳細な説明【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化還元酵素の配向性制御剤、酵素電極及び酵素バイオ燃料電池に関する。
続きを表示(約 2,800 文字)【背景技術】
【0002】
近年、IoT等のデジタル化が急速に進んでいる。特に、燃料電池やセンサーに関する研究は古くより活発に行われている領域である。その中でも、酵素バイオ燃料電池は安全性やコスト面だけでなく、環境面においても魅力的な技術の一つであり、約50年前から研究されている分野である(非特許文献1及び2)。
【0003】
生物は、有機酸等の酸化反応や酸素等の還元反応といった酵素による代謝過程において生じるエネルギーを活用している。これらの酵素の働きを電極触媒として利用することで、化学エネルギーを電気エネルギーに変換することができる。これが酵素バイオ燃料電池の概念である。
酵素バイオ燃料電池の優位点としては、(i)基質選択性により燃料のクロスオーバーがない(堅いセパレータがなくてもいい)、(ii)セパレータフリーであるため、柔軟にセルデザインが可能、(iii)室温で操作可能であり、生体親和性の高い物質を用いているため安全性も高い、(iv)酵素は工業的に大量生産可能である(資源的には枯渇する可能性が低く環境に優しい)、(v)低コストで高容量化が可能、等が挙げられる。これら酵素バイオ燃料電池の特徴を活かし、エネルギー運搬・資源開発・廃棄・リサイクルに関わる消費エネルギーの削減を実現できる。
一方で、酵素バイオ燃料電池には出力面や容量面、安定性面に課題があり(非特許文献1)、実用化に至っていない。このような背景の下、近年のSDGsの潮流(化石エネルギーから再生エネルギーへの移行)を受けて、酵素バイオ燃料電池に関する研究が再燃してきている。
【0004】
酵素バイオ燃料電池における電極-酵素間の電子伝達形式は大別して2つに分けられる(非特許文献3)。1つ目が、低分子化合物等の酸化還元物質を介してリレー形式で電子を伝える電子伝達メディエータ型(MET)である。もう1つが、電極と酵素の間を介するモノが無く、直接的に電子の授受を行う直接電子移動型(DET)である。近年では、センサーでの利用を目的として、検出した化合物をより定量的に測定すべく、DETの形式を用いられることが増えてきている。
【0005】
DET型においてメディエータを用いない場合、酵素-電極間の距離が重要な要素となる。一般的に酵素中の電子の伝達可能な距離は20Åとされており(非特許文献4)、15Å以内に収めるのが良いとされている(非特許文献5)。また、同時に酵素の配向性が重要となってくる(非特許文献6)。
DET型カソード酵素には、活性中心となる金属原子がポリペプチドに埋没している酵素、例えば、マルチ銅オキシダーゼが頻繁に用いられる。そのため、理想的な電極は、その活性中心から近く、さらに電子を通しやすいものとされている。環境面等様々な観点から、近年では導電性の優れた材料として炭素材料が用いられてきている。ただし、炭素材料は疎水性材料であり、水中で凝集してしまうため、バイオ領域での利用には工夫が必要とされている(非特許文献7)。
【0006】
酵素の活性中心を電極近傍に配置すべく酵素の固定化法として、共有結合法・橋かけ結合法・吸着法・包括法等が広く研究されている(非特許文献6)。特に、吸着法(物理的吸着)は簡便であり、酵素の変性・失活も少なく、担体の再利用も可能であるため、配向性制御を目的とした研究が活発に行われている。一方で、電極からの脱離・漏出という課題もあるため、共有結合法等も並行して研究が進んでいる。ただし、共有結合による固定化は、酵素安定性に大きな影響を与える可能性も大きく、取り扱いが難しい(非特許文献4)。そのため、酵素工学も重要とされているにも関わらず、酵素の安定性と活性の変化を誘発してしまうため採用されていない。
【0007】
マルチ銅オキシダーゼによる酸素の還元反応に関して、詳細の解明には至っていないものの、研究が進んでいる。酸素の還元反応において想定されている作用機序では、マルチ銅オキシダーゼの活性中心である4つ銅イオン(T1,T2,T3,T3)間の電子移動が想定されており(非特許文献9)、このうちPeroxy intermediate(PI)とNative intermediate(NI)の反応性が高く、これらは検出できないとされている。さらなる検証の結果、T2近傍のAspにH
+
を供給することでT2T3の間での電子移動が高速となることがわかってきた(非特許文献8)。pHを大きくすることで電流密度は小さくなり、酸性条件にて電流密度が大きくなることとも一致する。また、銅イオンを他のイオンに置き換えた検討よりT1が電子の入り口であることもわかっている(非特許文献10)。以上より、高反応性のPIやNIによる再酸化を考慮すると、電流密度の向上には、界面にてT1へ電子を高速で送る必要性があるといえる。つまり、T1を電極の近くに配置するよう配向性を制御する必要がある。
【0008】
ビリルビンオキシダーゼに関して、より詳細な構造解析がなされている(非特許文献11)。疎水性残基で構成されたタンパク質表面の内側に、T1は位置しており、その周辺は親水性残基で構成されている。さらに、T1近傍は正の電荷を帯びており、正に帯電した電極を近づけた場合に、酵素が反対向きに配向されることもわかっている(非特許文献12及び13)。すなわち、静電相互作用により配向性を制御することが可能であるということである。また、静電相互作用が電流密度の向上に影響しないことも合わせて確認されている(非特許文献4)。
【0009】
上述したように、ビリルビンオキシダーゼのT1近傍は正に帯電していることが明らかになっている。これに基づき、負に帯電する小分子を用いて配向性を制御する手法の開発が活発に行われている。例えば、非特許文献8では、負に帯電する小分子を電極表面に電気化学的に修飾することで、酵素を塗布した際の電流密度の挙動が観測され、小分子の修飾によるCVの波形に影響はなく、ナフタレンの末端にカルボン酸をもつ化合物が大きな電流密度を生じたことが報告されている。
また、非特許文献14では、電流密度の測定結果より、スルホン酸を含有した化合物が効果的であることが報告されている。
【0010】
さらに、小分子としてビリルビンを用いた技術が検討されている。ビリルビンは、ビリルビンオキシダーゼの基質であり、その基質特異性を利用することでビリルビンオキシダーゼの配向性を制御できると考えられた。実際、ビリルビンを電極に修飾していない場合と比較すると、電流密度が2倍以上に大きく向上したことが報告されている(非特許文献11)。
(【0011】以降は省略されています)

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