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公開番号2025120083
公報種別公開特許公報(A)
公開日2025-08-15
出願番号2024056194
出願日2024-03-29
発明の名称動的ネットワークバイオマーカーとしてのトリプトファニルtRNA合成酵素様タンパク質を有効成分として含む、炎症性腸疾患の治療、再燃予防、又は寛解維持のための医薬組成物
出願人国立大学法人富山大学,国立研究開発法人科学技術振興機構
代理人個人,個人,個人,個人
主分類A61K 38/43 20060101AFI20250807BHJP(医学または獣医学;衛生学)
要約【課題】本発明は、炎症性腸疾患の治療、再燃予防、又は寛解維持のための医薬を提供することを目的とする。
【解決手段】トリプトファニルtRNA合成酵素様タンパク質を有効成分として含む、炎症性腸疾患の治療、再燃予防又は寛解維持のための医薬。
【選択図】なし
特許請求の範囲【請求項1】
トリプトファニルtRNA合成酵素様タンパク質を有効成分として含む、炎症性腸疾患の治療、再燃予防、又は寛解維持のための医薬。
続きを表示(約 710 文字)【請求項2】
前記タンパク質がヒト由来である、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
炎症性腸疾患の再燃が予測された対象に投与される、請求項1又は2に記載の医薬。
【請求項4】
前記炎症性腸疾患の再燃が、トリプトファニルtRNA合成酵素、ロイシンリッチα2グリコプロテイン、C反応性タンパク質、及びカルプロテクチンから選択される一つ以上のタンパク質の発現量又は前記一つ以上のタンパク質をコードするmRNA量を測定することにより予測される、請求項3に記載の医薬。
【請求項5】
ヒト由来トリプトファニルtRNA合成酵素、又は前記酵素をコードするmRNAからなる、炎症性腸疾患の診断用バイオマーカー。
【請求項6】
被検対象由来のサンプルに含まれるトリプトファニルtRNA合成酵素量、又は前記酵素をコードするmRNA量を測定する工程と、
前記酵素量が、酵素量の基準値より高い場合、又は前記mRNA量が、mRNA量の基準値より高い場合、前記被検対象は炎症性腸疾患に罹患している可能性があるか、又は罹患するリスクが高いと判定する工程とを含む、炎症性腸疾患の診断を補助する方法。
【請求項7】
前記サンプルが、大腸の組織、又は前記組織から調製されたサンプルである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記酵素の基準値が、健常対照由来のサンプルに含まれるトリプトファニルtRNA合成酵素量であり、前記mRNA量の基準値が健常対照由来のサンプルに含まれる前記酵素をコードするmRNA量である、請求項6又は7に記載の方法。

発明の詳細な説明【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性腸疾患の治療、再燃予防、又は寛解維持のための医薬に関する。
続きを表示(約 4,700 文字)【背景技術】
【0002】
腸管の難病である炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease;IBD)は、腸管の慢性炎症を特徴とする2つの状態(クローン病(Crohn’s Disease、以下、CD)と潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis、以下、UC))を含む疾患を表す用語である。多くのIBD症例では、標準的治療薬として5-アミノサリチル酸、免疫抑制剤等が投与され、IBDの発症及び/又は再燃による活動期炎症を抑制することが出来ている。しかし、IBDは寛解と再燃を繰り返す慢性炎症疾患であることから、現在の最大の治療目標は、発症及び/又は再燃による活動期炎症を抑制することから、再燃を繰り返す悪循環を断ち切り、長期の寛解維持を実現することに移行している。しかし、再燃予防及び寛解維持を目的に開発されたIBD治療薬は無く、また再燃を予測するバイオマーカーも確立されていない。
【0003】
IBDの正確な発症原因は不明だが、異常な免疫応答の亢進の結果であることが示唆されており、発症メカニズムの解析等が盛んに進められている。8週齢で炎症惹起物質デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)溶液の投与により、実験的大腸炎が引き起こされたマウス(大腸炎モデルマウス)の腹腔内へのヒト臍帯血由来の多能性幹細胞(hUCB-MSC)の注射によって、大腸炎の症状が軽減することが報告されている。上記モデルマウスの血清中のトリプトファニルtRNA合成酵素レベルは対照マウスに比較して減少しているが、腹腔内へのヒト臍帯血由来の多能性幹細胞の注射によって回復することが報告されている。また、試験管内でhUCB-MSCをIFN-γを用いて処理することでトリプトファニルtRNA合成酵素の分泌が増加することや、トリプトファニルtRNA合成酵素の処理により、hUCB-MSC又はhUCB-MSCから単離されたCD4陽性のT細胞の増殖が抑制されることも報告されている(非特許文献1)。しかしながら、トリプトファニルtRNA合成酵素の投与により実験的大腸炎の発症が抑制されることは知られていなかった。
【0004】
本発明者らは、これまで東洋医学の概念でしかなかった「未病」を、数理工学の手法を用い科学的かつ客観的に予測する動的ネットワークバイオマーカー(Dynamical Network Biomarker;DNB)理論を提唱した。本理論は、人間の心身の状態は健康と病気との間を「ゆらぎ」ながら連続的に変化するため、新たな数理解析手法であるDNB解析により「ゆらぎ」を捉え、「ゆらぎ」が最大化するポイントが発症前状態あるいは疾病前状態、すなわち未病状態であるとする仮説に基づいている。つまり、様々な生体内要素が相互作用しながら複雑なネットワークを形成している生体において、生体システムが安定している健康状態では「ゆらぎ」は起こり難い。しかし、遺伝的背景(内因性因子)に加えて、生活習慣の悪化等の環境因子(外因性因子)が複雑に絡み合うことによって仮想エネルギーが増大すると、生体ネットワークの或る特定の部分ネットワークの生体内因子群が強い相関を持って大きくゆらぎ、さらに仮想エネルギーが増大すると、再び「ゆらぎ」が小さい別の安定状態である発症・疾病(異常)状態へ不可逆的に状態遷移する。この状態遷移の臨界点である未病(発症前・疾病前)状態では容易に発症・疾病状態へ遷移するが、生活習慣等の改善や薬剤介入等の適切な医療介入によって可逆的に健康状態、寛解状態へ回帰する可能性がある。
【0005】
動的ネットワークバイオマーカーに関する技術として、例えば、特許文献1には、生体に関する測定により得られた複数の因子項目についての測定データに基づいて、測定対象である生体の症状の指標となるバイオマーカーの候補を検出する検出装置を用いた検出方法が開示されている。該検出装置は、各因子項目のそれぞれの測定データの時系列変化の相関関係に基づいて複数の因子項目を複数のクラスターに分類する分類ステップと、分類した各クラスターから、各因子項目のそれぞれの測定データの時系列変化及び各因子項目間の測定データの時系列変化の相関関係に基づいて予め設定された選出条件に該当するクラスターを選出する選出ステップと、選出したクラスターに含まれる因子項目をバイオマーカーの候補として検出する検出ステップとを実行することを特徴とする。また、特許文献2~3にも動的ネットワークバイオマーカーに関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
国際公開第2014/050160号
国際公開第2014/065155号
国際公開第2018/207925号
【非特許文献】
【0007】
BMB Rep.2019;52(5):318-323
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、炎症性腸疾患の治療、再燃予防、又は寛解維持のための医薬及び当該治療薬を投与すべき患者の決定を可能とするコンパニオン診断薬を提供することを目的とする。本発明はまた、炎症性腸疾患の再燃を予測可能なバイオマーカー、上記医薬のコンパニオン診断バイオマーカー、炎症性腸疾患の診断を補助する方法、炎症性腸疾患の再燃可能性の決定を補助する方法及び炎症性腸疾患の治療、再燃予防、又は寛解維持方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、DSSで誘起した大腸炎モデルマウスを用いて、遺伝子の発現量についてDNB解析を実施することで、これまでの解析では見出せなかったWars遺伝子(タンパク質名:トリプトファニルtRNA合成酵素;WRS)を炎症性腸疾患治療の標的の候補として見出した。そして、Wars遺伝子が炎症性腸疾患において病態生理学的に意義のある遺伝子かどうかを検討した結果、大腸炎モデルマウスにおいて、大腸炎が発症する際にはWars遺伝子の発現量のゆらぎが大きくなることを見出した。さらに、WRSリコンビナントタンパク質を大腸炎モデルマウスに投与することで、大腸炎発症が抑制されることを見出した。本発明はこれらの新規の知見に基づくものである。
【0010】
すなわち、本発明は、例えば以下の発明に関する。
[1]
トリプトファニルtRNA合成酵素様タンパク質を有効成分として含む、炎症性腸疾患の治療、再燃予防、又は寛解維持のための医薬。
[2]
上記タンパク質がヒト由来である、[1]に記載の医薬。
[3]
炎症性腸疾患の再燃が予測された対象に投与される、[1]又は[2]に記載の医薬。
[4]
上記炎症性腸疾患の再燃が、トリプトファニルtRNA合成酵素、ロイシンリッチα2グリコプロテイン、C反応性タンパク質、及びカルプロテクチンから選択される一つ以上のタンパク質の発現量又は上記一つ以上のタンパク質をコードするmRNA量を測定することにより予測される、[3]に記載の医薬。
[5]
ヒト由来トリプトファニルtRNA合成酵素、又は上記酵素をコードするmRNAからなる、炎症性腸疾患の診断用バイオマーカー。
[6]
被検対象由来のサンプルに含まれるトリプトファニルtRNA合成酵素量、又は上記酵素をコードするmRNA量を測定する工程と、
上記酵素量が、酵素量の基準値より高い場合、又は上記mRNA量が、mRNA量の基準値より高い場合、上記被検対象は炎症性腸疾患に罹患している可能性があるか、又は罹患するリスクが高いと判定する工程とを含む、炎症性腸疾患の診断を補助する方法。
[7]
上記サンプルが、大腸の組織、又は上記組織から調製されたサンプルである、[6]に記載の方法。
[8]
上記酵素の基準値が、健常対照由来のサンプルに含まれるトリプトファニルtRNA合成酵素量であり、上記mRNA量の基準値が健常対照由来のサンプルに含まれる上記酵素をコードするmRNA量である、[6]又は[7]に記載の方法。
[9]
被検対象由来のサンプルに含まれる、ロイシンリッチα2グリコプロテイン、カルプロテクチン、及びC反応性タンパク質から選択される一つ以上のタンパク質の発現量又は上記一つ以上のタンパク質をコードするmRNA量を測定する工程を更に含む、[6]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]
被検対象由来のサンプルに含まれる、炎症性腸疾患の治療、再燃予防、又は寛解維持のための医薬のコンパニオン診断バイオマーカーの量を測定する工程と、
上記コンパニオン診断バイオマーカーの量が基準値より高い場合、上記被検対象に、[1]又は[2]に記載の医薬を投与する、炎症性腸疾患の治療、再燃予防、又は寛解維持方法。
[11]
上記コンパニオン診断バイオマーカーが、トリプトファニルtRNA合成酵素、ロイシンリッチα2グリコプロテイン、カルプロテクチン、及びC反応性タンパク質、並びにこれらのタンパク質をコードするmRNAから選択される一つ以上である、[10]に記載の方法。
[1’]
トリプトファニルtRNA合成酵素様タンパク質を有効成分として含む、炎症性腸疾患の治療のための医薬を被検対象に投与することを含む炎症性腸疾患の治療方法。
[2’]
上記タンパク質がヒト由来トリプトファニルtRNA合成酵素様タンパク質である[1’]に記載の方法。
[3’]
トリプトファニルtRNA合成酵素様タンパク質を有効成分として含む、炎症性腸疾患の再燃予防、又は寛解維持のための医薬を炎症性腸疾患の再燃が予測された被検対象に投与することを含む炎症性腸疾患の再燃予防、又は寛解維持の方法。
[4’]
上記タンパク質がヒト由来トリプトファニルtRNA合成酵素様タンパク質である[3’]に記載の方法。
[5’]
上記炎症性腸疾患の再燃が予測された被検対象が、当該被検対象由来のサンプルに含まれるコンパニオン診断バイオマーカーの量の測定値が基準値よりも高いと判定された被検対象である、[3’]又は[4’]に記載の方法。
[6’]
上記コンパニオン診断バイオマーカーが、ロイシンリッチα2グリコプロテイン、カルプロテクチン、及びC反応性タンパク質から選択される一つ以上のタンパク質の発現量又は上記一つ以上のタンパク質をコードするmRNA量である[5’]に記載の方法。
[7’]
5-アセチルサリチル酸を有効成分として含む、炎症性腸疾患の再燃予防、又は寛解維持のための医薬。
[8’]
炎症性腸疾患の再燃が予測された対象に投与される、[7’]に記載の医薬。
[9’]
上記炎症性腸疾患の再燃が、トリプトファニルtRNA合成酵素のタンパク質の発現量又は当該タンパク質をコードするmRNA量を測定することにより予測される、[7’]又は[8’]に記載の医薬。
【発明の効果】
(【0011】以降は省略されています)

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