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公開番号2025153885
公報種別公開特許公報(A)
公開日2025-10-10
出願番号2024056588
出願日2024-03-29
発明の名称遺伝子疾患の検出方法
出願人国立大学法人信州大学
代理人弁理士法人三枝国際特許事務所
主分類C12Q 1/6848 20180101AFI20251002BHJP(生化学;ビール;酒精;ぶどう酒;酢;微生物学;酵素学;突然変異または遺伝子工学)
要約【課題】同じ遺伝子領域の変異アレルの有無が異なる類似の2つの疾患を効率的かつ高精度に識別する方法を提供する。
【解決手段】遺伝子のコドンの変異により生じる遺伝子疾患と、別の疾患とを識別する方法は、前記コドンを含む遺伝子領域を増幅するために増幅反応を行う工程であって、前記増幅反応において、前記コドンを含む遺伝子領域を増幅するためのDNAプライマー及び前記コドンを含む正常アレルの増幅を阻害するPNAを添加することを含む工程、及び前記増幅反応により得られた産物に対し、前記変異を有する前記コドンを含む塩基配列又は前記変異を有しない前記コドンを含む塩基配列のいずれかを特異的に認識して切断する制限酵素を作用させ、制限酵素処理産物を得る工程、を含む。
【選択図】図3
特許請求の範囲【請求項1】
遺伝子のコドンの変異により生じる遺伝子疾患と、別の疾患とを識別する方法であって、
前記コドンを含む遺伝子領域を増幅するために増幅反応を行う工程であって、前記増幅反応において、前記コドンを含む遺伝子領域を増幅するためのDNAプライマー及び前記変異を有しない前記コドンを含む正常アレルの増幅を阻害するPNAを添加することを含む工程、及び
前記増幅反応により得られた産物に対し、前記変異を有する前記コドンを含む塩基配列又は前記変異を有しない前記コドンを含む塩基配列のいずれかを特異的に認識して切断する制限酵素を作用させ、制限酵素処理産物を得る工程、を含む方法。
続きを表示(約 940 文字)【請求項2】
前記制限酵素処理産物に含まれるDNA断片を電気泳動にかける工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法は、電気泳動後に、電気泳動後に分離されたDNA断片のシグナル解析を行う工程をさらに含み、電気泳動後の前記変異を含むDNA断片に由来するシグナルが、前記遺伝子疾患の罹患可能性の指標となる請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記遺伝子領域のコドンの変異により生じる遺伝子疾患が、筋肉内粘液腫、線維性骨異形成、膵管内乳頭粘液性腫瘍、低悪性度虫垂粘液性腫瘍、大腸絨毛腺腫、McCune-Albright症候群、及びMazabraud症候群からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記方法は、筋肉内粘液腫と低悪性度粘液線維肉腫とを識別するための方法であり、
前記遺伝子領域は、GNAS遺伝子の201コドンを含む遺伝子領域であり、
前記増幅反応を行う工程は、正常アレルである201コドンの増幅を阻害するPNAを添加することを含み、
前記制限酵素処理産物を得る工程は、正常アレルである201コドンを有する配列又は変異アレルである201コドンを有する配列のいずれかを特異的に認識して切断する制限酵素を作用させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記制限酵素が、BceA Iを含む請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記PNAが、配列番号3で表される塩基配列を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記コドンを含む遺伝子領域を増幅するためのDNAプライマーが、配列番号1で表される塩基配列からなるプライマー及び配列番号2で表される塩基配列からなるプライマーを含む請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記コドンを含む遺伝子領域が、被検者の組織又は体液から得られたDNAの領域である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記増幅反応はPCRを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
(【請求項11】以降は省略されています)

発明の詳細な説明【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子疾患の検出に関し、より詳細には、類似する2つの疾患を識別する方法及びキットに関する。
続きを表示(約 3,700 文字)【背景技術】
【0002】
筋肉内粘液腫 (Intramuscular myxoma, IM)は、良性の間葉系腫瘍である。豊富な粘液と低血管の間質を背景に持つ紡錘形細胞で構成されている。好発年齢は中高年であり、多くは四肢の筋肉内に発生するが皮下に発生することもある。画像的には、豊富な粘液間質を反映した信号変化を示し、血流が乏しいため造影効果が少ないことが特徴である。
【0003】
一方で筋肉内粘液腫と識別に挙がる粘液性悪性軟部腫瘍は、粘液線維肉腫(Myxofibrosarcoma: MFS)、低悪性度線維粘液肉腫、粘液型脂肪肉腫、骨外性粘液型軟骨肉腫などがある。MFS以外の腫瘍は特異的な免疫染色及び/又は融合遺伝子の検索により筋肉内粘液腫との識別が可能である。
【0004】
粘液線維肉腫は、中高年の四肢に発生する比較的頻度の高い悪性軟部腫瘍である。画像的には、筋肉内粘液腫と同様に、豊富な粘液間質を反映した信号変化を示し、造影効果は症例により様々である。病理組織学的には、豊富な粘液間質と紡錘形細胞からなる腫瘍であるため筋肉内粘液腫と似通っており、悪性度が高い場合は、筋肉内粘液腫と比較して高度な核の濃染像・異型像・分裂像を認めるが、低悪性度の場合は、そのような所見がないため筋肉内粘液腫との識別に苦慮する。筋肉内粘液腫と低悪性度粘液線維肉腫(Low grade myxofibrosarcoma: LGMFS)では治療方針が異なるため識別をつけられるツールが必要である。
【0005】
筋肉内粘液腫はGNASのミスセンス変異が存在することが報告されている。GNASは、染色体20q13.2-q13.3に存在し、13個のエクソンを含む。この遺伝子はGTP結合タンパク質(Gタンパク質)の構成成分であり、細胞のシグナル伝達に関与している。Gタンパク質はα・β・γからなる三量体で構成され、Gタンパク質共役受容体により活性化される。GNASはαサブユニットであり(GαS)、不活性型ではGDPと結合しているが、活性化によりGTPと結合し、βγ二量体とは分離する。筋肉内粘液腫では、GNASエクソン8のコドン201(R201C、R201H、R201S、R201L、R201P)、並びにエクソン9のコドン227(Q227E)のミスセンス変異を有することが報告されており、そのほとんどがエクソン8のコドン201の変異である。この変異はLGMFSでは認められないため識別に有用であると報告されている(非特許文献1)。
【0006】
しかし筋肉内粘液腫は、組織内腫瘍細胞数が非常に少なく、変異アレル頻度が低いため、GNAS変異の同定には高精度の検出方法が必要である。PCR産物を直接鋳型として塩基配列を決定する一般的なダイレクトシーケンス法(ダイレクトシーケンス分析とも言う)では、陽性率は29-50%と高くない(非特許文献1-3)。そのため近年では、次世代シーケンス (next generation sequencing, NGS)分析が行われており、88-92%と高い陽性率が報告されている(非特許文献4,5)。しかしNGS分析は高精度にGNAS変異を検出できる反面、所有できる施設が限られていることと、解析時間・コストの問題から、日常診療で使用することは検査へのハードルが高い。
【0007】
ダイレクトシーケンス法の検出感度を上げる一つの方法として、ペプチド核酸(PNA)クランピング法が挙げられる。PNAは、デオキシリボースリン酸骨格を2-アミノエチルグリシン骨格に置き換えたDNAの模倣体である。PNAプライマーが正常塩基配列に結合することで野生型アレルのPCR増幅を阻害し、結果として変異アレルを強調して増幅できる方法である。筋肉内粘液腫と同じGNAS変異を持ち変異同定が難しい線維性骨異形成・McCune-Albright症候群患者の末梢血細胞において、PNA クランピング法を併用したダイレクトシーケンス分析で87.5%の症例で変異を同定できたと報告されている(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
Willems SM et al., J Cell Mol Med 2009, 13:1291-301.
Delaney D et al., Mod Pathol 2009, 22:718-24.
Walther I et al., Pathol Res Pract 2014, 210:1-4.
Sunitsch S et al., Diagn Pathol 2018, 13:52.
Libbrecht L et al., Ann Diagn Pathol 2019, 43:151409.
Lietman SA et al., J Bone Joint Surg Am 2005, 87:2489-94.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
同じ遺伝子領域の変異アレルの有無が異なる類似の2つの疾患の効率的かつ高精度な識別方法が求められている。また、効率的かつ高精度に筋肉内粘液腫と低悪性度繊維肉腫とを識別できる方法及び検査キットが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下に記載の実施形態を包含する。
項1.
遺伝子のコドンの変異により生じる遺伝子疾患と、別の疾患とを識別する方法であって、
前記コドンを含む遺伝子領域を増幅するために増幅反応を行う工程であって、前記増幅反応において、前記コドンを含む遺伝子領域を増幅するためのDNAプライマー及び前記変異を有しない前記コドンを含む正常アレルの増幅を阻害するPNAを添加することを含む工程、及び
前記増幅反応により得られた産物に対し、前記変異を有する前記コドンを含む塩基配列又は前記変異を有しない前記コドンを含む塩基配列のいずれかを特異的に認識して切断する制限酵素を作用させ、制限酵素処理産物を得る工程、を含む方法。
項2.
前記制限酵素処理産物に含まれるDNA断片を電気泳動にかける工程をさらに含む項1に記載の方法。
項3.
前記方法は、電気泳動後に、電気泳動後に分離されたDNA断片のシグナル解析を行う工程をさらに含み、電気泳動後の前記変異を含むDNA断片に由来するシグナルが、前記遺伝子疾患の罹患可能性の指標となる項2に記載の方法。
項4.
前記遺伝子領域のコドンの変異により生じる遺伝子疾患が、筋肉内粘液腫、線維性骨異形成、膵管内乳頭粘液性腫瘍、低悪性度虫垂粘液性腫瘍、大腸絨毛腺腫、McCune-Albright症候群、及びMazabraud症候群からなる群から選択される少なくとも1種である、項1に記載の方法。
項5.
前記方法は、筋肉内粘液腫と低悪性度粘液線維肉腫とを識別するための方法であり、
前記遺伝子領域は、GNAS遺伝子の201コドンを含む遺伝子領域であり、
前記増幅反応を行う工程は、正常アレルである201コドンの増幅を阻害するPNAを添加することを含み、
前記制限酵素処理産物を得る工程は、正常アレルである201コドンを有する配列又は変異アレルである201コドンを有する配列のいずれかを特異的に認識して切断する制限酵素を作用させることを含む、項1に記載の方法。
項6.
前記制限酵素が、BceA Iを含む項5に記載の方法。
項7.
前記PNAが、配列番号3で表される塩基配列を有する、項5に記載の方法。
項8.
前記コドンを含む遺伝子領域を増幅するためのDNAプライマーが、配列番号1で表される塩基配列からなるプライマー及び配列番号2で表される塩基配列からなるプライマーを含む項5に記載の方法。
項9.
前記コドンを含む遺伝子領域が、被検者の組織又は体液から得られたDNAの領域である、項1に記載の方法。
項10.
前記増幅反応はPCRを含む、項1~9のいずれか一項に記載の方法。
項11.
遺伝子領域のコドンの変異により生じる遺伝子疾患と、前記コドンが正常アレルである別の疾患とを識別するための検査キットであって、
前記コドンを含む遺伝子領域を増幅するためのDNAプライマー、
前記変異を有しない前記コドンを含む正常アレルの増幅を阻害するPNA、及び
前記増幅反応により得られた産物に対し、前記変異を有する前記コドンを含む塩基配列又は前記変異を有しない前記コドンを含む塩基配列のいずれかを特異的に認識して切断する制限酵素、
を備えた検査キット。
【図面の簡単な説明】
(【0011】以降は省略されています)

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