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公開番号
2025006425
公報種別
公開特許公報(A)
公開日
2025-01-17
出願番号
2023107214
出願日
2023-06-29
発明の名称
電波吸収体
出願人
個人
代理人
主分類
H01Q
17/00 20060101AFI20250109BHJP(基本的電気素子)
要約
【課題】従来の発泡樹脂の電波吸収体は耐水性や耐湿性や耐衝撃性で屋外使用に適さず、従来の平面多層の電波吸収体は狭帯域で高分解能ミリ波レーダの屋外検査装置等に用途に適さなかった。よって屋外使用の好適性と広帯域性と良好な反射特性を同時に実現できる簡単な構造の電波吸収体を提供する。
【解決手段】炭素繊維を含有した非発泡の樹脂を用いたピラミッド形状もしくはクサビ形状の表面に磁性体の層を設ける。
【選択図】図1
特許請求の範囲
【請求項1】
炭素繊維を含有した非発泡の樹脂を用いたピラミッド形状もしくはクサビ形状の表面に磁性体の層を設けたことを特徴とする電波吸収体
続きを表示(約 64 文字)
【請求項2】
前記ピラミッド形状もしくはクサビ形状の内部に壁を設け、該壁の周囲を空洞とした請求項1の電波吸収体
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、近年実用化が進む高分解能ミリ波レーダ向けの広帯域なミリ波帯電波吸収体に関するもので、特に簡単な構造でありながら広帯域で良好な反射特性を有し、さらに従来の発泡樹脂を用いた電波吸収体では吸湿性や耐水性が問題になる屋外使用に好適な電波吸収体を提供するものである。
続きを表示(約 6,700 文字)
【背景技術】
【0002】
近年、77から81GHzまでの4GHzの広帯域を使用する高分解能ミリ波レーダの普及が進んでおり、合わせて、それらミリ波レーダの検査装置等に用いる広帯域な電波吸収体が求められている。
電波吸収体は電波のエネルギーを熱に変換して吸収するもので、広帯域特性が要求される場合は、特許文献1のピラミッド状や特許文献2のクサビ状の発泡樹脂に損失材料を分散させた電波吸収体が多く用いられている。特許文献1および特許文献2の電波吸収体では、発泡樹脂で構成することにより電波吸収体を構成する材料自体の表面反射を抑えるとともに、表面形状をピラミッド状やクサビ状とすることで電波が到来する空間から電波吸収体の内部に向かって等価的にインピーダンスを変化させることにより広帯域特性を得ている。そして、発泡樹脂に損失材料を分散させることで電波吸収体の内部全体で電波を吸収させて大きな反射減衰を得ている。しかしながら、発泡樹脂は水分が内部に侵入すると誘電特性が大きく変化して反射特性が劣化するので耐水性と耐湿性に問題あり、さらにピラミッド状やクサビ状の発泡樹脂は外部からの衝撃が加わると先端部が変形し易いことから屋外使用には適せず、主に電波暗室や電波暗箱の内部で使用されることが多い。
一方、広帯域特性が要求されない場合は、特許文献3の平面多層状の電波吸収体が用いられることがある。特許文献3の電波吸収体は、厚さが1/4波長となる厚さの誘電体の前面に抵抗被膜を、後面に金属反射体を配置することにより共振現象を利用して入射した電波に大きな反射減衰を与えるものである。このような構造の電波吸収体は材料を発泡する必要がないことから耐水性や耐湿性が向上し、さらに表面が平面状なことから耐衝撃性が向上し、よって屋外使用に適する一方、共振現象を利用しているので狭帯域特性となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特開昭63-200600号公報
特開平02-050497号公報
特開平05-114813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、上記従来の発泡樹脂を用いたピラミッド状やクサビ状の電波吸収体は耐水性や耐湿性や耐衝撃性の観点から屋外使用に適さず、さらに上記従来の平面多層状の電波吸収体は狭帯域特性であることから、広帯域特性が必要な高分解能ミリ波レーダの用途に適さなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の電波吸収体は、前記従来の電波吸収体の有する問題を解決するために、炭素繊維を含有した非発泡の樹脂を用いたピラミッド形状もしくはクサビ形状の表面に磁性体の層を設け、さらにピラミッド形状もしくはクサビ形状の内部に壁を設け、壁の周囲を空洞とする。
【発明の効果】
【0006】
上記の構成とすることにより本発明の電波吸収体は以下の複数の効果を同時に実現できる。つまり、炭素繊維を含有させることで材料自体の強度を向上した非発泡の樹脂を使うことで、電波吸収体の内部に水分が侵入して反射特性が劣化することがなく、さらに外部衝撃に対する電波吸収体の強度を著しく向上できるので屋外使用に好適となる。さらに、炭素繊維を含有させることで樹脂のインピーダンスを低下させ、インピーダンスが低下した樹脂の表面に接して磁性体の層を設けることにより磁性体の層の中での磁界が増加し、よって電波に対する磁性体損失を増加させることができる。さらに、磁性体の層を通過して樹脂の内部に侵入した電波に対しては、炭素繊維を含有させることで増加した誘電正接により電波に対する誘電体損失を増加させることができる。そして、ピラミッド形状もしくはクサビ形状の表面での磁性体損失と樹脂内部での誘電体損失は共振を利用しないことから広帯域な反射特性が得られる。
以上のように、炭素繊維を含有させた樹脂によるピラミッド形状もしくはクサビ形状の表面に磁性体の層を設けるという簡単な構造だけで、屋外使用に必要な耐水性と耐湿性と対衝撃性を向上させる効果と、反射特性を広帯域化させる効果と、磁性体の層での磁性損失と樹脂内部での誘電損失を増加させて反射特性を向上させる効果の、3つの効果を同時に実現できる優れた発明となっている。
なお、さらにピラミッド形状もしくはクサビ形状の内部に壁を設けて周囲を空洞とすることにより、上記の3つの効果を維持したまま電波吸収体を軽量化できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
実施の形態1における電波吸収体の斜視図
実施の形態1における電波吸収体への入射電波を示す図
自由空間と誘電体材料の境界での電磁界を示す図
実施の形態1における電波吸収体の断面を含む斜視図
実施の形態1における電波吸収体と本発明でない電波吸収体の反射特性を示す図
実施の形態2における電波吸収体の斜視図
実施の形態2における電波吸収体の断面を含む斜視図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【実施例】
【0009】
(実施の形態1)
図1は本発明における電波吸収体の1つ目の実施の形態を示している。図1において、101は本発明の炭素繊維を含有した非発泡の樹脂を用いたピラミッド形状の表面に磁性体の層を設けた電波吸収体を示しており、102はピラミッド形状の主要部、103はピラミッド形状の先端周辺部、104はピラミッド形状の先端平面部である。一般的に、ピラミッド形状とは面積が無限小の先鋭な先端部を共有する4つの二等辺三角形と1つの底面からなる立体構造を呼ぶが、実用的なピラミッド形状の電波吸収体としては先端部を有限の大きさとする必要があり、よって図1の電波吸収体101は実現可能で実用的なピラミッド形状の電波吸収体を示している。ここで、電波吸収体101は、炭素繊維を含有した非発泡の樹脂を用いることから対衝撃性が増すとともに吸収体の内部に水分が侵入しないことがら屋外での使用に適するという本発明の第一の効果を有している。
次に、本発明の第二の効果について説明する。図2は、図1の電波吸収体101に自由空間から電波が入射したときの入射電波の様子を、電波吸収体の断面方向から示している。図2において、201は炭素繊維を含有した非発泡の樹脂であり、202は磁性体の層である。また、203は図1のピラミッド形状の主要部102への入射電波を、204は図1のピラミッド形状の先端周辺部103への入射電波を、205は図1のピラミッド形状の先端平面部104への入射電波を、それぞれ示している。図2に示すように、ピラミッド形状の主要部への入射電波203は対向するピラミッド形状の側面の間で多重反射した後に入射方向に近い方向へ返り、先端周辺部への入射電波204は先端周辺部で一回だけ反射した後に入射方向とは異なる方向へ返り、先端平面部への入射電波205は一回だけ反射して入射方向へ返る。つまり、電波吸収体へ入射した電波のうち入射方向へ返るのは、ピラミッド形状の主要部と先端平面部で反射した成分となる。ここで、入射電波全体に占める各入射電波の比率は入射方向から電波吸収体を見たときの各占有面積によるが、ピラミッド形状の主要部がその大半を占めることから、入射方向へ返る電波の大半もピラミッド形状の主要部で反射した電波となる。そして、ピラミッド形状の主要部で反射する電波は、隣接するピラミッド形状の壁面の間で多重反射することで反射損失が累積して増加するとともに多重反射の回数は周波数によらないため、結果として図1の電波吸収体101は広帯域な反射特性を有することとなる。この広帯域な反射特性を実現できることが本発明の第二の効果となっている。
次に、本発明の第三の効果について説明する。図3は、自由空間と誘電体材料の境界における入射電波と反射電波の電磁界を示しており、図3(a)は誘電体材料の側から自由空間の側へ電波が入射した場合を、図3(b)は自由空間の側から誘電体材料の側へ電波が入射した場合を示しており、εoとμoは自由空間の誘電率と透磁率を、εdとμoは誘電体材料の誘電率と透磁率を、Wiが入射電波を、Eiが入射電波の電界を、Hiが入射電波の磁界を、Wrが反射電波を、Erが反射電波の電界を、Hrが反射電波の磁界をそれぞれ示している。図3(a)に示すように、誘電体材料の側から自由空間の側へ電波が入射した場合には、境界上の入射電波と反射電波の電界は同じ方向となり磁界は反対方向となる。よって、境界上で電界は強め合い磁界は弱め合う。一方、図3(b)に示すように、自由空間の側から誘電体材料の側へ電波が入射した場合には、境界上の入射電波と反射電波の電界は反対方向となり磁界は同じ方向となる。よって、境界上で電界は弱め合い磁界は強め合う。このことは、境界上に磁性体の層を設けた多層構造において、どちらの側から電波を入射するかによって磁性体の損失に差が出ることとなる。つまり、自由空間の側から電波を入射した方が、誘電体材料の側から電波を入射した場合よりも磁性体の損失が増加して反射損失も増加し、さらに誘電体材料の誘電率が高くなるほど磁性体損失の増加の効果も高まる。なお、相反原理からどちらの側から電波を入射しても通過特性は同一になる。本発明は、この現象を最大限に利用するものである。つまり、本発明は図2に示した自由空間から電波吸収体に電波が入射する状況が図3(b)に対応することに着目し、図1に示した電波吸収体101を構成する樹脂の表面に接して磁性体の層を設けるとともに、炭素繊維を樹脂に含有させている。つまり、炭素繊維に樹脂を含有させることにより誘電率を増加させて磁性体損失を増加させると同時に、炭素繊維を樹脂に含有させることにより誘電正接を増加させて磁性体を通過して炭素繊維を含有した樹脂に入った電波に対する誘電体損失も増加させている。言い換えると、電波吸収体を構成する樹脂の表面に磁性体の層を設けるだけでなく、電波吸収体を構成する樹脂に炭素繊維を含有させることにより、磁性体内部での損失と誘電体内部での損失の両方を増加させていることが本発明の第三の効果となっている。
以上のように、本発明による電波吸収体は、簡単な構造により屋外使用への好適性と広帯域性と反射特性の向上の3つの効果を同時に実現するものである。
ここで、炭素繊維を含有した樹脂としてポリ乳酸に炭素繊維を20%含有させた樹脂を、磁性体として変性アルキドに四酸化三鉄の粉体を分散させた塗料を用いた場合の例を説明する。なお、ポリ乳酸の替わりにアクリロニトリルやポリカーボネートやポリエチレンテレフタレートを用いても、さらに炭素繊維を他の比率で含有させても定量的な差はあるが定性的に同様の効果があることは言うまでもない。
図4は本発明の効果を確認するために製作した電波吸収体の構造であり、ピラミッド形状の一部の断面が見えるように示している。ここで、図4に示す電波吸収体は本発明の効果が確認できる範囲で軽量化しており、ピラミッド形状の内部に壁401を設け、壁の周囲を空洞402としている。
図5は、本発明によらない電波吸収体と本発明による電波吸収体の反射特性を示している。ここで、全ての電波吸収体は図4に示した形状であり、ピラミッド形状の周期は10mmで高さは20mmとしている。また、計算に用いたポリ乳酸の比誘電率は3.1で誘電正接は0.01であり、炭素繊維を含有したポリ乳酸については電波吸収体を3Dプリンタで製作したことから材料に異方性が出ることを考慮して3Dプリンタによる異方性を抽出する材料サンプルを別途実測した値を用いて計算している。また、計算に用いた磁性体についてみ材料サンプルを別途実測した値を用いて計算している。
図5において、501と502が本発明によらない電波吸収体の反射特性であり、503と504が本発明による電波吸収体の反射特性である。さらに詳しくは、501は炭素繊維を含有せず非発泡のポリ乳酸樹脂に磁性体の層を設けた電波吸収体の反射特性の計算値、502は炭素繊維を含有した非発泡のポリ乳酸樹脂に磁性体の層を設けない電波吸収体の反射特性の計算値、503は炭素繊維を含有した非発泡のポリ乳酸樹脂に磁性体の層を設けた電波吸収体の反射特性の計算値、504は503の電波吸収体について実際に製作したものの反射特性の実測値をそれぞれ示している。
図5に示すように、高分解能ミリ波レーダが使用する77から81GHzを中心としてその3倍の73から85GHzの12GHzの帯域幅において、本発明によらない電波吸収体の反射特性501と502は約ー20dBから-30dBの範囲であるのに対して、本発明による電波吸収体は反射特性の計算値503と実測値504が近いことが確認できるとともに約ー30dBからー40dBの範囲の値となっている。つまり、炭素繊維を含有しない未発泡の樹脂に磁性体の層を設けても、また炭素繊維を含有した未発泡の樹脂でも磁性体の層を設けなければ反射特性の向上は実現しないことが示されるとともに、炭素繊維を含有した未発泡の樹脂の表面に磁性体の層を設けた場合にのみ反射特性が向上するという本発明の第三の効果が示されている。
以上のように本発明の第三の効果が示されたことから、前述した本発明の第一と第二の効果と合わせることにより、本発明の炭素繊維を含有した非発泡の樹脂を用いたピラミッド形状の表面に磁性体の層を設ける構成とした場合のみ、屋外使用への好適性と広帯域性と反射特性の向上を同時に実現できることがわかる。
なお、本実施の形態1では使用する周波数帯域を77から81GHzとする例を示したが、受動部品である電波吸収体は誘電特性が同じであれば形状寸法と波長を比例条件で製作すれば比帯域を含めて他の周波数帯域で設計製作しても同様の効果が期待できる。
(実施の形態2)
図6は本発明における電波吸収体の2つ目の実施の形態を示しており、ピラミッド形状の替わりにクサビ形状としたものである。図6において、601は本発明の炭素繊維を含有した非発泡の樹脂を用いたクサビ形状の表面に磁性体の層を設けた電波吸収体を示しており、602はクサビ形状の主要部、603はクサビ形状の両端部、604はクサビ形状の先端平面部である。つまり、図6に示す本発明のクサビ形状をした電波吸収体は、有限の面積の先端部と両端部を有する実用的な電波吸収体の形状となっている。また、図7は図6の電波吸収体において、軽量化のためにクサビ形状の内部に壁702を設けて壁の周囲を空洞701とし、内部の断面を見せるために一部を断面した斜視図を示している。図6に示した本発明の電波吸収体が有する効果の発現については実施の形態1の説明と同様であるので説明は省略するが、実施の形態1と同様に、簡単な構造でありながら、屋外使用への好適性と広帯域性と反射特性の向上の3つの効果を同時に実現できるものとなっている。
以上、本発明の電波吸収体について2つの実施の形態を示したが、同様の他の実施の形態にも利用でき、例えば本発明の電波吸収体の表面に、耐候性を向上させるために使用する周波数の波長に対して影響が無視できる厚さで保護塗料を塗布しても本発明の効果は維持されるので、本発明が及ぶところであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0010】
以上のように本発明の電波吸収体は、簡単な構造でありながら、屋外使用への好適性と広帯域性と反射特性の向上の3つの効果を同時に実現できる。つまり、屋外使用に好適なことから、近年普及が進む高分解能ミリ波レーダを備えた自動車や建設機械や小型船舶や農業機械等の検査を屋外で行う検査装置等に好適な電波吸収体となっている。
【符号の説明】
(【0011】以降は省略されています)
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