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公開番号
2024160842
公報種別
公開特許公報(A)
公開日
2024-11-15
出願番号
2023076276
出願日
2023-05-02
発明の名称
ラミナー型回折格子
出願人
国立大学法人東北大学
代理人
弁理士法人京都国際特許事務所
主分類
G21K
1/06 20060101AFI20241108BHJP(核物理;核工学)
要約
【課題】容易に製造を行うことができる軟X線域で高効率を呈する回折格子を提供する。
【解決手段】ラミナー型の溝形状を有する基板1上に、200~543 eV域の軟X線(目的電磁波)において複素屈折率の実部がn
m
の基本膜2が該目的電磁波の浸透深さよりも十分厚い厚さで被覆され、さらに該基本膜2の上に複素屈折率の実部がn
o
の付加膜3が被覆されており、目的電磁波の全部またはその一部においてn
o
> n
m
であることを特徴とするラミナー型回折格子。このラミナー型回折格子では、付加膜3の全反射条件より大きい入射角で使用する。入射した電磁波は、エバネッセント効果により、一部が付加膜3を通り抜けて基本膜2表面に到達するが、n
o
> n
m
であるので、付加膜3の厚さによりこの境界面で回折される電磁波と付加膜3表面で回折される電磁波が強め合う現象が起き、回折効率を高める。
【選択図】図4
特許請求の範囲
【請求項1】
ラミナー型の溝形状を有する基板上に、軟X線域の200eV以上、543eV以下である目的電磁波の浸透深さよりも厚く、前記目的電磁波に対する複素屈折率の実部がn
m
の基本膜で被覆され、前記基本膜の上に前記目的電磁波に対する複素屈折率の実部がn
o
の付加膜が被覆されており、前記目的電磁波の全部またはその一部でn
o
> n
m
であることを特徴とするラミナー型回折格子。
続きを表示(約 630 文字)
【請求項2】
前記付加膜の膜厚が2 nm以上、30 nm以下であることを特徴とする請求項1に記載のラミナー型回折格子。
【請求項3】
前記基本膜が金(Au)、白金(Pt)、タングステン(W)のいずれかの金属、もしくはそれらの金属の2種以上の合金、または、前記金属もしくは合金とそれら以外の他の物質から形成された化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のラミナー型回折格子。
【請求項4】
前記付加膜がコバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)のいずれかの金属、もしくはそれらの金属の2種以上の合金、または、前記金属もしくは合金とそれら以外の他の物質から形成された化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のラミナー型回折格子。
【請求項5】
前記付加膜の膜厚h
o
が、前記目的電磁波の波長をλ、回折格子面の垂線から計った入射角をα、回折角をβとすると
h
o
= λ/(cosα + cosβ)
の前後10%の範囲内にあることを特徴とする請求項1又は2に記載のラミナー型回折格子。
【請求項6】
前記基本膜の消衰係数β
m
と前記付加膜の消衰係数β
o
が、
β
m
> β
o
であることを特徴とする請求項1又は2に記載のラミナー型回折格子。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟X線と呼ばれる、吸収により空気中を伝搬できない短波長の電磁波の内で、水の透過率が特異的に高く、科学的・技術的に、そして産業上において利用価値の高い、いわゆる「水の窓」領域において回折効率の高い回折格子の製作方法に関する。
続きを表示(約 2,700 文字)
【背景技術】
【0002】
炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)の軟X線域の発光分光分析で一般に用いられるのはK発光で、それぞれエネルギーは277 eV、392 eV、525 eVで波長は4.48 nm、3.16 nm、2.36 nmである。さらに、200 eV近辺から、酸素のK吸収線(O-K)がある543 eVまでの領域は、水の透過率が特異的に高い領域で「水の窓」領域と呼ばれ、生体物質のその場測定に重要な領域である。軟X線は、レントゲン検査等で用いるX線よりも波長が長く、紫外線に近い。そして軟X線は波長が変わると、元素によって透過しやすさが変わる。この特徴を利用すると、例えば培養液に入った生きた細胞組織の内部構造と共に組成を高いコントラストで観察できる。このため、これらの軟X線の特性を用いた「軟X線顕微鏡」が生命科学の分野で注目を浴びている。
【0003】
さらに軟X線発光分光などの、物質と光および電子線の相互作用を利用して物質の分析を行う分光分析では、微弱な光でも感度よく計測することが分析の精度を高めるために極めて重要である。特に励起X線や電子線によってダメージを受けやすい生体物質、及び、有機材料等に含まれる炭素、窒素、酸素の分析では、励起エネルギー量の増大による発光量の増加を図ることができないため、分光素子や検出器の性能向上により、低ドーズ下において試料の分析感度を向上させる技術開発の必要がある。
【0004】
このため、「水の窓」領域において軟X線の分光分析で最も広く使われている回折格子においては、分光感度の向上に直結する回折効率及びスペトラルフラックス(例えば、非特許文献1参照。)の向上を図る必要がある。
【0005】
回折格子でエネルギーが約0.1 keVから2 keV付近の軟X線(波長:12 nm~0.6 nm)を分光する場合、実用的な回折効率を得るために光を回折格子面とすれすれの方向から入射させる。回折格子の表面には通常、反射膜として屈折率nが1よりわずかに小さい物質が積層されており、高い回折効率を得るためには、回折格子面に垂直な法線方向から測った入射角αが反射膜の全反射条件であるsinα≧nを満たすようにする。
【0006】
しかしながら、回折格子の溝の効果により、回折される光は、正反射条件を満たす零次光や多くの次数光に分散されるだけでなく、表面物質内に吸収されるエネルギー成分も存在するため、測定に利用される1次数の光(又は-1次数の光)の強度は回折格子溝のない鏡の全反射の場合の強度に比較して非常に弱くなる。このため、溝形状が凹凸状のラミナー型回折格子においては、その矩形状の溝の深さ及び凹凸の山面と谷面の面積比(デューティ比)を最適化し、山面と谷面からの光が所望の回折次数の光の回折光方向で正の干渉を起こすように設計される。
【0007】
軟X線域で高い回折効率を得る方法として、回折格子溝を有する表面に低密度物質層と、それよりも密度が高い高密度物質層を交互に積層した多層膜構造を形成する方法がある。多層膜構造を形成した回折格子では、軟X線を全反射条件よりわずかに小さい入射角で入射させることにより、軟X線を多層膜構造内に侵入させ、高密度物質層で回折された光を干渉で強めることにより高い回折効率を得ている(例えば、非特許文献2参照。)。しかし、この場合、多層膜構造内に吸収されるエネルギーも大きくなるため、エネルギーの比較的低い「水の窓」領域の軟X線は膜内部深くまで軟X線が侵入できず、溝端面での散乱の発生などの理由により、多層膜構造の干渉効果を十分に生かすことができなかった。このことが「水の窓」領域において多層膜回折格子で高い回折効率を得ることを困難にしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
特開2015-94892号公報
特開2017-44556号公報
特開2018-63307号公報
【非特許文献】
【0009】
T. Hatano, M. Koike, et al., ‘Design and experimental evaluation of enhanced diffraction efficiency of lanthanum-based material coated laminar-type gratings in the boron K-emission region’Appl. Opt., 60 (16), 4993-4999 (2021)
T. Imazono, M. Koike, et al., ‘Development of an objective flat-field spectrograph for electron microscopic soft x-ray emission spectrometry in 50-4000 eV’Proc. of SPIE 8848, 884812 (2013)
小池雅人他,「DLC光学素子の軟X線への応用」, レーザー学会第471回研究会報告, RTM-14-71
柳原美広, 「軟X線領域における超薄膜の光学定数」, 放射光, 第9巻第1号, pp. 1-13 (1996)
M. G. Moharam, ‘Diffraction analysis of dielectric surface-relief gratings’ JOSA A72, 1386 (1982)
M. G. Moharam,‘Rigorous coupled-wave analysis of metallic surface-relief gratings’ JOSA A3, 1780 (1986)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
「水の窓」領域の軟X線においては、エネルギーが低いため、光学素子を構成する物質による吸収が大きく、多層膜構造を用いた軟X線用回折格子を用いて幅広いエネルギー帯域で回折効率を向上させることが困難であり、最近、主流となりつつある二次元撮像素子を用いた幅広いエネルギー帯域の回折効率の高い同時分光計測には適さない。
(【0011】以降は省略されています)
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