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公開番号2024061384
公報種別公開特許公報(A)
公開日2024-05-07
出願番号2022169298
出願日2022-10-21
発明の名称植物細胞培養用固形培地
出願人国立大学法人神戸大学,学校法人 名城大学
代理人個人,個人,個人,個人,個人,個人,個人,個人,個人
主分類C12N 5/00 20060101AFI20240425BHJP(生化学;ビール;酒精;ぶどう酒;酢;微生物学;酵素学;突然変異または遺伝子工学)
要約【課題】培養細胞の増殖効率をゲランガムと同等に維持またはそれ以上に向上させる培地固化剤であって、nptIIに対応する薬剤を失活させない培地固化剤を見出し、nptIIを含むゲノムを有する植物細胞の選抜方法を提供すること。
【解決手段】固化剤としてデンプンを含む、植物細胞培養用固形培地。
【選択図】なし
特許請求の範囲【請求項1】
固化剤としてデンプンを含む、植物細胞培養用固形培地。
続きを表示(約 530 文字)【請求項2】
該デンプンが、クズ属植物由来精製デンプンである、請求項1に記載の培地。
【請求項3】
該植物細胞が、カルスである、請求項1または2に記載の培地。
【請求項4】
該植物が、単子葉植物である、請求項1または2に記載の培地。
【請求項5】
該単子葉植物が、イネ科植物である、請求項4に記載の培地。
【請求項6】
さらに薬剤を含む、請求項1または2に記載の培地。
【請求項7】
該薬剤が、ネオマイシン、カナマイシン、パロモマイシン、G418、リボスタマイシン、ブチロシンおよびハイグロマイシンからなる群から選択される、請求項6に記載の培地。
【請求項8】
請求項1または2に記載の該培地上で植物細胞を培養することを含む、植物細胞の増殖方法。
【請求項9】
以下の工程を含む、薬剤耐性遺伝子を含む核酸を含むゲノムを有する植物細胞の選抜方法:
(1)植物細胞に薬剤耐性遺伝子を含む核酸を導入する工程、
(2)該薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤を含む請求項1または2に記載の該培地上で工程(1)で得られた該植物細胞を培養する工程。

発明の詳細な説明【技術分野】
【0001】
本発明は、植物細胞培養用固形培地および該培地を用いた植物細胞の増殖または選抜方法に関する。
続きを表示(約 3,500 文字)【背景技術】
【0002】
高等植物の有用形質は複数の遺伝子が関与する場合が多い。本発明者らはこれまでに開発した標的ゲノム領域を正確かつ大規模(~10 kb)に改変可能であるイネ遺伝子ターゲティング法を報告してきた(特許文献1)。この技術は、標的遺伝子だけでなく発現制御領域も含めた広範囲を精緻にデザイン可能であり、これを利用したゲノム編集により、複数遺伝子を多重改変できれば、遺伝子機能解析やイネ科の重要穀類の品種改良における有効利用が期待できる。そのためには、遺伝子組換えプロセスにおいて、ポジティブ選抜マーカーとして用いてきたハイグロマイシン耐性遺伝子(hygromycin phosphotransferase, hpt)に加え、第二の高効率なポジティブ選抜マーカーが必要となる。高等植物の遺伝子組換えには、ネオマイシン耐性遺伝子(neomycin Phosphotransferase II, nptII)の利用実績があるが、選抜用の薬剤(カナマイシン、パロモマイシンなど)が培地固化剤であるゲランガムの影響で失活することが知られており、適用条件が限られる。
【0003】
培地固化剤は、培地の固化に利用するゲル化剤を指し、植物細胞用培地では主にアガロース(寒天)や上記のゲランガム(多糖類ポリマー)が用いられる。植物の細胞培養に関する技術開発は1950年代に活発化し、培地組成の改良が重ねられてきたが、培地固化剤の検討例は極めて少なく、現代に至っても選択肢は主に上記の2種類に限定される。また、研究者コミュニティーでは、培地固化剤が培養細胞の状態に影響する点について、経験的に共有される事はあっても、抜本的な解決策を探る動きは見られない。上記の事情から、植物においてnptIIをポジティブ選抜マーカーとした遺伝子組換えを実施する際は、選抜培地に用いる固化剤はアガロースに限定される。しかし、アガロースで固化した培地は、ゲランガムを用いた物に比べて、植物培養細胞の状態が優れず、増殖効率が低下するケースが多い。特に、遺伝子組換え操作後の細胞は、強い外的ストレスにより状態が悪いため、nptIIがゲノムに組み込まれた細胞の一部は、選抜培養の初期にアガロースの影響で壊死する傾向がある。また、細胞増殖が遅いため選抜培養期間が長くなり、培地中の薬剤が時間経過とともに劣化しやすい。そのため、nptIIを持たない細胞が出現する(エスケープ細胞)頻度が上昇し、結果として遺伝子組換え効率が低下する。アガロースで固化した培地における培養細胞の増殖効率がゲランガムに比べて劣るメカニズムは未だ明らかではないが、培地固化剤の種類により固形培地の水ポテンシャル等の物理的特性や、化学的特性が変化していることが原因と考えられる。いずれにしても、nptIIに対応する薬剤を失活させない培地固化剤であって、かつ培養細胞の増殖効率をゲランガムと同等に維持またはそれ以上に向上させる培地固化剤が未だに見出されていない点が、植物の分子生物学的解析や、ゲノム編集等を利用した品種改良において、技術的障害となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
国際公開2020/171192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、培養細胞の増殖効率をゲランガムと同等に維持またはそれ以上に向上させる培地固化剤であって、nptIIに対応する薬剤を失活させない培地固化剤を見出し、nptIIを含むゲノムを有する植物細胞の選抜方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、培地固化剤としてデンプンを使用した場合、ゲランガムまたは寒天を使用した場合と比較して、イネカルス(ジャポニカ系統およびインディカ系統)の増殖率が向上することを見出した。また、本発明者らは、寒天に比べて、デンプンで固化したパロモマイシン選抜培地は、nptIIをマーカー遺伝子としたイネのランダム遺伝子組換え効率を向上できることを確認した。さらには、本発明者らは、寒天に比べて、デンプンで固化したパロモマイシン選抜培地は、nptIIをマーカー遺伝子としたイネの遺伝子ターゲティング率を向上できることを確認し、その効率は従来のハイグロマイシン選抜系よりも遺伝子ターゲティング効率が高かった。本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は以下の通りである。
[1]固化剤としてデンプンを含む、植物細胞培養用固形培地。
[2]該デンプンが、クズ属植物由来精製デンプンである、[1]に記載の培地。
[3]該植物細胞が、カルスである、[1]または[2]に記載の培地。
[4]該植物が、単子葉植物である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の培地。
[5]該単子葉植物が、イネ科植物である、[4]に記載の培地。
[6]さらに薬剤を含む、[1]~[5]のいずれか1つに記載の培地。
[7]該薬剤が、ネオマイシン、カナマイシン、パロモマイシン、G418、リボスタマイシン、ブチロシンおよびハイグロマイシンからなる群から選択される、[6]に記載の培地。
[8][1]~[5]のいずれか1つに記載の該培地上で植物細胞を培養することを含む、植物細胞の増殖方法。
[9]以下の工程を含む、薬剤耐性遺伝子を含む核酸を含むゲノムを有する植物細胞の選抜方法:
(1)植物細胞に薬剤耐性遺伝子を含む核酸を導入する工程、
(2)該薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤を含む[1]~[5]のいずれか1つに記載の該培地上で工程(1)で得られた該植物細胞を培養する工程。
【発明の効果】
【0008】
本発明の植物細胞培養用固形培地によれば、選抜用薬剤として従来から使用されてきたハイグロマイシン以外の高効率な選抜用薬剤としてnptIIに対応する薬剤が使用可能となり、植物の遺伝子の多重編集が容易となる。しかも、その選抜効率はハイグロマイシン系よりも高いものである。従って、本発明は、実用的な植物育種技術として有用になりうる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1は、イネの花成制御遺伝子Hd3aへの遺伝子ターゲティングベクターを用いたGFP遺伝子とnptII遺伝子またはhpt遺伝子の組み込み方法を示す図である。A: イネの花成制御遺伝子Hd3aの構造。B: Hd3aに対する遺伝子ターゲティングベクターの構造。C: GFP遺伝子とnptII遺伝子が組み込まれたHd3a遺伝子の構造。
図2は、1週間ごとに撮影した各固形培地におけるイネカルスの写真像である。
図3は、1週間ごとに測定した各固形培地におけるイネカルス重量の平均値(n=100)を示すグラフである。
図4は、デンプンで固化したパロモマイシン選抜培地で選抜された、EGFP遺伝子を導入されたイネカルスの写真像(自然光条件また蛍光条件)である。
図5は、デンプンまたは寒天で固化したパロモマイシン選抜培地で選抜された、EGFP遺伝子を導入されたイネカルスのゲノムを用いたEGFP遺伝子のPCR解析を示す図である。A: pRIT3-EGFPの構造。B: 生存カルスから抽出したゲノムDNAを鋳型としたnptII遺伝子の増幅。C: デンプンまたは寒天で固化したパロモマイシン選抜培地で選抜されたイネカルスにおける遺伝子導入効率。
図6は、デンプンで固化したパロモマイシン選抜培地で選抜された、EGFP遺伝子を導入されたイネカルスのHd3a遺伝子構造とPCR解析を示す図である。
図7は、1週間ごとに撮影した各固形培地におけるイネカルス(インディカ系統)の写真像である。
図8は、1週間ごとに測定した各固形培地におけるイネカルス(インディカ系統)重量の平均値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.植物細胞培養用固形培地
本発明は、固化剤としてデンプンを含む、植物細胞培養用固形培地(以下、本発明の培地)を提供する。
(【0011】以降は省略されています)

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