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公開番号2020005490
公報種別公開特許公報(A)
公開日20200109
出願番号2019046304
出願日20190313
発明の名称直流モータ
出願人株式会社デンソー
代理人個人,個人,個人,個人
主分類H02K 13/00 20060101AFI20191206BHJP(電力の発電,変換,配電)
要約【課題】整流子の摩耗を抑制することができる直流モータを提供することにある。
【解決手段】エンジンを始動させるスタータSに用いられる直流モータ40であって、銅又は銅99%以上の銅合金で形成された整流子20と、整流子20の表面20Aに摺接するブラシ30と、を備え、ブラシ30は、黒鉛と、銅粉と、金属硫化物固体潤滑剤とを含んだ焼結体によって構成されており、焼結体に含まれる銅粉の量は、焼結体の30〜70質量%であり、金属硫化物固体潤滑剤として、二硫化タングステンを前記焼結体の6.5質量%以上含んでいる。
【選択図】 図5
特許請求の範囲【請求項1】
エンジンを始動させるスタータ(S)に用いられる直流モータ(40)であって、
銅又は銅99%以上の銅合金で形成された整流子(20)と、
前記整流子の表面(20A)に摺接するブラシ(30)と、を備え、
前記ブラシは、黒鉛と、銅粉と、金属硫化物固体潤滑剤とを含んだ焼結体によって構成されており、
前記焼結体に含まれる前記銅粉の量は、該焼結体の30〜70質量%であり、
前記金属硫化物固体潤滑剤として、二硫化タングステンを前記焼結体の6.5質量%以上含んでいる直流モータ。
続きを表示(約 610 文字)【請求項2】
前記金属硫化物固体潤滑剤として、前記二硫化タングステンを前記焼結体の7質量%以上含んでいる請求項1に記載の直流モータ。
【請求項3】
前記金属硫化物固体潤滑剤として、二硫化モリブデンを前記焼結体の2質量%以上含んでいる請求項1又は請求項2に記載の直流モータ。
【請求項4】
前記焼結体は、さらに亜鉛を含んでおり、
前記焼結体の銅量が45質量%以下であり、かつ前記亜鉛の質量%を前記金属硫化物固体潤滑剤の総質量%で割った値が0.3以上になっている請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の直流モータ。
【請求項5】
前記焼結体は、さらに黄銅を含んでおり、
前記焼結体の銅量が45質量%以下であり、かつ前記黄銅の質量%を前記金属硫化物固体潤滑剤の総質量%で割った値が0.8以上になっている請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の直流モータ。
【請求項6】
前記ブラシは、前記整流子の回転方向に並べて配置された第1層(31)と第2層(32)とを有する多層ブラシであって、
前記第1層は、前記二硫化タングステンを6.5質量%以上含む前記焼結体であって、
前記第2層は、前記第1層より薄く、前記銅粉の量の割合が小さくなっており、前記二硫化タングステンを含んでいない請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の直流モータ。

発明の詳細な説明【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを始動させるスタータに用いられる直流モータに関するものである。
続きを表示(約 11,000 文字)【背景技術】
【0002】
近年、アイドリングストップ車が普及し、車両のエンジンをスタータによって始動させる回数が増えている。そのため、スタータに用いる直流モータのブラシの長寿命化が望まれており、ブラシの摩耗対策として種々の方法が開発されている。また、ブラシの摺動相手である整流子においても摩耗対策として、整流子の表面硬さを硬くすることが望まれている。例えば、特許文献1には、整流子の表面に、スパッタリング法やイオンプレーティング法により、TiやTaの窒化物又は炭化物を主成分とする1μm〜2μmの厚さの硬質被覆層を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特開昭59−185138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の整流子の表面には、1μm〜2μmの硬質被覆層が形成されているものの、耐久性に乏しく、長期間に亘って硬質被覆層を維持し続けることができない。つまり、ブラシだけでなく、整流子側の摩耗も課題となる。また、スパッタリング法やイオンプレーティング法では、生産性が低く、材料費が高いため、生産コストが高くなってしまう。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、整流子の摩耗を抑制することができる直流モータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の手段は、エンジンを始動させるスタータ(S)に用いられる直流モータ(40)であって、銅又は銅99%以上の銅合金で形成された整流子(20)と、前記整流子の表面(20A)に摺接するブラシ(30)と、を備え、前記ブラシは、黒鉛と、銅粉と、金属硫化物固体潤滑剤とを含んだ焼結体によって構成されており、前記焼結体に含まれる前記銅粉の量は、該焼結体の30〜70質量%であり、前記金属硫化物固体潤滑剤として、二硫化タングステンを前記焼結体の6.5質量%以上含んでいる。
【0007】
従来、整流子とブラシとの間の摺動によって、ブラシの黒鉛を整流子に転写させ、整流子の表面に黒鉛被膜を形成するようにしたスタータが知られている。この黒鉛被膜は、ブラシと整流子の間の火花の発生を抑制している。しかしながら、従来の黒鉛被膜自体の硬さはさほどないことから、整流子を摩耗から防ぐためにはあまり役に立っていない。
【0008】
また、ブラシと整流子の間の摺動性を向上させるための潤滑剤として、二硫化タングステン等の金属硫化物固体潤滑剤が用いられている。しかしながら、潤滑剤として金属硫化物固体潤滑剤を用いる場合には、ブラシの5質量%以下しか添加していない。なぜなら、一般的な技術常識では、潤滑剤としての性能を金属硫化物固体潤滑剤に発揮させるためには、その添加量がブラシの5質量%以下で十分であるとされているからである。
【0009】
本願の発明者は、より摩耗耐性を上げるための実験を繰り返した結果、二硫化タングステンを従来では想定しなかった割合以上配合することで、黒鉛被膜の硬さが黒鉛等の転写だけではない硬さになることに気が付いた。具体的には、二硫化タングステンを焼結体の6.5質量%以上配合してブラシを構成することとした。この状態で、直流モータを作動させると、通電による発熱や摺動によって、二硫化タングステンがタングステンカーバイドという硬質化合物に変化する。その結果、黒鉛被膜にタングステンカーバイドが含まれることになり、従来にはない硬さの黒鉛被膜が形成される。
【0010】
この黒鉛被膜は、予め整流子に形成するものではなく、直流モータの作動により形成されるものである。そのため、低コストで形成することができる。また、ブラシと整流子との摺動により形成され続けるため、ブラシ寿命になるまで黒鉛被膜を維持することができる。
【0011】
また、ブラシからの転写により形成された黒鉛被膜の主成分は黒鉛で、潤滑剤である二硫化タングステンのままの状態のものも存在している。そのため、形成された黒鉛被膜は潤滑性にも優れている。このように、硬さと潤滑性を有する黒鉛被膜が直流モータの作動により形成されることで、整流子の摩耗を抑制することができ、整流子の寿命を向上することができる。また、整流子の摩耗を抑制することで、整流子の偏摩耗による形状精度、すなわち、円筒整流子の場合には、真円度、フェイス整流子の場合には平面度の悪化も抑制できる。そのため、形状精度悪化による火花を抑制できるため、ブラシ側の寿命を延ばすこともできる。
【0012】
第2の手段は、前記金属硫化物固体潤滑剤として、前記二硫化タングステンを前記焼結体の7質量%以上含んでいる。
【0013】
二硫化タングステンの割合を焼結体の7質量%以上に増加させることで、さらに硬質化物質の生成を促進し、黒鉛被膜の硬さを上げることができる。そのため、整流子の摩耗をさらに抑制できる。
【0014】
第3の手段は、前記金属硫化物固体潤滑剤として、二硫化モリブデンを前記焼結体の2質量%以上含んでいる。
【0015】
焼結体に二硫化タングステンを所定割合以上含んだ状態で、二硫化モリブデンをさらに所定割合以上含むと、整流子とブラシとの摺動によりモリブデンカーバイドも生成される。二硫化モリブデンによってモリブデンカーバイドが生成される場合には、二硫化タングステンだけの場合よりも、より硬質な黒鉛被膜が整流子表面に形成される。そのため、整流子の摩耗をさらに抑制できる。
【0016】
第4の手段は、前記焼結体は、さらに亜鉛を含んでおり、前記焼結体の銅量が45質量%以下であり、かつ前記亜鉛の質量%を前記金属硫化物固体潤滑剤の総質量%で割った値が0.3以上になっている。
【0017】
従来、高温・高湿度環境下での銅の酸化を防ぐために、亜鉛を含む黄銅を添加することが行われている。その場合の黄銅の添加量は、一般的に5〜6質量%程度である。ところで、第1の手段のように、金属硫化物固体潤滑剤の含有量が多くなると、高温・高湿度環境下での金属硫化物固体潤滑剤に含まれる硫黄分による銅の硫化が顕著になる。特に、銅量が少ない場合(45質量%以下の場合)には、硫化によってブラシ抵抗が大幅に増加する。
【0018】
そこで、銅量が45質量%以下の場合には、亜鉛の質量%を金属硫化物固定潤滑剤の総質量%で割った値が0.3以上になる、つまり亜鉛の質量%が金属硫化固定潤滑剤の総質量%の0.3倍以上になるように、亜鉛を配合している。銅よりも亜鉛の方が硫化されやすいため、亜鉛を所定以上加えることで、銅量が45質量%以下の場合であっても、銅の硫化による抵抗の増加を抑制できる。そのため、ブラシの抵抗が増加することを抑制しつつ、整流子の摩耗を抑制することができる。
【0019】
第5の手段は、前記焼結体は、さらに黄銅を含んでおり、前記焼結体の銅量が45質量%以下であり、かつ前記黄銅の質量%を前記金属硫化物固体潤滑剤の総質量%で割った値が0.8以上になっている。
【0020】
金属硫化物固体潤滑剤の含有量が多く、かつ、銅量が少ない場合(45質量%以下の場合)には、硫化によってブラシ抵抗が大幅に増加する。そのため、そこで、銅量が45質量%以下の場合には、黄銅の質量%を金属硫化物固定潤滑剤の総質量%で割った値が0.8以上になる、つまり黄銅の質量%が金属硫化固定潤滑剤の総質量%の0.8倍以上になるように、黄銅を配合している。黄銅に含まれる亜鉛の方が、銅よりも硫化されやすいため、銅量が45質量%以下の場合であっても、銅の硫化による抵抗の増加を抑制できる。そのため、ブラシの抵抗が増加することを抑制しつつ、整流子の摩耗を抑制することができる。
【0021】
第6の手段は、前記ブラシは、前記整流子の回転方向に並べて配置された第1層(31)と第2層(32)とを有する多層ブラシであって、前記第1層は、前記二硫化タングステンを6.5質量%以上含む前記焼結体であって、前記第2層は、前記第1層より薄く、前記銅量の割合が小さくなっており、前記二硫化タングステンを含んでいない。
【0022】
火花の発生を抑えるため、他の層に比べて銅量の少ない第2層が用いられている。二硫化タングステンは二硫化モリブデンに比べて吸水性が高いため、銅量が少なく薄い第2層に二硫化タングステンを含有させると、高湿度環境下では、第2層内への吸水量がより多くなる。そして、高抵抗である第2層の通電発熱により第2層内の水分が急激に水蒸気化した場合に、ブラシの割れに繋がることがある。そこで、第2層には、二硫化タングステンを含まないものとした。このように、第2層には二硫化タングステンを含有しなくても、第1層で十分な硬質化合物を形成できるため、整流子を摩耗から保護できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
スタータの一部切欠断面図
整流子の部分拡大断面図
直流モータへ結線される始動回路の構成例を示す図
ブラシと整流子との摺動状態を示す模式図
整流子表面及びブラシの含有成分を示す模式図
SEMによる整流子表面及び黒鉛被膜の断面写真
TEMによる黒鉛被膜の拡大断面写真
被膜表面からの深さと硬度の関係を示す図
二硫化タングステン含有量と黒鉛被膜硬度の関係を示す図
二硫化モリブデン含有量と黒鉛被膜硬度の関係を示す図
高温・高湿度環境下に放置後の銅量とブラシ抵抗の関係を示す図
黄銅添加量比率とブラシ抵抗の関係を示す図
スタータの作動回数と表面硬度との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、車両のエンジンを始動するスタータとして具体化した構成について、図面に基づいて説明する。本実施形態のスタータは、アイドリングストップシステムを搭載した車両に用いられることが想定されている。
【0025】
図1は、スタータSの概略構成図である。スタータSは、直流モータ40と、直流モータ40の回転を減速してピニオンギヤ73に伝達する減速部50と、直流モータ40への電力の供給のスイッチとなるマグネットスイッチ60とを備えている。減速部50は、例えば、遊星歯車機構等により構成されている。
【0026】
マグネットスイッチ60は、励磁コイルと、励磁コイルの内周に摺動自在に設けられたプランジャと、固定鉄心と、プランジャに保持された可動接点と、蓄電池端子61及びもう一方の端子のそれぞれのマグネットスイッチ60内側に設けられた1組の固定接点とを備えている。励磁コイルは、例えばユーザのキー操作によってIGスイッチがオン操作されることにより、スタータSの外部の蓄電池80から図示されていないスイッチ端子に給電されてソレノイドに通電する。ソレノイドに通電されると、プランジャが固定鉄心に吸引されてシフトレバー71がピニオンギヤ73を直流モータ40とは反対側に押し出して、エンジンのリングギヤとピニオンギヤ73とが噛合う。また、プランジャが吸引されることで、可動接点が一組の固定接点に当接する。可動接点と固定接点とが当接すると、蓄電池端子61及びもう一方の端子を経由して直流モータ40にも通電され、直流モータ40の回転が、減速部50及びワンウェイクラッチ72を介してピニオンギヤ73に伝達される。
【0027】
直流モータ40は、電機子である回転子10を備えており、回転子10には、その中心に設けられた回転軸12と、回転軸12を中心としてコイル15が設けられている。回転軸12には、コイル15に接続される整流子20が設けられている。また、直流モータ40の界磁方式は、磁石界磁式となっており、界磁のための磁石16がヨークの内周面に固定されている。そして、磁石16の内側に回転子10のコイル15が配置されている。
【0028】
図1及び図2を用いて、整流子20について説明する。図2は、整流子20の部分拡大断面図である。整流子20には、周方向に等間隔で複数のセグメント21が設けられており、各セグメント21が各コイル15に接続されている。また、整流子20は、銅又は銅99%以上の銅合金で形成されている。より具体的には、銀入り銅やリン脱酸銅により形成されている。なお、整流子20は、その露出する表面20A及びその導通に係る部分が、銅又は銅合金で形成されていればよい。
【0029】
整流子20の表面20Aには、ブラシ30が摺接している。整流子20のブラシ30との摺動面には、凹凸形状を有する凹凸部22が設けられている。凹凸部22は、ブラシ30の摺動方向と平行に形成されており、凹凸部22によって、ブラシ30の摺動接触状態を安定させることができ、火花の発生を抑制することができる。
【0030】
整流子20には、ブラシ30を介して蓄電池80から電力が供給されており、ブラシ30から供給された電力をコイル15に供給する。コイル15に電力が供給されることにより、回転子10が回転する。この直流モータ40は、例えば無負荷運転時における整流子20が30m/sよりも速い周速で回転する。
【0031】
次に、図3を用いて、直流モータ40への電力供給のための回路について説明する。図3は、マグネットスイッチ60を経由して直流モータ40へ結線される始動回路81の構成を示す図である。従来、スタータSへの電力供給は、1個の鉛蓄電池を用いることが多かった。1個の鉛蓄電池を用いた始動回路では、開放電圧が11〜14Vの範囲で、配線抵抗及び蓄電池の内部抵抗を合わせた回路抵抗は、6〜8ミリΩ程度が主流である。
【0032】
一方、近年では、軽量化や充電効率を向上するために、蓄電池80として、リチウムイオン蓄電池等を用いている。例えば、蓄電池80として、図3(a)のようにリチウムイオン蓄電池(LiB)を有する構成、図3(b)のように2個の鉛蓄電池(PbB)を並列に接続した構成、図3(c)のようにリチウムイオン蓄電池と鉛蓄電池を並列に接続した構成等が用いられている。これらの蓄電池80では、開放電圧が11〜14Vの範囲で、配線抵抗Rw及び蓄電池80の内部抵抗Rbを合わせた回路抵抗Rが5mΩ未満となる。そのため、これらの蓄電池80を用いると、直流モータ40への印加電圧が大きくなり、直流モータ40の回転速度も上昇する。本実施形態の直流モータ40として、例えば、常温始動時の印加電圧が12V程度で、直流モータ40作動時の電流として100A以上流れることがあるものを使用している。
【0033】
本実施形態の直流モータ40では、火花による摩耗が発生しやすいおそれがある。一般的に、巻線磁界式よりも、本実施形態の直流モータ40のような磁石磁界式の方が、整流子20とブラシ30との間の火花発生が多くなり、摩耗も多くなる。また、リチウムイオン蓄電池等を用いる始動回路81では、直流モータ40の回転速度が上昇するため、整流子20とブラシ30との間の火花発生が多くなり、摩耗も多くなる。
【0034】
また、火花発生が多くなることによって、凹凸部22が削れやすくなるおそれがある。一般的に、凹凸部22は、整流子20とブラシ30との間の摺動によって、凹凸部22が徐々に損耗し、それに伴いブラシ30の摺動接触安定化の効果も徐々に低下する。特に、本実施形態のように、火花が発生しやすい構成では、早期に凹凸形状が損耗してしまい、ブラシ30の摺動接触安定化の効果が早期に失われる。
【0035】
そこで、本実施形態では、整流子20とブラシ30との摺動により、整流子20の表面20Aに硬質化物質を含有する黒鉛被膜25が形成されるようなブラシ30の構成としている。図4及び図5を用いて、ブラシ30の構成について説明する。図4は、ブラシ30と整流子20との摺動状態を示す模式図であり、図5は、整流子20の表面20A及びブラシ30の含有成分を示す模式図である。図4及び図5の矢印は、ブラシ30に対する整流子20の摺動方向を示している。
【0036】
ブラシ30は、黒鉛及び銅等を含んだ焼結体によって構成されている。ブラシ30は、その側面に外部に接続するピグテール35が埋め込まれている。ブラシ30は、整流子20の回転方向に並べて配置された第1層31と第2層32とを有する多層ブラシである。整流子20の回転時には、各セグメント21に対して、第1層31が先に接触し、それに続いて第2層32が接触するようになっている。その場合に、各セグメント21に第2層32が最後に接触するようになっている。第1層31は、銅の含有率が高く抵抗値が低い層である一方、第2層32は、銅の含有率が第1層31よりも低く第1層31よりも抵抗値が高い層となっており、第2層32は第1層31よりも薄くなっている。具体的には、第1層31の銅粉の量(以下、「銅量」と記す)が焼結体の30〜70質量%である一方、第2層32の銅量が、焼結体の10〜30質量%である。
【0037】
ブラシ30の第1層31は、金属硫化物固体潤滑剤として、二硫化モリブデン(MoS2)及び二硫化タングステン(WS2)を含有していることが望ましい。なお、第2層32は、金属硫化物固体潤滑剤として、二硫化モリブデンを含有し、かつ二硫化タングステンを含有していないことが望ましい。
【0038】
黒鉛と二硫化タングステン及び二硫化モリブデンを含有したブラシ30の第1層31を整流子20に摺動すると、整流子20の表面20Aに、黒鉛を主成分とした黒鉛被膜25が形成される。この黒鉛被膜25は、ブラシ30と整流子20との間の火花の発生を抑制可能であって、摩耗を抑制する硬さを有している。具体的には、黒鉛被膜25には、黒鉛の他に、金属硫化物固体潤滑剤である二硫化タングステン及び二硫化モリブデンが転写されて含まれている。また、金属硫化物固体潤滑剤である二硫化タングステン及び二硫化モリブデンが黒鉛と反応して形成された硬質化合物、具体的には、モリブデンカーバイド(Mo2C),タングステンカーバイド(W2C)等の炭化物が黒鉛被膜25には含まれている。
【0039】
図6は、SEM(走査電子顕微鏡)による整流子20の表面20A及び黒鉛被膜25の断面写真である。図6に示すように、直流モータ40が作動した後の状態では、整流子20の表面20Aに黒鉛被膜25が形成されていることがわかる。
【0040】
また、図7は、TEM(透過電子顕微鏡)による黒鉛被膜25の拡大断面写真である。図7において、破線で囲った「I」は、硬質化物質であるモリブデンカーバイドやタングステンカーバイドを示している。実線で囲った「II」は、金属硫化物固体潤滑剤である二硫化モリブデンや二硫化タングステンを示している。一点鎖線で囲った「III」は、整流子20の母材又はブラシ30由来の銅を示している。この断面写真に示すように、黒鉛被膜25には、黒鉛の他に、硬質化物質、金属硫化物固体潤滑剤、銅等が含有されている。また、図7に示すように、黒鉛被膜25の主成分は黒鉛で、潤滑剤である二硫化タングステンのままの状態のものも存在している。そのため、形成された黒鉛被膜25は潤滑性にも優れている。
【0041】
次に、整流子20の表面20Aに形成された黒鉛被膜25について、被膜表面25Aからの深さと硬度との関係について説明する。図8は、黒鉛被膜25の被膜表面25Aからの深さと硬度との関係を示す図である。図8で、実線は、本実施形態による硬質化合物を含有する黒鉛被膜25の硬度を示し、破線は、黒鉛被膜25が形成されていない整流子20の硬度を示している。また、二点鎖線は、硬質化合物単体での硬度を示している。
【0042】
ここで、図8に示す黒鉛被膜25の硬度の測定方法について説明する。黒鉛被膜25の硬度は、ナノインデンテーション測定の連続剛性測定方法(装置:Nano Indenter XP、MTS system社)により評価された。具体的には、被膜表面25Aにダイヤモンド製三角錐型圧子(バーコビッチ圧子)が、歪み速度一定0.05/s、Z方向圧子振動周波数45Hzで押し込まれた際の荷重変位曲線を解析し、硬度の深さ方向プロファイルが得られた。なお、黒鉛被膜25の硬度評価前に標準資料である融解石英で測定を実施し、深さ100nm以上にて硬度9.5GPa±5%の解析結果が得られることが確認された。
【0043】
押し込みが深くなるに従って整流子20の母材である銅の硬度が検出され、硬度が低下するため、押し込みが浅い領域に現れる硬度平坦域の値を黒鉛被膜25の硬度として検出した。測定は、整流子20の1つのセグメント21の黒鉛被膜25の堆積部における摺動方向における前方(セグメント21の幅の前半部分)の中で、縦横所定以上の間隔(例えば、縦横500μm以上の間隔)をあけて、1試料につき数十箇所(例えば、20箇所から50箇所程度)で実施された。全測定データは、所定深さ(例えば、150nm)における硬度のばらつきの幅が最も小さくなるように所定数まで順次除かれ、さらに平均化処理された。
【0044】
硬質化合物を含有する黒鉛被膜25の硬度は、従来の黒鉛のみの黒鉛被膜の硬度や整流子20の母材の硬度よりも高く、硬質化合物自体の硬度よりも低い。また、黒鉛被膜25の硬度は、深さがますにつれ、整流子20の母材である銅の硬度に漸近する。
【0045】
次に、ブラシ30の第1層31を形成する焼結体の配合割合について、図9から図12を用いて説明する。図9は、二硫化タングステン含有量と黒鉛被膜25の硬度の関係を示す図であり、図10は、二硫化タングステンを所定割合含有させた状態で、二硫化モリブデン含有量と黒鉛被膜25の硬度の関係を示す図である。図11は、高温・高湿度環境下に放置後の銅量とブラシ抵抗の関係を示す図であり、図12は、高温・高湿度環境下に放置後の黄銅添加量比率とブラシ抵抗の関係を示す図である。
【0046】
従来、ブラシ30と整流子20の間の摺動性を向上させるための潤滑剤として、二硫化タングステン等の金属硫化物固体潤滑剤が用いられている。しかしながら、潤滑剤として金属硫化物固体潤滑剤を用いる場合には、ブラシの5質量%以下しか添加していない。なぜなら、一般的な技術常識では、潤滑剤としての性能を金属硫化物固体潤滑剤に発揮させるためには、その添加量がブラシの5質量%以下で十分であるとされているからである。
【0047】
しかしながら、図9に示すように、従来からの金属硫化物固体潤滑剤としての二硫化タングステンの添加量では、黒鉛被膜の硬度の向上には寄与していない。一方、本実施形態のように、二硫化タングステンを第1層31の焼結体の6.5質量%以上、より好ましくは、7質量%以上配合する。この状態で、直流モータ40を作動させると、通電による発熱や摺動によって、二硫化タングステンが黒鉛と反応してタングステンカーバイドという硬質化合物に変化する。その結果、黒鉛被膜に硬質なタングステンカーバイドが含まれることになり、従来にはない硬さの黒鉛被膜が形成される。
【0048】
また、図10に示すように、二硫化タングステンを所定割合、具体的には7.2質量%配合した状態で、二硫化モリブデンを添加した場合について説明する。二硫化モリブデンを第1層31の焼結体の2質量%以上配合する。この状態で、直流モータ40を作動させると、通電による発熱や摺動によって、二硫化モリブデンが黒鉛と反応してモリブデンカーバイドという硬質化合物に変化する。その結果、黒鉛被膜にタングステンカーバイドに加えてモリブデンカーバイドが含まれることになり、タングステンカーバイドだけを含んだ黒鉛被膜よりも硬質な黒鉛被膜が形成される。なお、図10において、二硫化タングステンを所定割合配合しているため、二硫化モリブデンの含有量が2質量%より小さい領域であっても、黒鉛被膜に必要な硬度は確保できている。また、二硫化タングステンの質量は二硫化モリブデンの質量よりも多い方が望ましく、二硫化タングステンの質量は、二硫化モリブデンの質量の3倍程度になるのがさらに望ましい。また、金属硫化物固定潤滑剤の総質量は、黒鉛の総質量よりも少ない方が望ましい。
【0049】
本実施形態のように、ブラシ30における金属硫化物固体潤滑剤の含有量が多くなると、ブラシ30の抵抗値が増大する懸念がある。近年、アイドリングストップシステムに用いられるスタータSの直流モータ40では、ブラシ30から直流モータ40に流れる電流量を制限するため、ブラシ30の銅含有量を減少させることが行われている。このような銅量を制限した状態では、銅の酸化等による抵抗値の増大の影響が大きい。そこで、高温・高湿度環境下での銅の酸化を防ぐために、亜鉛を含む黄銅を添加することが行われている。その場合の黄銅の添加量は、一般的に5〜6質量%程度である。
【0050】
また、ブラシ30内に金属硫化物固体潤滑剤の含有量が多いと、銅が硫化して、ブラシ30の抵抗値が増加するおそれがある。そこで、金属硫化物固体潤滑剤の含有量が7.2%で、黄銅含有量5.4質量%のブラシにおける銅量を変化させて、高温・高湿度環境下で長時間放置後、具体的には、80℃、湿度90%環境下で250時間放置後のブラシ抵抗を測定した。その測定結果を図11に示している。図11に示すように、銅量が45質量%以下の場合には、銅の硫化の影響が大きくなり、抵抗値が増加している。また、この場合に従来の黄銅、つまり亜鉛の添加量では、硫化が防げていないことがわかる。
(【0051】以降は省略されています)

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